第94話 目的地で待つ者
飛騨神社まで1km地点。
道路の上には壊れた山車がある。
その付近に護衛対象を結界で守る沙羅が居た。その視線の先には緋苑が、そして襲いかかる巨大な骸骨の妖がいた。
骸骨はその巨大な骨の手を振り被り、緋苑に一気に振り下ろす。緋苑は式神『朱鶴』に捕まり、高く飛んでそれを凌ぐ。
道路が砕け、破片が舞う。その間を縫うように朱鶴と緋苑は飛び、骸骨へと接近する。
「ガラガラガラァッ!」
骸骨は独特な鳴き声のようなものを上げながら、叩きつけた反対の手を緋苑に伸ばす。緋苑は身を捩ってそれを躱し、式神を羽ばたかせて上昇する。
そのまま骸骨の反対に着地した。骸骨は後ろを振り返ろうとするが、鈍重なる身では骨が折れるようだ。
その隙を見逃す緋苑ではない。
「『炎天鶴灼』!急急如律令!」
朱鶴に轟々と燃え盛る炎を纏わせ突撃させる。それは頭部へ直撃し、頭蓋骨を砕いてしまった。
「が、ラがぁ……!」
巨体は倒れ伏し、バラバラの骨になる。そして黒い泥になって妖は消えていくのだった。
「おし……沙羅!久音!無事か!?」
「誰に言ってるの!」
「だ、大丈夫です……!勾玉も……」
駆け寄った緋苑に2人は言葉を返す。沙羅は軽傷、久音は服は汚れているだけで命に別状は無かった。そして久音の手には美しい勾玉が握られていた。その様子に緋苑は安堵の息を漏らす。
3人は悠を殿にして暫く進んでいたが、さっきの巨大な骸骨の妖の攻撃を受けて山車を破壊されてしまった。
「沙羅さんが助けてくれたお陰です」
沙羅は結界がもたないと判断し、間一髪久音と勾玉を連れ出したのだ。そのお陰で護衛対象は無事に済んだ。
「どういたしまして。でもこれからは徒歩になる……私達は戦うから勾玉は久音さんが持ってて欲しい。の前に、ちょっと待ってね?」
沙羅が久音の手にある勾玉に触れる。陽力が送り込まれ、それは勾玉の形に沿った小さな結界を張る。
「これで月の霊力を集める影響を少しは抑えられると思う。気休め程度だけどね」
「いえ、ありがとうございます」
久音の『影』を孕む体質に今の勾玉は悪影響を及ぼしかねない。だから結界によってその影響を伝搬しないようにしたのだ。
だが、本来強力な結界は動かせない。影響範囲を小さくする事で強度は保てるが、移動させる事を条件に組み込むとなると……沙羅の言う通りどれだけ持つか分からない。
「準備出来たか?なら急ぐぞ」
「分かってるわ」
「はい!」
3人は引き続き道を進むのだった。
数分走った所で、殿を務めていた悠が追いついてきた。
「途中、山車が壊れてたからどうなったか心配だったが……全員無事で良かったよ」
妖に粉砕された山車を見て悠は急いで駆けつけたのだ。だが心配は杞憂だった。
「俺らがやられる訳ねぇだろ?」
「そうよ舐めないで」
「はいはい、そうだったな」
不満を漏らす緋苑と沙羅に悠は呆れる。だがすぐその頼もしさに口元を緩ませる。
「んな事より……着くぜ」
緋苑の視線の先……道路に面した場所に灯篭があった。そして石造りの階段が山の方へ伸びて居た。そこを登った頂上にあるのが目的地の飛騨神社だ。
「下にも結界はあるけど弱いやつだ。上の鳥居くぐるまで行ってやっと安心出来る」
「分かりました……行きましょう」
緋苑の言葉に久音は覚悟を決める。一同は軽く千段はある階段を駆け上がって行く。
そして遂に……到着した。
「はぁ……!はぁ……!ここが……飛騨神社……」
久音が息を切らしながら顔を上げる。その視界には立派な神社が写っていた。
結界も十全に機能しており、妖の気配はまるで無かった。
「これで安心だね。久音さん」
「はい……」
安堵する沙羅と久音。だが、それとは反対に緋苑と悠は違和感を持っていた。
「なぁ?おかしくねぇか?」
緋苑の言葉に全員が顔を向ける。悠は何が言いたいのかを汲み取り口を開く。
「そうだな。幾ら極秘任務とは言え……人の気配が無さすぎる」
神社の外は緋苑達しかいない。それどころか、中にも人が居るような気配はしなかった。
そう遠くない場所で妖と戦っていたにも関わらず……。
静寂が包む参道に風が吹く。
「ッ!」
そしてそれに紛れた何かが接近し、久音に迫った。
ガギィンッ!
甲高い金属音が鳴る。久音へと迫った凶刃は、近くに居た悠が刀を生み出し受け止めたのだ。
「『朱鶴』!」
悠が庇いに行くと同時に召喚した式神の体当たりで何者かを吹き飛ばす。だが大してダメージは無いのか、宙返りをして地面へと降り立った。
(ここのは陰陽師関係者しか入れない登録制の結界だぞ!?どうやって気づかれずに中に入った……!)
「やれやれ、奇襲は失敗か。わざわざ先回りしてここの奴ら掃除したってのに……」
睨む緋苑に億劫そうに呟く紺色の和装の男性。黒髪を短く揃え、袖から見える腕は太く鍛え抜かれている。
男の名は烏間終夜。ぬらりひょんの依頼を受け、勾玉を狙う男だ。
「沙羅、久音を頼む」
「分かってるわ……ここは離れましょう?」
「は、はい……!」
九死に一生を得た久音は大きく息を切らす。その肩を抱いて沙羅はその場を離れた。
終夜の前には緋苑と悠が立ちはだかる。
「何者だてめぇ……!」
「生憎、男に教える名前は持ってねぇ」
緋苑の敵意の籠った視線を意に介さずはぐらかす終夜。
「狙いはあの子か?それとも……」
「関係ねぇよ。ぶっ飛ばすだけだ」
「おうおう、好戦的だな。だが……所詮学生だな」
「何……?」
「俺が奇襲をわざと失敗したって言ったら?」
「「っ!」」
驚愕する緋苑と悠。終夜の話がふかしでないとするならば、別の狙いがあるという事だ。
「悠、ここは任せて行け」
「だが……」
「獲物が消えてる事だろ?それくらい見抜ける」
悠が懸念していたのは襲った時の刃物が無くなっている事だ。落とした訳でも無い。
それは既に緋苑の中の警戒事項に入っている。
「……分かった。油断するなよ」
「誰に言ってんだ?」
「そうだな。任せたぜ……親友」
悠は緋苑にこの場を任せて沙羅達を追いかけて行く。その背を見送り、再び緋苑は終夜へ向き直る。
「さて、さっさとあんたをぶっ飛ばして追いかけねぇとな」
緋苑はその身から陽力を滾らせて呟く。
「ハッ……ぶっ倒されるのはそっちだぜ?」
終夜もまた陽力を全身から蜂起させる。睨み合う両者。旅の終着点である筈の場所は戦場と化し、勾玉争奪戦は苛烈さを増すのだった。
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