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17 ルーセット達とウリエル

アラウンド4、これで最終話です。

おつきあいいただきありがとうございました。


実はまだ続きます。

年明けくらいにアラウンド5を開始できればいいかなと思っています。

そっちも読んでもらえると嬉しいです。

 灰色の地面と空に、長い影が伸びる。コツコツと石畳を歩く足音がして、灰色の道の向こうから小さな荷物を持った男の姿が見えてきた。サーキュラーだ。セラフィムが預かってきた神々の書を届けにきたのだった。

 正面にある煉獄の門には、大きな翼を持った男が寄りかかって座っている。退屈そうにしているその足には重い鉄鎖が付けられ、寄りかかっている門柱にくくりつけられていた。サーキュラーはその男の手前まで行くと立ち止まった。

「結局ここかよ」

 にっと男が笑う。ウリエルだった。

「総司令殿じゃねえか」

 そう言いながら右手を出す。あきれたようにサーキュラーはその手に煙草を一箱握らせた。

「悪いね」

 ウリエルはその煙草を懐にしまった。続けてこうたずねてくる。

「ゼラフが来るかと思ったが、違うんだな」

 サーキュラーは持ってきた小さい荷物を彼に渡し、答えた。

「遠慮するとさ。そっちからも来るんだろ、特使とやらが」

「ああ」

 答えたところで上空に大きな影が舞った。サーキュラーが見上げる。するとその影は人の姿になり、白い翼と白い衣装をつけた御使いがそこに降り立った。

「よう、ラファエル」

「こんにちは、ウリエルさん」

 まだ少年の姿であった。ラファエルと呼ばれた御使いはウリエルに返事をし、それからサーキュラーのことをじっと見た。何かしら探るような視線である。何を見つけたのか、彼は緊張した声でウリエルにたずねた。

「あの、この方はもしかして……」

 ウリエルが答える。

「ゼラフの代理で、サーキュラー・ネフィラ・クラヴァータ閣下だ。そそうをするなよ」

 ラファエルの顔が引きつる。ウリエルはそんな彼にサーキュラーが持ってきた荷物を渡した。

「持ってきてもらった神々の書だ。持って帰れ」

「ありがとうございます」

 いまだに視線はサーキュラーのほうを向いている。くくっ、とサーキュラーは笑った。

「金蜘蛛が珍しいか」

「いえ……」

 その目には怯えがある。ウリエルが言う。

「魔王はこの上を行くぞ。ジジイにやめとけって言った理由が分かったか」

「はい」

 ここで今すぐに攻撃されることはない。そのことに気づき、ラファエルは気を取り直して言った。

「依頼のあったルーセット達の施設ですが」

「どうなった」

 ラファエルはまたここでサーキュラーを見た。

「あの、半分魔界側からも援助をしてもらえないかと」

「は?」

 サーキュラーが思わずそう言うと、ラファエルはやや引き気味な表情で続けた。

「魔界で製造したものだから、本来ならそちらで引き取るのが筋だと言われたのですが……」

「ふざけんな」

 サーキュラーはそう答えた。勇気を振り絞ってラファエルは言った。

「維持管理と消耗品、食料はこちらで持つので、あの、建屋をそちらで作ってもらいたいのです」

 あーなるほど、とサーキュラーは言った。ウリエルもそうか、と返事をした。

「それなら魔王に伝えとく。要はここにガキどもの保育園を作れと言いたいんだろ。園長はこいつでな」

「そうです」

 ラファエルはほっとしたように言った。一方のウリエルは理解できない顔をしていた。

「何? 何の話だ?」

 サーキュラーは言った。

「ガキどもはお前にしか懐かないんだってな。そっちから送ってきたセラへの書簡を読んだぞ」

 その言葉をラファエルが補足する。話が通じていたので安心したようだった。

「ルーセット達はそちらで造ったものなので天界に置けないんです。しかも強いし」

 困ったようにラファエルは言った。

「あらかたは風船だったので消えたんですが、残った十数名が誰の言うことも聞かなくて……ウリエルさんだけなんです、彼らをおとなしくさせられるのって」

 あの騒動の後、ウリエルは天界中を山狩りされて見つかり、捕まった。頭に血が昇ったメタトロンが彼のことを切り殺そうとしたのだが、そのメタトロンを数人がかりで押さえつけ、彼を救ったのが紺色の髪とコウモリの翼を持つルーセット達だった。しかも彼らは唯一神にも容赦なく向かっていき、その場で処刑されるはずだったウリエルは煉獄送りまで減刑されたのである。

 詳しいいきさつをラファエルから聞き、ゲラゲラとサーキュラーは笑った。ウリエルは憮然とした顔になる。

「それでここに追い出されたのか。よかったじゃねえか、消されなくて」

「そもそもの原因を作ったのはてめえらだろうが」

 ウリエルが怒りだす。ラファエルはもうこの場から逃げ出したかったが、特使である手前、どうにもできずにそこに留まっていた。笑いやんだサーキュラーが話をまとめる。

「じゃ、魔王に伝えとくわ。ここは緩衝地帯としてウリエル率いるルーセット勢を置く。その維持管理は天界、魔界両方で行う。そして共に過度の干渉はしない。そういうことだろう」

「はい」

 あっさりと魔界側がそう言ってきたので、少々驚きながらラファエルは答えた。サーキュラーは続ける。

「約束破りは死だ。あとセラにちょっかいを出すな。そうそっちのじいさんに伝えとけ。状況によっては俺が出る。魔王にブチ切れられるのは困るんだ」

「……はい」

 ウリエルはさっきから話を聞いていたが、まあいい、と言った。

「ならさっさと進めてくれ。何百年園長をやるのか知らないが、ジジイの顔を見ているよりはましだ。ただしこいつは外してくれ」

 ウリエルが繋がれている鉄鎖を見ながら言う。はい、とラファエルは答えた。

「それはもちろんです。でないとルーセット達をまとめられませんから。その代わりここから出ないで下さい」

 ラファエルが言った。ち、とウリエルは言ったがしょうがねえ、と答えた。

 サーキュラーは面白そうにその様子を見ていた。視線を感じたラファエルが何か、とサーキュラーに聞く。

「若いな。それで天軍の事務局長だろう。務まるのかよ」

 すかさずウリエルが言った。

「お前のところにもファイとか言うお子様がいるだろうが」

 サーキュラーが笑う。

「強いぞ」

「否定はしない」

 じゃ、と言ってサーキュラーはそこから歩き出した。ラファエルはしばらくその後姿を見送っていたが、ウリエルに一礼をし、上空に舞い上がった。

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