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小屋の簡素な寝床に横になると、瞼が重く、眠くて堪らなくなった。
ずっと小屋の中で生活して来た私にとって、一晩のまさに夢のような時間は気力も体力も使い果たしてしまったようだ。
久しぶりにぐっすり眠ることができそう……。
そんな穏やかな眠りが妨げられたのは身体の痛みだった。
「痛い!」
「やだ、生きてたの」
鋭い身体の痛みと、鋭く痛い言葉。
横になっている私を不快そうに見下ろして来ているのは10年ぶりに会う姉だと思われる女性。
私の脇腹を蹴ったらしい。
私と目が合うと、ちっと舌打ちをされてしまう。
久しぶりに会った姉は随分体格がふくよかになっていたが、僅かに子どもの頃の姉の面影があった。
「メイドたちが珍しく食事を持って行ってもあんたが目を覚ましていないって報告してきたから、
死んだんじゃないかって楽しみにしながら見に来たの。なのに生きているだなんて……最悪だわ」
私は本当に姉に嫌われてしまっているんだな。
昨晩お会いした、王子殿下と王女殿下の仲睦まじい様子を思い出すと涙が滲む。
どうして兄弟でこんなにも違うのだろう。
「お姉様はどうして私を嫌うのですか?」
呪いが理由ならどうしようもないかもしれないけれど、思い起こせば子供の頃から姉に疎まれていた気がして、問い掛ける。
「姉なんて呼ばないで! おぞましい呪われてるアンタと姉妹だなんて思ったことないわ」
「……呪いの件の前から私のことをお嫌いのご様子ではありませんでしたか?」
私の性格のせいだろうか?
はきはき物言いをする姉からすれば自分でも分かる控えめな性格の私は疎ましかったのだろうか?
自分で自分の悪かったところはどこなのだろうかと考えて質問したのだが、姉は握った拳をぶるぶる震わせて怒りだした。
「アンタの容姿が気に入らないのよ!」
「容姿?」
「そう! 私とアンタはぜんっぜん似てない!
アンタはお父様とお母様にも似てない! 別の家の子なんじゃないの?
なのに、おじい様はアンタが生まれた時にもう死んでるおばあ様に似てるってそれはもうアンタを褒めちぎったの!
美しいって言ってね! アンタに分かる? 私は一度もそんなこと言われたことない。
お母様もそうだって言ってたわ。だからお母様はおじい様へ怒りを爆発させてこの屋敷に二度と訪れさせなくしたの!」
姉の言葉に記憶の片隅に優しくしてくれていた祖父の姿を思い出す。
おじい様とお会い出来ていなかったのはお母様が遠ざけていたからだったのね。
確かに私の両親も姉も髪の色は茶色で、瞳は黒。
髪の色も目の色も違う自分に私自身、疎外感を感じていた。
そう言えば、今は亡き祖母と同じ髪と目の色だとおじい様が話していたのを思い出す。
「だからアンタが呪われてるって分かってすごく嬉しかったわ!
なのに10年も生きて。目障りなのよ! さっさと死んでよ!」
姉からの激しい憎悪と私の死を望む言葉に胸が痛む。
辛い思いをさせてしまったことは申し訳ないと思うけれど、でも私はどうすれば良かったのか……。
頬を涙が伝った時。
【生まれ持って神より授かった容姿はどうすることも出来ない。
だが育っていく過程で心を健全に美しく生きれば自ずと容姿にも反映してくる】
「な、なに?」
重く低い声が小屋に響く。
【貴様が醜いのは日々の己の生き方によるものだ。
妹を罵倒する暇があったら、己の行いを悔やむべきだな!】
「ぎゃあ!」
姉の身体が壁へと叩きつけられる。
「ひぃ! やっぱり呪われているんだわ! もう我慢できない!
お父様とお母様にお願いしてアンタを早く殺させないと!」
姉は転げるように小屋から逃げ出していく。
呆然と見送っている私の手に、ぽすっと柔らかいものが触れた。




