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第90話 呪胎少女

「『影』を……!」

「は、孕む!?」


 驚きのあまり立ち上がる悠と沙羅。そうなるのも無理は無い。陰流陰陽師の宿敵たる『影』。それを人が孕むなぞ見た事も聞いた事もないのだから当然だろう。


 緋苑は2人に詳細を話す。


「ある時こいつは身に覚えのない懐妊をしたんだと。それで淫売だなんだと周囲から風当たりが強くなったりしたらしいが……腹が大きくなる頃に呪印が浮かんだらしい」

「それで陰陽師の所に?」


 沙羅の問いかけに緋苑は頷き肯定する。


「そんで診たけど原因不明、呪いの類だろうけど解呪も出来ず……結論として『影』は生まれたらしい」


 陰陽師はどうする事も出来ず、遂に破水。ドス黒い液体と共に『影』は生まれ落ちた。


「位階の低い『影』だったんですぐ倒されたらしい。けど、2ヶ月後にまた妊娠したらしい」

「「はっ!?」」


 また悠達が驚く。それはあまりにも早すぎる……しかもまた身に覚えがない。これは産後に経過観察の為陰陽師に保護され、結界の中で1人で過ごしていたにも関わらずだ。


「そこから彼女は2ヶ月毎に懐妊、出産を繰り返した。その度に『影』は生まれ、討伐された……だが問題はそれだけじゃなかった」

「……どういう事?」


 ここまででも想像を絶する事実に顔色が優れなくなっている沙羅。それでも陰陽師として聞かねばならなかった。


 緋苑はゆっくりと呟く。


「生まれる『影』の位階は、2つずつ上がっていってるんだ。そして、もう彼女は4回出産を経験している」

「「っ!」」


 最初は拾壱(じゅういち)、2回目は(きゅう)、3回目は(しち)、4回目は()……。つまり、次で第参位の『影人』クラスが生まれるのだ。


「第伍位までは対処出来てた。けど、次は天陽十二将レベルの陰陽師が必要だ」


 天陽十二将は最低でも第参位。それも特殊な式神を継承する事で到れる。だが彼らは多忙を極めており、ある程度自由が効くそれ以外の陰陽師は少ない。


 故に、次の出産は優先的に止めたい。


「途方に暮れた陰陽師は神器の力に目をつけたらしい。勾玉の性質を反転させた時に生じる太陽の霊力は純度が高い。それにより母体の陽力を強化し、体内から『影』を抑制する事ができるらしい」

「でも今は勾玉を輸送中だ……」

「勾玉も逆の性質……」


 それは、逆に『影』の出産を早めてしまいかねない事を指していた。


「総監部のジジイが俺らを指定したのは、最悪『影』が生まれた時に対処する為だと」

「緋苑……お前『影人』と戦った事あるよな?どうだった?」


 悠が問いかける。


「正直ギリギリだった。なのに、それより強い第参位を俺らで?マジで何考えてんだ?」


 緋苑は総監部への怒りが満ちた表情で呟く。放っておいたら今にも物に当たり散らしそうだ。


「でも、最悪なら……でしょ?」


 沙羅が呟き、2人はその顔を見る。その顔は絶望してはいなかった。


「また勾玉が元に戻せたら、『影』を抑えられる……筈だよね?」


 沙羅の言う事は正しい。だが、今の状態が長く続けば少女は懐妊し、強力な『影』が生まれ落ちる。


「私は……助けたい」

「……わぁったよ。俺もやるよ」

「沙羅が続けるなら……任務続行だ。彼女も放っておけないしな」


 沙羅の言葉と強い意志が宿った瞳で緋苑と悠は心を決める。


「2人共……!うん、やろう!この子を助けるの!」


 3人は覚悟を決め、最悪の結果にはさせない為に奮起するのだった。



 数分後……。

 悠達は黒髪の少女を箱から出し日陰のベンチに寝かせていた。


「ん、んん……?あれ?」


 すると遂に少女は目覚める。


「お、目が覚めたか」

「気分はどう?お水飲む?」

「え、えと……?貴方達は……?」


 悠と沙羅が声をかけるも、黒髪の少女は寝起きで何も分かっていないようだ。


「陰陽師だ。学生だけどな」

「陰陽師……あれ?私なんで外に?確か……勾玉がどうたらって外の人が騒いでて……」


 顔を見合わせる学生3人。どうやら寝起き関係なく何も知らされて居なかったようだ。


 3人は少女に名乗り、受けた任務の説明をする。


「神器の移動……」

「今度はこっちが説明してもらう番だ。あんたは何者だ?」


 緋苑が問いかける。緋苑達も少女の事はよく知らない。


 少女の事も、総監部のお偉い様は「ソレ」呼ばわりだった。


「私は……禍津久音(まがつひさね)と申します」


 彼女はたどたどしく名乗る。


「久音さん。どうやら君も俺たちの護衛対象で、勾玉と共に輸送する事になったんだ」

「な、なるほど……私の体質には、反転した勾玉の性質が必要ですからね……すみません、お手数お掛けしてしまって」


 当初の予定から外れて護衛対象が増えると言う事に申し訳なさそうにする久音。


「ううん、貴方のせいじゃないわ。私達が必ず無事に送り届けてみせるわ」

「沙羅さん……」

「俺らも同じ気持ちです。な?緋苑?」

「おう」

「悠さん……緋苑さんも……ありがとうございます」


 久音は頼もしい3人に礼を述べ、深々と頭を下げた。


 こうして3人は改めて禍津久音と勾玉の護衛任務に就くのだった。



 数分後、無事に村の通行を許可された一行は道を進んでいく。


「久音さん、気持ち悪くない?大丈夫?」

「いえ、問題ありません。お気遣いありがとうございます」


 山車を引く沙羅の気遣いに久音は丁寧に礼を言う。久音は今、箱の横に腰かけていた。


 箱の中は勾玉があり月の霊力を集めている。体質的に久音は勾玉とは距離を離した方がいいと考えた沙羅達。しかし護衛するなら山車に載せる方が楽だ。


 だから勾玉の箱に結界張って隔離した。そうする事で、山車の上だが2つの護衛対象を区切ったのだ。


「何かあったら言ってね。結界張り直したり休憩したりするから」

「分かりました」


 そんな様子を尻目に緋苑は不機嫌そうだ。


「緋苑?」

「……なんでもねぇ。暑いだけだ」


 前を行く緋苑が苛立っている事に沙羅は気づき声をかけたが、誤魔化されてしまった。その事に少し残念そうにする沙羅。


「言いたい事あるならちゃんと言いなさい。小さい子じゃないんだから」


 それでも、納得いかない事は納得する迄調べたい性分の沙羅は食い下がる。緋苑は数ヶ月の付き合いで既にそれを知っていたので、渋々話し出す。


「……総監部の態度が気に食わねぇんだよ。こっちには事前に知らせねぇとか、人をソレ呼ばわりとか、眠らせて物みてぇに箱に詰めんのとかな」


 緋苑が思っていたのは至極真っ当な怒りだった。こういう事は普段からある。急に任務内容が変わったり、任務の位階と実物の数値が乖離していたりと……杜撰な体制はそのまま現場の不満となっていた。


「それは私も同じよ。けど今は任務中。その事は後で考えましょう?」

「……分かったよ。集中する」


 緋苑は沙羅の言葉で無理矢理自分を納得させ、前を向いて引き続き警戒するのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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