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四章 -もう一度-

「ゆめのせいだもん…。ゆめが三禍夜池に行きたいって言ったから、りょーくん死んじゃったもん…」


 私と翡翠は泣き続ける夢香を慰めていた。

あの事件から一週間が経ったが夢香は責任を感じているのか大学に来ずアパート部屋で塞ぎ込んでしまった。一応食事や入浴といった最低限の事は出来るらしいが、それ以外は手付かずだ。


 翡翠が優しく言い聞かせる。


「如月さんのせいじゃないよ。如月さんは必死に探してくれてたし、相川くんもその辺分かってくれてると思う」

「でも…」

「大丈夫、大丈夫。ね?私達もついてるし、矢吹くんも如月さんを責めたりしてないし、寧ろ心配してくれてたから。ゆっくりゆっくり立ち上がっていこう?」

「うん…ありがとひーちゃん…」

「いいえ」


 ニッコリと微笑む翡翠。

心なしか夢香の表情にもほんの僅かにだが明るさが戻ったような気がした。


 それにしても、良二のあれは一体何だったんだろうか。あれから剛や翡翠と話したのだが、心霊現象による憑依のようなものではなかろうかという結論に至った。

 だとしたらやはり池の周囲で目撃されている霊の仕業なのか、つまり、良二と同じように池に身を投げた人々が良二を連れて行ってしまったのか。


 あの池での過去の出来事を探れば何かが見付かると思い各々調べてみたのだが、ある一つのキーワードに行き着いた。


“河童”。


 三禍夜池の「三禍夜」は、その昔池の中に棲んでいた一体の河童が周辺の村に住む村人達を三日三晩かけて襲撃し全滅させたという伝説からきているようだ。


 しかし、その村が実在したという痕跡は無く、この河童の伝説以外での村についての記録は存在しない。

 あの日行った池の周囲には雑木林があった。

その林の奥深くにもしかしたら廃村でもあるのかもしれないし、その中に池に関する記述が残されている可能性もある。


 夢香はもうしばらくの間は何処にも連れていけそうにない。翡翠には彼女の傍で面倒を見てもらうことにしよう。



 数日後の休日、私と剛は再び三津原駅へと降り立った。

 今回は以前のようなラフなピクニックスタイルではなく、二人とも迷彩柄を取り入れたアウトドアスタイルだ。私達はしばらく互いの服装を見つめ合い、ちょっと気合い入れすぎたかなと笑い合った。


 直ぐに今回の旅の目的を思い出し、三禍夜へと神妙な面持ちで足を進めた。


「如月の奴、大丈夫そうか?」

「うん…。大分落ち着いてはきたみたい。だけど、まだ学校には…」

「そっか。無理もねぇよな」

「翡翠が夢香んちによく様子見に行ってくれてるんだけど、ご飯はちゃんと食べれてるみたい」

「食欲あるんならひと安心…か?」

「かなぁ。今度剛からもひと言声かけてあげて」

「おう。相川の野郎、女の子悲しませやがって」


 読者の皆さんは思った事だろう。

“犠牲者が出た上に学校で危険性についての講義も受けたはずなのに、何でこいつらはまた三禍夜池に行くんだ?”と。


 確かに危険性について十分承知しているが、私達のせいで一人の青年が命を落としたのは事実であり、彼への弔いの意も込めてこの事件の真相を突き止め、根を断ちたいのだ。 

 もちろんこれは私だけの意思じゃなく、翡翠も夢香も剛も皆同じ思いを抱いている。


 しばらく歩いていると三禍夜池が見えてきた。


「水野、何か違和感覚えたらすぐに言え」

「うん。剛もね」


 互いに注意し合って、池の周辺から探索しようとした時だった。

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