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二章 -集合-

 翌日の入学式は特に何の問題もなく終わった。

私と翡翠はそのままの姿でスーツを着ただけだったけど、夢香はまつ毛はナチュラルで黒染めした髪をポニーテールにしていた。


 肌は褐色のままだけど、黒髪と服装が先日の夢香とは別人過ぎて私と翡翠はちょっぴり吹き出してしまった。


「え、ちょ、何笑ってんのー!?」


 口調がギャルのままだからそれがまた可笑しくて、今度は声を上げて笑ってしまう。


「髪色、これからもそれで行くの?」

「まさかー、また今日直すよ」

「え、今日?」

「うん。落ち着かいんだよねー黒髪」

 

 ギャルって大変だなって思った。


「あ、そうだ!はすみん、明日だったよね?」


 入学式が終わった後に夢香が聞いてきた。

この“はすみん”は私の事らしい。因みに翡翠は“ひーちゃん”。


「明日?…あ、三禍夜池みつかやいけだっけ?」

「そーそー!忘れてたっしょー?」

「うん」

「即答じゃん。ひーちゃんも行くよね?」

「わ、私は…うーん、まぁいっか、行こうかな」

「そう来なくちゃ!楽しみー。お弁当何にしよっかー」


 夢香はピクニック気分で楽しそうにしているが、この「三禍夜池」と言うのはその辺の心霊スポットの比にならない程恐ろしい池みたいで、近隣住民は近づく事は勿論、話題にすら出したがらないらしい。


 実は私達三人は例の交流会の時にとある約束をした。

 入学式の翌日、つまり明日皆で心霊スポットに行こう、と。元々翡翠が興味津々で私の廃墟や心霊スポット語りを聞いていただけだったのだが、翡翠と同じく興味が湧いたのか、夢香が「今度皆で行きたい」と言い出し、自前のスマホでピクニックが出来る心霊スポットを大学付近で検索した結果、ヒットしたのがこの三禍夜池だったのだ。


 三禍夜池が地元住民に恐れられている理由を挙げるとするならば、他の河川や海とは桁違いの溺死者の数だろう。

 一年に三人以上はこの池で亡くなっているのだ。確かに水深は深いが川とは違って流れはなく、海と違って波に攫われる事も無い。それなのに、毎年人が亡くなっているという。

 そして「心霊スポット」の肩書きも伊達では無く、池の周囲を彷徨く霊や、池の中から生える無数の手を目撃したという情報も後を絶たない。


 これほど危険視されている現場にか弱い女だけで行くのも気が引けるし、治安も良し悪しも視野に入れるとやはり男が居たほうが少なくとも安心は出来る。

 個人的には不本意だったが、翡翠や夢香と同様に交流会で知り合った男二人を誘う事にした。



 当日、私達は大学から最寄りの「水咲みさき駅」で待ち合わせた。

 翡翠は相変わらずの私服に、アウトドア用の小さなリュックサック。夢香は交流会の時と同じようなゴリゴリのギャルスタイルと小さなリュックサック。


 そして、恐らく夢香から押し付けられたであろうクーラーボックスやビニールシートといったピクニック道具一式を持たされた二人の男性が居た。


「五人揃ったか?」


 短髪を金髪に染めた筋肉質の男、矢吹やぶき ごう。高校生の頃は部活動はやっていなかったが代わりにジムに通っていたらしく、肩幅が広く頼もしい体格をしている。


「じゃ、そろそろ行く?次の電車が来るまでもうちょいかかるけど、何か買う?」


 黒縁眼鏡とチェック柄のポロシャツの少し不安げな表情の青年、相川あいかわ 良二りょうじ。本人曰く「心霊やオカルトは信じてない」らしく、今回のピクニックも夢香や剛に半ば強制的に連れてこられたのだそう。


「ゆめ、駅弁欲しい。たべたい。りょーくん買って」


 出たよ、夢香のと言うより女の怖いところ。

特に夢香みたいなギャルにねだられると男は“No”とは言えないんだよね。頑張れ良二。


 流石に全員分奢らせるのも酷だったので、私、翡翠、剛の三人は自腹で購入した。



 それからしばらく、私達はほぼ無言の電車旅を満喫した。私達の大学は都会と言う程では無いがそれなりに賑やかな街なかにあるのだが、水咲駅を出てしばらくすると先程までとは一変し民家の数も減り、日帰りとは言えどもついに旅が始まったんだと少しワクワクした。

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