猫は知っていた、
本作は、ある過ちを犯した少年の焦燥と、そこに忍び寄る不気味な怪異を描いたショートホラー作品です。
闇の中に隠したはずの罪が、思わぬ形で暴かれていく恐怖をお楽しみください。
猫は知っていた。猫はちゃんと見ていたのだ。猫は知っていた。三郎君の顔と名前を。
猫は知っていた。三郎君の匂いを……。
三郎君が昨夜、暗い庭の土を必死で掘り返していたことも。そこに重たい麻袋を投げ入れ、息を乱しながら埋め戻していたことも。
すべては、夜の闇に紛れて行われたはずだった。警察の聞き込みにも、三郎君は震える声を抑えて「何も知らない」と完璧に演じきった。
だが、あの黒猫だけは違っていた。
縁側に腰掛けた三郎君の膝に、猫が静かに飛び乗ってくる。足元から漂う、微かな腐敗臭と湿った土の匂い。猫は鼻先をひくつかせ、三郎君の顔をじっと見つめた。
にゃあ、と低く鳴いた猫の瞳に、埋められた男の顔が映っている。
「……お前、覚えているのか?」
三郎君が怯えた手を伸ばした瞬間、猫の口が喉の奥まで大きく裂けた。その裂け目から聞こえたのは、猫の声ではない。
「――なあ、三郎君。俺の匂い、まだ消えてないだろ?」
それは昨日、三郎君が殺したはずの男の声だった。
【了】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
闇の中に隠した秘密ほど、思わぬ形で暴かれてしまうのかもしれません……。
少しでもひんやりとした恐怖をお楽しみいただけたなら幸いです。
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