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六章 -メッセージ-

「へ〜、じゃあこの金網の穴も」

「そうなんです。皆がこじ開けて…」

「こっわ!力強過ぎんだろ!!剛と憑依された奴が腕相撲したらどっちが勝」

「…カットで頼む」

「はいよー。裕介もうちょいマイルドにねー」

「ごめん」


 こんな感じで裕介がたまに口を滑らせては剛や私が嗜めたりカットを要求するといった流れが続いた。

 咲希も裕介も本当によく喋る。

掛け合いが面白くてファンが増えるというのも何となく分かる気がする。倫理観はどうかと思うけど。

 敦弘もたまに静かにツッコミ入れたり、さっきみたいに話題の誘導や歩くスピードを指示している。この調子だと編集も大変ではないんだろうか。敦弘にそう聞いてみた。


「んー、確かに大変だけどね、楽しみながら出来るしガチで声や人影が入ってる時もあるから演出のしがいもあるし、三人で分担してるからそこまで苦は無いね」

「へー…、そうなんですね。因みに一本どれくらいで編集するんですか?」

「大体九時間から十時間くらいかね」

「「じゅ、十時間!?」」


 私と剛は同時に驚きの声を上げた。

せいぜい一時間以内で済むかとばかり思ってた。私はYouTubeはボーッとして動画を観たり、作業用で配信を観ることが多いのだが、実際に当事者と話すと裏で様々な努力をしている人が居るんだなと思わず感心してしまった。


 居ないとは思うけど、この章からこの話を読んで「一般人がYouTubeの裏側を学ぶ物語?」なんて思ってる人、違うからね。


 そんなこんなで池の周囲は無事に探索し終わった。私も剛も、三人や互いがいつ憑依されても直ぐに助けに行けるようにと身構えていたが、どうやら杞憂だったようだ。

 とはいえ気を抜く訳にもいかない。寧ろ私達にとっては次が本番だ。


「はい、取り敢えず池周辺は終わりかね。一旦皆お疲れ様だね」

「おつかれ!」

「ふぃ〜、蓮美も剛くんもおっつ〜」

「はい」

「ああ」


 三人のテンションと比べて何て暗くて淡々とした返事なんだろうか…。有難いことに三人ともその辺はスルーしてくれた。

 私は彼等に向き合い、告げた。


「じゃ、廃村探しに行きましょう」

「分かった〜。レッツラゴ〜」


 咲希は相変わらず乗り気だが、敦弘が心配そうな顔して聞いてきた。


「ねぇ蓮美、その廃村とやらの場所、マジで今も場所は不明なのかね?蓮美流の動画盛り上げ法とかではなくて?」

「そう…ですね。私達も“昔村があった”って事しか知らなくて。で、わずかな手掛かりでも無いかなと思って…」

「なるほどね。さっきも学年聞いたけど、こないだ入学したんだよね?つまりゼミの研究とかでも無くて純粋に、その…」

「…ですね。負の連鎖を止めたくて」

「そっか…。ごめんね。うちの裕介があんなんで」

「いえいえ、裕介君も悪気が無いのは分かってますし動画を盛り上げたいが故ってのも伝わりますので」

「やー、本当に良い子だね蓮美ちゃんは」


 剛が「俺も今は気にしてない」って顔でチラッと見てきた。


 少し休憩してから私達は雑木林へと向かう。

日は西の彼方に沈み始めたが、今更歩みを止める訳にもいかない。幸いな事に全員が懐中電灯を持っていた為、遭難する心配も無さそうだ。

 来た道を引き返す事さえ出来ればだが。


 林の手前で一度深呼吸し、私達は鬱蒼とした木々の間に入って行く。



 しばらく歩いたところで剛が立ち止まった。

懐中電灯で足元を照らしてる。


「どうしたの?何かあった?」

「見ろよ、これ。石畳にも見えなくないか?」


 だいぶ苔や雑草に覆われているが、よくよく見てみると確かに石畳のようにも見える。それは林の奥へと続いていた。


「村の痕跡とまでは言えないが、これを見る限りだとかつてここに人の往来があったって事になるな」

「うん。もっと奥へ行ってみようか」



 しばらくすると道から少し離れたところに壊れかけの民家を見付けた。壁や屋根は所々に穴やひびが入っていたが、まだそこまで腐食も進んでおらず今直ぐ倒れそうな雰囲気も感じもない。


 ただ、問題は内部だ。

玄関らしきところに大量の衣類が散乱していた。

奥へと繋がっている廊下にも物が乱雑に積み重なっており、奥に入れそうに無い。


「水野、これ、例の河童とは関係無いよな?」

「うん、服も現代のやつっぽいし…あ…」

「どうした?」


 私は大量の衣類の中に一枚の紙切れを見付けた。急ぎと恐怖の中で書いたのだろう。震えたような筆跡でこう書かれていた。


『これをよんだ奴へ。すぐににげろ。あのカッパやろうにぜったい気をつけろ』


 私と剛が目を見合わせていると、背後で敦弘が言った。


「ねー、裕介は?誰か見とらんかね?」


 嫌な予感がした。

私達は手分けして彼の名を呼び探したが、返ってくるのは沈黙だけだ。


「裕介、どこ言っちゃったんだろ。勝手に撮影抜けるなんて裕介らしく無いよ〜」

「まずい、池かもしれねぇ…。走るぞ」


 私達は全力で三禍夜池に戻った。

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