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第92話 迫る目的地

 3日後。

 一行は山道を縫うように伸びる道路を行き、襲ってくる妖を倒しつつ順調に進んだ。そして目的地である、飛騨(ひだ)国の神社まで1日歩けば着く場所まで来た。


 今日はもう夜が迫っていたので、またテントを張って野営する事にする。


「やっと……終わりが見えてきたな」


 食後の暖かな茶を飲みながら、緋苑は地図を広げて現在地と目的地迄の道をなぞる。


「もう少しね。その神社で勾玉を機械に取り付ければまた太陽の霊力を集めるようになる。そしたら久音さんも一先ず安心だわ」

「そうですね……もうすぐ……」


 沙羅が希望に満ちた顔で言い、久音もまた嬉しそうに微笑む。


「よし……明日が最後だ。万全を期す為に早めに寝ないとな」

「おうよ」

「うん」

「はい、そうしましょう」


 悠の言葉に緋苑は同意し、沙羅と久音の2人も頷くのだった。


 午前2時。

 最後の出立までまだ5時間はある。そんな中、火の番は悠から代わり緋苑へと戻ってきていた。


 無言の緋苑はパチパチと鳴る火の音を聞きながら周囲に意識を巡らせていた。そこへテントから誰かが起きてくる。緋苑は顔を向けるよりも前に足音から誰か分かっていた。


「……久音か」

「はい、また眠れなくて……」

「じゃあまた話すか。そしたらその内眠くなるだろ」

「はい、ありがとうございます」


 緋苑と久音は3日前のように火を挟んで向かい合う。そして今日もまた言の葉を交わしていく。


「もうすぐ目的地に着いてしまうと思うと……少し寂しいですね」

「……そうかもな。重要な任務で気ぃ張ってるけど、なんだかんだ楽しんでたかもしれない」


 自分を認めてくれる仲間と共に、認めてくれた人を護る。道中こそ警戒しつつも、東京では中々体験できない自然の中での生活で緋苑の心の内は確かな充実感に満ちていた。


 その旅もいよいよ明日で終わる。


「体質……治るといいな」

「……はい。進行を遅らせる事だって出来たんです。きっと陰陽師さん達なら……治す方法を見つけくれるって信じてます」


 願うように呟く久音。その手は震えていた。緋苑の視線でその事に気がついた久音。もう片方の手で握って抑えようとする。


「すみません……」

「いや……」


(そりゃそうだ……怖いに決まってる)


 怪物が自分の胎内(なか)から生まれるのをもう4回も経験している。凡そ普通に生きている人が一生味わう事の無いような、想像を絶する恐怖を味わってきたのだ。


 緋苑はそんな久音にゆっくりと語りかける。


「なあ、治ったら……何がしたい?」

「え?」

「沙羅が言ってたんだ。辛い事があったら何もかも怖くなる。悪い想像ばかりして、先へ進む為の足が止まっちまう……だから、いい未来の話を思い浮かべるんだって。そうすりゃ少しは気が紛れる」


 いつかの任務の時に沙羅が言っていた言葉。沙羅も陰陽師の家系であり、幼い頃から『影』と戦ってきた。だから、その日々で沢山辛い目にも合って来た。


 その時に母親から言われた言葉を、緋苑が無力に打ちひしがれた時に語ってくれたのだ。


「気が紛れりゃ、ちゃんと足元を見れる。周りが真っ暗でも、足元が見れりゃあ……どれだけ遅くても1歩1歩確実に、先へ歩いて行ける。だから、いい未来の話をしよう。久音は何がしたい?」

「わ、私は……」


 緋苑の問いかけに久音は俯き深く考える。己のしたい事、想像する良き未来。


 やがて顔を上げて、ゆっくりと述べる。


「私、東京を見て回りたいです。行った事が無いから……映像でしか知らない素敵な街を……この目で見て、触れて、感じてみたいです」


 ずっと大和国に住んでいた久音。体質を治す為に各地を転々としたものの、殆どの時間を結界で過ごしてきた。


 その間、外の世界への憧れは積もっていくばかりだった。だから、治ったら真っ先にしたい事は首都をこの目で見たいという願いだった。


「ああ、いいな。そん時は俺達が案内する」

「えっ?いいんですか?」


 緋苑の予想外の言葉に目を丸くする久音。任務が終わればもう関わる事も出来ないと思っていたから。


「上層部が言ってたんだ。久音は陽力が合って記憶処理が効かない。だから、治っても記憶を消されないし、暫くは経過観察が必要だ。んで、それは一度接触した陰陽師に任せられる事が多い」


 再発が無いか監視する期間がある事で一緒に居る公的な理由ができる。そして勿論治ったならばどこに行くのにも自由だ。


「じゃあ、その時は皆さんと……!」

「ああ、景色が綺麗なとこも、遊べるとこも案内してやる。美味いもんだって食わせてやるさ。だから、どんと俺らに任せとけ」


 胸を叩き、笑顔を向ける緋苑。その言葉に、姿に……久音は心から安心する。


(この人たちが護衛で良かった……面と向かって言うのは少し恥ずかしいし、まだ安全な場所にも着いてないから……これは全部終わってから伝えよう)


 久音は涙が零れ落ちそうになるのを堪え、その想いを胸の奥にしまう。だが同時に、必ず伝えようと強く誓うのだった。


「おやすみなさい。緋苑さん」

「おやすみ……久音」


 1日目と同様に緋苑は久音の背を見送るのだった。その最中、緋苑は想う。


(たとえ呪いが解けなくて……どんなに強い『影』が生まれようとも……俺が必ず倒す。いや、そんな事にはさせない。俺が解呪法を見つけだして絶対治す。だから……先ずは護衛を成功させて見せる)


 緋苑は強く覚悟を胸に灯し、夜を明かすのであった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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