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第89話 神器護衛任務

 緋苑、悠、沙羅が訪れたのは首都東京から500km西へ行った場所……大和国。


 現在はその中部にある桜野という土地の神社へ来ていた。鳥居をくぐると、そこには何人かの陰陽師が居た。そしてその傍に大きな箱と山車があった。


「初めまして。護衛を賜りました、天陽院の一瀬悠(いちのせゆう)です。こっちの赤毛は朱天緋苑(しゅてんひえん)、金髪は神奈月沙羅(かんなつきさら)


 しっかり者な悠は率先して前に出て手短に挨拶をする。その後早速本題に入る。


「お待ちしておりました。こちらが護衛対象の神器が入った箱と、それを運ぶ山車です」

「なるほど……これを俺たちが運べばいい訳ね。にしても随分デケェ箱だが」

「何分、重要なものなので……箱自体が物品の守護に特化した咒装と言われています」

「なるほどね」

「道中、勾玉の霊力に引かれた妖が襲って来るでしょうが……死守の程、よろしくお願いいたします」


 箱と山車を受け取る3人。


「えーと、ここに載せてっと。山車は誰が引く?」

「私でしょ?結界ですぐ守りに入れるし。貴方達、近接で前ばかり出るでしょ?」

「「うっ……」」


 図星を付かれる悠と緋苑。沙羅の提案は合理性があった。


「じゃあ前は緋苑が、後ろは俺が警戒する。いいな?」

「なんでもいい。さっさと行こうぜ」


 緋苑が先行し、山車を引く沙羅がそれに続く。そして悠がその後を警戒しながら追いかける。


 暫く舗装された道路を行く3人。


「来る……!」


 緋苑が気配を感じ取って呟くと同時に、3人は戦闘態勢に入る。すると、崖になった道路の左側……その上から無数の妖が現れる。


「『四方陣』!」


 沙羅が山車を結界で囲う。妖共はその壁に激突し怯んだ。


「『錬成刃』」


 悠の手に二振りの(こしらえ)のない刃が現れる。それを華麗に操り、結界へ群がる妖を斬り裂いていく。


「デカいの任せた!」

「分かってんよ」


 悠の声に緋苑は億劫そうに返す。しかしその態度の悪い返事は自分の役割を理解しているから。振り返る事もしないのは2人への信頼があるから。


 悠は目の前に現れた1つ目の巨人の妖を見上げる。


「デケェ図体だが……見掛け倒しだな」


 そう言って刀印を結び、陽力を空いている手に集中させる。


「『朱鶴(しゅかく)』。行け」


 現れたのは文字通りの朱色の鶴。それは炎を纏って巨人へ羽ばたく。


 巨人の周り高速で飛びつつ、その身を幾度となく体当たりさせる。


 1つ目の巨人の体は瞬く間に燃え、抉れ、焼けただれる。そして力無く倒れ伏した。


「終わりだな」


 悠の言葉で〆られ、妖の襲撃は制圧されたのだった。


「道路の魔除けあんのに妖寄ってくるってマジだったんだな〜」


 緋苑が呟く。それは事前に資料で確認していた事だ。


 三種の神器の1つ、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)は月の霊力を集める性質がある。


 普段は太陽の霊力を集める為、大掛かりな専用の装置で性質の一部を反転させている。


 だが移動させるには装置から外さねばならず、更には元々が月の霊力を取り込むので、それによって生まれた妖を呼び寄せてしまうのだ。


 妖は強くなる為に霊力を求める。それは『影』が人の陽力を求めるのと似ていた。


「ま、妖は『影』に比べりゃ弱ぇ。さっきみたいな1つ目も位階で(はち)位もありゃ上等でしょ」


 (よん)位、()位、(ろく)位がいる3人の敵ではない。


「油断するなよ緋苑。妖だって偶に強い個体が……」

「わぁってるよ。だから先急ぐぞ」


 悠の懸念するように、時折高位の『影』に匹敵する妖もいる。


 それらは長く生き、月の霊力をその分だけ取り込んでいる。故に油断は禁物であった。


 3人は引き続き道を行く。3時間程走った所で、3人は最寄りの村落で休憩する事にした。


「ったく……車使えねぇのめんどうったらありゃしねぇなぁ……」


 緋苑が水を飲みながら愚痴る。そこに沙羅が同じように水を飲みながら(たしな)める。


「しょうがないわよ。勾玉は太陽の霊力中和しちゃうんだから」


 勾玉は月の霊力を集める。その力は日中も有効だ。微かに見える白月から霊力を集め、常に纏っているのだ。


 そして勾玉に集中させる事で密度が上がり、周囲の太陽の霊力を中和してしまうのだ。だから太陽の霊力を利用して動く多くの機器は機能しなくなる。


「性質反転させる機械は大きいからな〜」


 悠が言う通り、勾玉の性質を反転させる為に使う機械は工場1個分の大きさだ。とてもそれに勾玉をセットしながら移動なんて事は出来ない。


 今現在、3人が村の端っこにいるのもその関係だ。


 無論、村を通る時も勾玉の中和効果範囲に機器が入ってしまう。なので今は通行の許可を待っているのだ。


「いつ通してくれるんだか……てか日陰でも暑い……」

「もう8月だからな」


 緋苑と悠は暑さに項垂れる。


「だらしないわね。休憩中とは言え護衛は継続してるんだからしっかりしなさい」


 沙羅も暑さは感じているが、2人よりは平気そうだ。


「なんで平気なんだ……」

「一体どんな秘密が?」

「な、何よ……!ジッと見ないでくれる!?殴るわよ!」


 顔を赤らめる沙羅。理由は前を開けて見える制服の白シャツがほんのり透けているからだろう。


 今にも手が出そうという時に、急に物音がした。3人は一斉にそちらを向き、戦闘態勢になる。


 視線の先には結界の中の山車。すると、今度は箱が揺れた。


「んなっ!?」

「なんだ!?勾玉って動くのか……!?」

「そんな訳ないでしょ!結界解くから開けて!早く!」


 慌ただしく箱に駆け寄る3人。緋苑が慎重に箱の蓋を開ける。


 そこには勾玉……と、黒髪を長く伸ばした赤い和装の少女が入っていた。


「だ、誰だ……?」


 緋苑が悠と沙羅にも覚えがない。そもそも勾玉の輸送と護衛の筈だ。彼女は任務の対象では無いし、何も聞かされていない。


「マジでなんなんだ……」


 緋苑が呟く言葉は3人の気持ちを表していた。


 数分後。

 緋苑は勾玉の範囲から離れ、使用可能となったスマホで陰陽総監部に問い合わせる。内容は勿論謎の少女について。


 予想外の事にイラつきながらも話を聞いていた緋苑。その表情は驚きのものに変わる。飛んでもない答えが返ってきたのだ。



「緋苑、どうだった?」


 戻ってきた緋苑へ悠が問いかける。沙羅も山車と箱……そして中の少女を日陰に入れた横で答えを待つ。


「そいつは急遽決まった極秘の護衛対象だとよ」

「なんで?」


 悠の更なる問いかけに言葉を濁す緋苑。彼らしくない様子に2人は疑問符を浮かべながら答えを待つ。


 そして緋苑が口に出した言葉に、それを聞いた彼と同じように驚くのだった。


「……そいつ、『影』を孕む特異体質らしい」


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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