賀茂真白編『孤高の少年と夜明けの唄』
本編『転生陰陽師は男装少女!?~月影の少女と神々の呪い~』もよろしくお願いいたします!
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「……どうして、こんなことに」
ぽつりと呟いた言葉は、誰にも届くことなく、空気に溶けていく。
賀茂真白、齢六歳。
彼はひどく大人びた表情で、庭の片隅にある一本の桜の木を見上げている。
季節はとうに春を終え、葉を茂らせた桜の木は、その幼い顔に影を落としていた──。
***
真白は陰陽師の名門・賀茂家の本家の次男として生まれた。
陰陽師とは、身に宿した霊力と特別な術を用いて魔を払い、人々の安寧を守る者たちのことだ。
中でも賀茂家は由緒正しい陰陽師の家系で、四神(玄武・青龍・朱雀・白虎)の加護を受けた一族だった。
真白が生まれた時、その身に宿る霊力の高さに、賀茂一族は沸き立ったという。
しかし、霊力があまりに強すぎたのか、正妻の母は真白を生んですぐに亡くなってしまった。
兄は母を奪った弟を憎み、真白も罪悪感から兄と距離を置くようになった。
賀茂本家の当主であり、一族の長でもある父は、真白を責めることはなかったが、それは愛ではなく、関心の薄さの表れだった。
父の関心は、常に後継者である兄だけに向いていた。
やがて、父は後妻を迎え、妹が生まれた。
真白はこの妹をとても可愛がり、妹もまた真白によく懐いた。
しかし、女性は陰陽師になれないというのが、この国の習わし。
それゆえに、父は妹に関心を持たず、気弱な後妻も父の言うなりだった。
兄も後継者教育に手一杯なのか、妹を可愛がる素振りは見せなかった。
(それでも、お前には愛してくれる母上がいる……)
妹の愛らしい頬を優しくつつきながら、真白は小さくため息を零した。
自分だけが、家の中に居場所がない──。
幼い真白は、既にそれを悟っていた。
***
そんな真白の日常は、ある日を境に一変する。
賀茂一族の長は、四神の加護をその身に宿す器として適合した者が継ぐ習わしで、本家の長男が適合者として選ばれるのが常だった。
適合者を選別する「託宣の儀」は、一族の中で七つを迎えた男児が行う重要な儀式だ。
兄も例に漏れず、七つの時に「託宣の儀」に参加し、本家の長男として四神の器に適合した。
このまま行けば、彼が次の長になるはずだった。
しかし、その兄が国中を襲う流行り病で急死したのだ。
賀茂一族は落胆し、新たな適合者を探す必要に迫られた。
そして、その白羽の矢が真白に立てられた。
「真白様の、あの霊力。やはり只者ではないだろう」
「きっと真白様も適合者に違いない!」
分家の者たちは、息子を側近に、娘を婚約者にと、我が子を真白に紹介し、なんとか縁を繋ごうとしていた。
彼らは真白自身を見ているのではない。
ただ、賀茂一族の次期族長候補という肩書だけを見ているのだ。
どす黒い思惑に晒され、真白は胃の腑がズンと重くなるのを感じた。
媚びへつらい、群がる大人たちのねっとりとした声が、耳の奥でざわざわと響く。
「真白様、大きくなられましたね。……どうでしょう、うちの息子を従者に」
「ご生母様もさぞあの世で喜んでいらっしゃるでしょうな。これでいい嫁を娶れば更にお喜びになるでしょう」
勝手なことを言ってくる者たちに愛想笑いを返すと、真白はそそくさとその場を離れ、庭に下りた。
憂鬱な思いでぼんやりと歩くうちに、気が付くと、庭の片隅にある一本の桜の木の下まで来ていた。
葉桜を見上げながら、気を抜けば零れそうになる涙を懸命に堪えた。
(俺自身のことなんか、興味ないくせに……)
心の中でそう呟き、袖でゴシゴシと目元を拭っていると、目の端に、庭の植え込みに隠れて泣いている少女の姿が映った。
その少女は真白と同い年か、少し年下のように見えた。
小さな背中を丸め、すすり泣いている。
真白は、驚かさないようにそっと、少女のもとへ向かった。
「どうしたんだ?」
真白が声をかけると、少女はびくりと肩を震わせ、顔を上げた。
「……っ、大人の人たち……こわい」
泣き腫らした瞳で見つめる姿が憐れで、真白は腰をかがめると、そっと頭を撫でた。
「そうだよな。オレも、怖かった。だから、逃げてきた」
ニヤッと笑いながら言う真白に、少女は目を丸くした。
「あなたも……?」
「うん。オレも。急に皆から期待されて……勝手なことばかり言われて、怖くてさ」
真白は、なぜか初対面のこの少女に本音を話していた。
少女もまた、真白に心を開いた。
「そうなの? わたくしと、おんなじね。えっと……」
「あ、オレは賀茂真白」
「あ!あなたが、お父様がおっしゃってた、真白様!?」
「うん。お前は?」
「わたくしは、菅原紅子ですわ」
「紅子か。可愛い名前だな」
こう言うと女性が喜ぶと教えてくれた、傍仕えの女房の言葉を思い出し、真白はちょっとカッコつけながら、そう言ってみた。
「……あ、ありがとうございます」
紅子は頬をポッと赤らめると、恥ずかしそうに俯いた。
まんざらでもなさそうな様子に、なぜか心がむず痒くなった。
これが、紅子が真白に恋に落ち瞬間だと知ったのは、ずいぶん後になってのことだった。
「んんっ、お前、お父上は?」
「お庭のどこかで大事なお話をしているのです。わたくし、お邪魔にならないように遊んでいなさいと言われたのですが……」
そこで、真白を付け回す大人たちと遭遇し、そのあまりの剣幕に怖くなり、ここに隠れて泣いていたのだという。
「そうか。なら、もう少しここでオレと話をしよう」
「え……。よろしいのですか? みなさま、真白様を探していらっしゃるのでは?」
「それが嫌で逃げて来たんだって」
「本当に、本当に、よろしいのですか?」
「本当に、本当に、いいんだよ」
礼を述べながら嬉しそうに笑う紅子を見て、真白も自然と笑顔になった。
この時、真白は初めて自分を必要としてくれる人間に出会った気がした。
「かくれんぼ、付き合ってくれよな?」
「ふふっ……。わかりましたわ」
にっこりと微笑むその様子は、大人顔負けの優雅さだった。
とてもさっきまで大泣きしていた幼女には見えず、真白は面食らった。
「なあ、お前、年はいくつだ?」
「まあ、真白様。女性に年を聞くものではありませんわ」
「そ、それは悪かった。女ってのは、小さくてもずいぶんマセてるんだな」
「真白様こそ、六つとは思えませんわ」
「……それ、どっちの意味?」
「さあ、どっちでしょう?」
どちらともなく笑いが零れた。
親の仕事の関係もあり、二人はそれから頻繁に会うようになった。
紅子の親からは婚約を打診されたが、真白にその気はなく、二人は穏やかに友情を育んだ。
しかし、紅子の一家が政敵の罠にはまり没落したことで、二人の交流は途絶えてしまう。
やがて再び運命が交錯する、その日まで──。
真白は、また一人になった。
***
それから三か月後、真白は七つの誕生日を迎えた。
その日、真白は一族の同い年の男児たちとともに、四神の加護の器となり、次期当主を担う資格があるかをを占う「宣託の儀」を受けた。
結果は……不適合。
真白の霊力は高く、陰陽師としては申し分ない。
しかし、器には選ばれなかった。
適合したのは、分家の従兄弟だった。
父はすぐさま従兄弟を養子に迎え入れると、真白には見向きもせず、屋敷の隅へと追いやった。
一族の者たちも、手のひらを返したように真白から離れていった。
真白の心は荒んだ。
もう、誰も自分を必要としない。
そう思うと、生きる気力さえ失せていくようだった。
真白は自暴自棄になり、陰陽師の修行もせず、昼まで惰眠を貪っては街へ繰り出した。
人を見れば式神を使って驚かせ、近所の庶民の子らを集めては、日が暮れるまで木登りや川遊びに興じた。
しかし、それでも真白は陰陽師としては天才的な才能を持っていた。
術の扱いは、下手な陰陽師よりもよほど優秀だった。
鼻歌でも歌うかのように呪文を唱えると、その手の内にあった式符が次々に式神となって躍り出る。
捕まえようとすれば強力な結界を瞬時に張るので、近づくことさえできない。
一方で、一度感情が爆発すると、膨大な霊力が漏れ出し、周囲の木々や建物がビリビリと音を立てた。
霊力の弱い人間がその力にあてられれば、その場で気を失ってしまうほどの威力だった。
そんな真白を、賀茂家の者たちは恐れながらも、厄介者と蔑んだ。
「あいつ、また問題を起こしたって?」
「一族の恥さらしめ!」
「お父上に見限られた用無しのくせに、霊力は一丁前なのが厄介だな」
「あれで、まだ七つなんだろう?」
「末恐ろしいな。器にさえ、選ばれていれば……」
真白は、その言葉を嘲笑った。
(好きに言えばいい。どうせ、オレはもう誰にも必要とされないんだ)
***
そんな真白に、ある日、一人の男が声をかけてきた。
式神を使っていたずらに精を出していた真白の首根っこを捕まえて、男は呆れたように言った。
「……やれやれ、何をやっとるんだ、坊主」
「は、離せ!」
「術をそんなくだらんことに使うでない」
男の言葉に、真白は全身に霊力を巡らせて反発する。
「うるさいな!放っておけよ!」
言葉と同時に、真白の体から静電気のような光が迸った。
「……ほう。力は本物だな」
男は真白の霊力に目を細め、感嘆した。
そして、次の瞬間、男が何か呟くと、真白の霊力はあっという間に霧散した。
「な!?」
何が起きたのかわからず、真白は茫然と男を見上げた。
「──だが。ちいとばかり、やんちゃがすぎるのう」
ニヤリと笑われて、真白は我に返った。
「離せったら、このクソジジイ!」
「はっはっは、元気なチビだ」
「誰がチビだ!」
男は真白の生意気な態度を意に介さず、朗らかに笑う。
真白は、この男が誰なのか、全く見当がつかなかった。
「お前さん、わしの弟子にならんか?」
真白の首根っこを捕まえていた手を離し、男は唐突に言った。
真白はポカンとして、目をしばたたいた。
「は?……いきなりなんだよ、おっさん。オレが誰か知ってて言ってんの?」
「賀茂本家の次男坊だろう」
男の言葉に、真白は自嘲的な笑みを浮かべた。
「へえ。なら、オレが落ちこぼれなのも知ってんだろ?」
「わしはそうは思わん。お前さんの陰陽師としての才には、目を見張るものがある」
真白には、男の言葉が信じられなかった。
器に選ばれなかった。
それが己の才能の限界を示しているのだから。
「……オレの何を知ってんだよ」
「わしも陰陽師の端くれ。お前さんのことは、それなりに知っておるよ」
「ふうん。……アンタが誰かは知らないけど、慰めなら要らないぜ。これでも分をわきまえてるつもりなんだ」
真白の言葉に、男は悲しそうな目を向けた。
「ちびっこいのに冷めとるのう」
「だから、チビ言うな!」
真白は男の言葉に苛立ちを覚えた。
だが、次の問いかけに、心を抉られた。
「悔しくはないのか?」
真白は、言葉に詰まった。
悔しくないはずがない。
「……悔しがったところで、何も変わらねえもん。オレにはもう価値はないんだ」
「それが賀茂家の判断か。まったく、お前さんに価値を見出せないとは、賀茂家にはボンクラしかおらんのか」
真白は思わず吹き出した。
「ボンクラって……。本当に、オレにそんな価値はないんだって」
ひとしきり笑った後、真白は真面目な顔に戻って言った。
「それに、おっさん。陰陽師なら賀茂家を敵に回さない方がいいよ」
「ふん、賀茂家がなんだ。怖くもなんともないわ。何を隠そう、このわしは“稀代の陰陽師・安部清晄”、その人なのだからな!」
「え!? アンタが、あの有名な、安部清晄!? 荒神・スサノオ様を封印したっていう、あの英雄!?」
真白は驚きを隠せない。
目の前のこのふざけた男が、国で一番有名な陰陽師だと、誰が思うだろう。
「ふふん。もっと褒めてもよいのだぞ?」
「……なんか、思ってたのと違う」
自分から「稀代の」と冠する英雄とは。
勝手に謙虚な聖人君子を想像していた真白は、その落差に戸惑った。
「おいこら、なぜそんな残念な目で見る?」
「はあ……まあいいや。なら、なおさら、敵の家の息子を弟子にしちゃダメだろ」
清晄は首を傾げた。
「敵ねえ……わしはそんなつもりはないんだがなあ」
「父上は完璧主義だし、何でも一番じゃなきゃ気が済まない人だから」
「難儀な性格だな。それにしても、お前さんのその口ぶり。まだ七つとは思えんな」
「それ、褒めてんの?」
「いいや。子どもは子どもらしく、自然体が一番だ」
目を細め、清晄は真白の頭を撫でる。
「……子どもらしくなくて悪かったな。てか、子ども扱いすんな」
小さく呟かれた言葉に苦笑しつつ、清晄は再び真白の頭を撫でた。
今度は、拒否の言葉はなかった。
口を尖らせながらも、目元は嬉しそうだった。
この子はきっと愛に飢えているのだ。
大人として見て見ぬふりはしたくなかった。
それに、この才能を放置しておくのは危険だ。
国の損失にもなる。
何より、陰陽師として、この幼き才能を存分に伸ばしてやりたいという想いがあった。
「まあ、達観せざるを得ん環境だったのだろうな。だが、真白。だからこそだ」
「え?」
不意に名を呼ばれ、真白は弾かれたように顔を上げた。
「すごい陰陽師になって、アホな父上や一族を見返してやれ」
清晄の言葉は、真白の心に温かな雫となって落ちていく。
「ふはっ……アホなって……父上にそんなこと言う人、初めて見た」
「で、どうだ?」
真白は、清晄の顔をじっと見つめる。
この大人を、信用していいのだろうか。
少し迷った後、真白はためらいながら口を開いた。
「……オレに、できるかな?」
「お前さん次第だな」
その言葉は、飄々としているのに、力強かった。
もう一度、前を向こう。
この可笑しな英雄を、信じてみよう。
伸ばされたこの手を、掴んでみよう。
真白の瞳に、光が宿った。
「……わかった。いや、わかりました。よろしくお願いいたします、師匠!」
「うむ、いい返事だ」
それから、真白は清晄に連れられて、安部家の屋敷に向かった。
「父上、貴方はまた……。犬猫ではないのですよ? 賀茂本家の次男殿を勝手に連れて帰ってくるなんて、大丈夫なんですか……?」
息子である安部清耀が、呆れたように言う。
清晄は豪快に笑った。
「なに、夕刻には家に帰す。それに、弟子にしたのはここだけの秘密だ……守れるな、真白?」
「はい! 誰にも言いません!」
「はっはっは。それでよい。バレると何かと面倒だからのう!」
「お言葉ですが、父上。いつまでも隠し通せるものではないと思いますが?」
「お前は相変わらず心配性だのう。禿げるぞ?」
「禿げません! 父上があまりにもいい加減すぎるのが悪いのですよ!?」
真白は、そんな二人のやり取りを、楽しそうに、そして少しだけ羨ましそうに眺めていた。
こうして清晄の弟子になった真白は、清耀の弟弟子として、ともに修行に励むようになった。
幸か不幸か、賀茂家が真白から興味を失っていたことと、隠蔽の術を用いたこともあり、師弟関係が発覚することは、終ぞなかった。
***
それから一年の月日が流れ、安部家に新たな弟子がやってきた。
朔夜という名の少年だった。
年は真白のひとつ下。
朔夜は安部家の養子として迎えられ、安部朔夜と名乗ることを許された。
師匠たちと家族になれることが羨ましくもあったが、「安部」を名乗りたいわけではなかった。
賀茂家の歴史には敬意を抱いている。
賀茂真白と名乗ることは、真白にとって誇りでもあった。
緊張しているのか、朔夜は真白をチラチラと盗み見ては、指先をモジモジと動かしている。
その細くて頼りない体つきと、どこか諦めたような雰囲気に、真白は知らず、かつての自分を重ねた。
聞けば、朔夜は流行り病で両親を亡くし、天涯孤独の身の上だという。
真白は元々面倒見の良い性格だったが、それを聞いて、余計に放っておけなくなった。
(こいつはオレが守る!)
そう意気込んで、真白は声をかけた。
「オレは真白、賀茂真白だ! わからないことがあればオレに聞けよ!」
朔夜は、真白の勢いに戸惑いながらも、慌てて自己紹介をした。
「……あ、は、はい。えと、朔夜、です。よろしくお願いします」
「おい、元気ねえな。もっと気合い入れろって。そんなんじゃ妖魔どもになめられるぞ!」
「す、すみません……」
「あと、敬語もいらねえ。オレ、堅苦しいの苦手なんだ」
「え、えと、ごめん?」
すかさず清耀が、真白をたしなめる。
「真白、君はもっと礼節をわきまえなさい。いきなりグイグイ行き過ぎだ」
「えー」
「えー、じゃない。まったく……朔夜が困っているじゃないか。朔夜、ゆっくり慣れていけばいいからね」
「……はい、清耀兄様」
嬉しそうに答える朔夜に向かって、優しく微笑む清耀をジロリと睨み、真白は不満げな表情を浮かべた。
「清耀兄ちゃん、こいつに甘すぎじゃね!?」
そこへ、清晄が背後から物音も立てずに近付き、真白の頭をペチリと叩いた。
「こりゃ、真白。新入りを虐めるでないわ!」
「痛っ! 師匠、殴ることないじゃん!」
「兄弟子なら、もっと弟弟子に優しくせんか」
「てか、虐めてねえし! なんだよ、師匠まで甘々なのかよ」
「ふふん。どうだ、うちの子、可愛いだろう?」
「もう親バカしてんのかよ……」
「父上はどちらかというと“バカ親”ですがね」
「清耀は相変わらず辛辣だのう……」
「清耀兄ちゃん、あとで面倒臭くなるからそれくらいで。……まあ、確かにこいつ、可愛い顔してるしな」
三人のやり取りを、なんとも言えない表情で見つめていた朔夜は、真白にじっと見つめられ、顔を赤くした。
「ふえっ!? か、か、可愛くなんかない! ぼ、僕は、お、男だし!」
「なに焦ってんだよ、変なヤツ。男なのはわかってるって。まあ、確かに男が可愛いとかあれかもだけど、得するならいいんじゃね?」
「え!?あ、えと……ありがとう?」
真白はニカッと笑い、右手を差し出した。
「これから、よろしくな!」
幼いながらも、元来の顔の良さに爽やかさが加わり、いい男になりそうな空気を醸し出していた。
そんな笑顔を向けられた朔夜は一瞬固まったが、すぐにその手を握り返し、ふわりと微笑んだ。
(うおっ……マジで可愛いな、こいつ)
心臓がドキリと鳴ったが、真白はすぐに頭を振って、その想いを打ち消した。
こうして兄弟弟子になった真白と朔夜は、順調に友情を育んでいった。
二人は切磋琢磨し、陰陽師としての才能を磨いていく。
そうしているうちに、真白は自分に価値を見出せるようになっていった。
やがて、二人は揃って史上最年少で陰陽寮に入寮した。
陰陽寮は、優秀な陰陽師だけが所属を許される国家機関だ。
朔夜は師匠の清晄と同じく「稀代の陰陽師」と呼ばれ、真白も「天才陰陽師」として名を馳せることになる。
陰陽寮入寮の知らせと共に、父親が使いの者を通して何やら言ってきたが、すべて無視した。
かつて真白を見限った賀茂一族の者たちも再びすり寄ってきたが、一切取り合わなかった。
「追い返しちゃって、よかったのか? 賀茂家って名門だろ?」
朔夜が心配そうに尋ねる。
真白は、空を見上げて言った。
「いいんだよ。オレには賀茂家のシガラミなんて邪魔なだけだ」
後妻は夫の仕打ちに耐えかね、妹を連れて実家に帰った。
今は二人とも幸せに暮らしていると聞いて、何の心残りも無くなった。
賀茂家に、居場所はもういらない。
「妹は元気にしてるみたいだし、それ以外はどうでもいい」
朔夜は真白の言葉に、安堵の表情を浮かべた。
真白は朔夜に視線を戻し、優しく微笑んだ。
「オレには師匠と清耀兄ちゃんと……お前が居てくれればいいんだ」
「真白……」
「これからも、よろしく頼むぜ、親友!」
「うん、こちらこそ!」
互いの存在が、かけがえのない居場所になった瞬間だった。
やがて、真白は朔夜のとんでもない秘密を知ることになるのだが──。
それでも、ここから始まった二人の絆は、決して揺らぐことなく。
むしろより強固な運命となって、永く永く、続いていくのだった。