1.引き裂かれる二人
タルキス家とシルクォーン家。二つの名家は常に争いが絶えなかった。
どちらがより優れているのかと、父上たちはいつも張り合うばかり。
私はタルキス家の一人娘、リラヴェーン。みんなは私の見目を美しいと褒めてくれたけれど、私の寂しい心を埋めてくれたのは愛するただ一人の彼だけだった。
シルクォーン家の次男、ゾーレンス。
彼だけは私の見目だけではなく、寂しい心に寄り添ってくれた。
とても優しい心の持ち主で彼の見目も気品に溢れていて素敵なのに、彼は男らしくない見た目なのだといつも苦笑いしていた。
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貴族たちの華やかな集まりは私にとって心が重くなるばかり。
父が私に相応しい結婚相手をいつも探していたせいで、私は憂鬱で仕方なかった。
それでも、一人娘として毅然としなければと必死だったけれど……私のことを理解してくれるお相手は一人もいなかった。
少し外の空気を吸いたくなってバルコニーへ出た時、ぼうっと夜空を眺めている先客がいた。
「お嬢さん、夜風は身体を冷やしてしまいますよ」
「そういう貴方も……夜空を眺めていたのですか?」
「はい。僕には男としての強い力もなければ、兄上のような才もない。せめて家のためにと有力貴族との繋がりを持てと父に言われて会に参加してみたものの……息苦しくて結局逃げてしまいました」
彼のはにかむような笑顔は嘘偽りない心を照らし出していて……素直に綺麗だなと思った。
気づくと私は彼のことをもっと知りたくなって、自分から一歩踏み出していた。
「ご挨拶が遅れました。私はリラヴェーン・タルキス。タルキス家の一人娘です」
「僕はゾーレンス・シルクォーン。シルクォーン家の次男です。貴方はお噂通りの美しい方……しかし、その淡い紫の瞳は憂いを帯びておられているのですね」
「まあ! シルクォーン家の方だったのですね。私たちは常に争っている家同士。しかし……それは父の話ですわ。私はシルクォーン家に恨みも何もございません」
「ええ。僕は貴方に近づいてはいけない者かもしれませんが……どうか今日だけでも。僕の話し相手になってもらえませんか?」
彼の表情と優しさの裏に見えたのは、私と同じ孤独な気持ちに違いない。
そう気づくと、私の寂しさに気付いてくれた彼の側に自然と歩み寄っていた。
彼とこの場で少し話してから、お互い家族に内緒で会ってゆっくり話そうと約束した。
私にしては行動力があったのだけれど……それはきっと、月明かりに照らされた美しい彫像のようなゾーレンスに恋をしてしまったのだと思う。
後から聞いたのだけれど、彼も私を見て一目で好きだと思ってくれたそうだ。
私たちはきっと運命の出会いだったのだと、今では確信している。
ゾーレンスとの出会いは、今でも大切な思い出だ。
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私たちはすぐにお互いの想いを打ち明けて、今まで密かな愛を育んできた。
しかし、それも今日まで。ついに両家の争いは戦いという形に発展してしまった。
民たちを巻き込んだ争いが始まってしまう。
「ゾーレンス!」
「ああ、リラ! 君と会うのが今日で最後になるかもしれないなんて……」
「ええ……私たちの密やかで幸せな時間も今日で終わりなのね」
本当はゾーレンスと一緒に、どこか遠くへ行ってしまいたい。
彼の澄んだ蒼い瞳を見つめながら、それが不可能であることを理解していた。
風が、彼の白銀の柔らかな髪を揺らす。
これ以上家族を裏切ることはできないと、私たちは理解していた。
最後に二人で抱きしめ合って、再会の誓いの口づけをする。
このまま彼の温もりに身体を委ねていたいけれど……彼も名残惜しそうに私の身体をそっと離す。
「リラ、毎日君に手紙を送るよ。それくらいしか君への愛を伝える術がないから……」
「ゾーレンス……私もあなたへの愛を手紙へ込めるわ。信頼できる子が側にいるの。その子に手紙を託すつもり」
「僕もだよ。彼ならきっと僕の願いを聞いてくれるに違いない。君の手紙を心待ちにしているよ」
「いつか争いが治まって平和が訪れる時まで……さようなら」
そう、この争いさえ終わればまた会えるはず。
私はそう願いながら……彼と別れた。
必ずまた会える。そう信じて――