五章 -新たな出会い-
「お?先客かね?こんちはー」
「おー、可愛い女の子もいるやん!」
「同業かな?」
三人の男女が背後から声を掛けてきた。
私と剛が固まっていると、三人のうちの一人である女性が挨拶してきた。
「こんにちは。急にごめんね。びっくりさせちゃったかな。私達YouTubeの撮影で来てんだよね」
「YouTube?もしかしてYouTuberの方々ですか?」
「そうそう。私達“もずく連合”ってグループでやってるの。私は咲希。飯山 咲希。よろしくね」
咲希と名乗る女性は所謂ギャルだった。
ギャルと言っても夢香とはまた別のタイプで咲希はどちらかと言えばセクシー系と言われるタイプだろう。
肩やヘソが大胆に露出した服を身に纏い、肩から垂らしたウェーブがかった黒髪は艶が凄い。
咲希が他の二人を紹介してくれた。
最初に声を掛けてきたのが村上 敦弘。少しボサついた金髪に、派手なシャツを着ている。かなりの長身で剛よりも背が高い。
もう一人、つまり私の事を“可愛い女の子”と言ってきた青年は原 裕介。ニューヨーク・ヤンキースの帽子を阿弥陀被りにし、片耳にピアスを着けている。
私達も簡潔に自己紹介した。
その後彼等としばらく話したのだが、どうやらこの「もずく連合」なるYouTuberグループは心霊スポット探索や廃墟探索をメインジャンルとして活動しているらしい。
登録者数は一桁万人で大手とは言えないが、三人のキャラや掛け合いが視聴者にウケが良いらしく、順調にファンが増えているらしい。
「じゃあ、飯山さん達も三禍夜池に?」
「咲希でいいよー。そうそう、心霊系の探索動画求めてる視聴者最近多くてさぁ。ね?敦弘」
「そうだね。咲希のファンは特にそう。“ギャルが怖がってるのかわいい”とか求めてる子が多いから需要あるからね」
彼等があまりにも普通に話してるもんだから、私はこの池の噂について知ってるかを聞いてみた。
咲希が答える。
「自殺者が多いってぐらいかな。後は霊の目撃情報が多いってぐらい」
だろうなと思った。
良二の死がそこまで公にされていないのか、知らない人の方が多いんだろう。
咲希がある程度話した直後に裕介が被せてくる。
「ぶっちゃけガチ霊が出なくても雰囲気と咲希のビビりで視聴数稼げるから噂とか由来とか二の次なんだけどな」
裕介が言い終わらないうちに剛がおもむろに口を開く。
「辞めといたほうがいいぜ。悪い事は言わねーから」
一瞬三人の顔が引きつったが、直ぐに彼等ははしゃぎ出した。
「いいね。こういう忠告それっぽいね。導入に使いたいね」
「蓮美と剛マジ最高!一緒に撮ろ!探索しよ!」
「くぅーっ!YouTube分かってるやん!可愛い子ちゃん、一緒に回ろうや!」
剛が私を見てくる。
「こいつら巻き込みたくは無いんだが、どうすれば…」と言いたげな助けを求めるような気持ちと、「駄目だこいつら…」と言いたげな呆れた気持ちが混ざり合った何とも言えない表情だ。
一応私達は良二の事も伝えたのだが、それを聞いてもなお三人の心境は変わらなかった。
仕方無い。彼等三人だけだと以前の私達のように犠牲が出るかもしれないし、顔をモザイクで隠す事を条件に私達も一緒に撮影で回る事になった。ちゃんと私達の目的の廃村探しにも手伝ってもらおう。
後から知ったのだが、この三人も私達と同じ大学だった。三人揃って一年留年したらしく学年は私達と一緒だそうだ。
咲希が嬉しそうに仕切る。
「じゃ、先ず自己紹介と二人の紹介も撮ろうか。敦弘、カメラお願い。蓮美と剛は私の両隣に立って」
「さん、にー、いち、スタート」
敦弘のカウントダウンが終わると同時に一気に雰囲気が変わった。
「こんこんばんばんもずく連合〜。セクシーギャルの咲希でーすっ」
「うぃー!裕介や!」
「こんちはー。カメラマンの敦弘ねー」
「今日はね〜、三津原駅から歩いて十分ぐらいのところにある三禍夜池にきてまーす。なんか自殺者多くて幽霊たくさん居るっぽいよ〜。私達だけじゃヤバいかもだから、今日なんとゲストいんの!じゃ、先ず女の子からっ。ハイ!」
咲希に促され、私は挨拶する。
先に言わせてほしい。これでも頑張った。
「えと…こんにちはー…、蓮美です…。よ、よろしく…お願…です。はい。うん」
耳まで熱くなった。
YouTuberの挨拶ってこんなにも緊張するものなのか。咲希から渡されたバトンを落とすまいという気持ちの焦りと、カメラを向けてくる敦弘の無言の圧にもう少しで押し潰されるところだった。
「蓮美ありがと〜」
「何から何まで可愛い女の子やな!じゃ、ムキムキの兄ちゃんいってみよっ」
「よっ、剛だ。よろしくなっ」
「キャ〜、剛くんクールでかっこいい!守られちゃう〜」
自己紹介が済むと、敦弘がカメラを下ろして言った。
「じゃ、次は池の話をするからね、矢吹くんさっきみたいに忠告してくんないかね?あまりシリアスになり過ぎないようにね」
「…分かったよ」
剛が不服そうに答えた。
無理も無い。良二の死をエンタメに利用されているようなものだ。でも今回ばかりは仕方無い。彼等を生還させるためにも早く終わらせて池から離れて廃村探しに行かなくては。
撮影は進み、咲希と裕介が池について話してるところに剛が警告し、もずく連合の三人は大袈裟に驚く。これがプロと言われたらそれまでかもしれないが、何だかな…。
導入も撮り終わり、敦弘が私達に言う。
「うん、お疲れ様だね。なかなか良かったね、二人はYouTube経験者だったりするかね?」
「違います」
「へー、そうなんだね。初めてには思えないくらい喋れてたね。じゃ、そろそろ探索したいんだけどね、先ずは池の周辺、そして君達が言ってた廃村探しをして、最後にこの池を背景にしてエンディングを撮るって流れでいこうかね。時間も丁度夕方だね、暗くなりかけと夜が一番画になるからね。あ、探索中や廃村探しの時は普通で良いからね。もし個人情報とかまずい話はカットするし、完成した動画を確認してもらったりもするからね。あとは僕らの名前の呼び方さえ気を付けてもらったら…」
「あの、一応皆さんに忠告しておきたいのですけど」
私は出来る限り真面目なトーンで彼等に伝えた。
「さっきも話した通り、私達の友達がここで亡くなっています。他にも地元の方や捜索隊の方も。警察の方が言うには皆さん取り憑かれたように池に入ってしまうんだそうです。友達もそうでした。ですから、もし違和感を感じたり、互いの微妙な変化に気付いたら直ぐに私達に伝えて下さい」
この“真面目なトーン作戦”が成功したのか、彼等は今度は理解してくれたみたいだ。
敦弘が再びカメラを向けると直ぐに調子が戻ったが。
そして私達は池での撮影を開始した。




