第87話 緋苑襲来
2日後。
響は9日ぶりに影世界へと哨戒任務に来ていた。いつも通り探知結界より外だが、前回よりは近くを見て回るのだ。
相変わらず夜が支配する世界は不気味な空気を孕んでいた。その町を響達は行く。
「よし響。ここら辺には居るか?」
銀髪のポニーテールの女性の部隊長が響に問う。彼女の提案で響の特異体質を利用し、ポイント毎に集中して索敵をするようにしている。
「……いや、居ないです」
響は目をつぶり耳をすませた。しかし『影』特有の嫌な音はしなかった。
「よし、次へ行くぞ」
一行は次のポイントへ進む。部隊長の彼女を先頭に響がその後ろに続き、それを挟むように2人の男の陰陽師がポジションを取る。
(哨戒任務に4人……探知結界の近くだし過保護じゃね?まあ、あんな事があったからな……)
子供扱いされている気がしないでもないが、実際事件があり、響の経験が一番浅い事、今回の索敵の要になっている事で仕方がないと考える。
そうしていると、次のポイントが迫る。
「そろそろ次だな。響、準備を……」
「待ってください……」
響は足を止め、集中する。すると、進行方向から嫌な音がした。
「この先に『影』がいます!数は……8体!全部が巨影です!」
「分かった!行くぞ!」
響の報告を受け一行は走り出す。遅れて『影』が結界に入ったと報告を受ける。
「見えたな……散開して各個撃破せよ!」
「了解!」
響達は指示の元散開し、それぞれ『影』に向かう。
響は抜刀と共に『焔旋刃』を放ち、『影』を切り裂く。すると『影』は分裂し、2体になった。
「分裂はもう慣れてる……!」
響は炎を一気に刃へ集め、巨大な刃を形作る。
「『焔大太刀』!」
炎の奔流は2体に分裂した『影』と更に別の『影』を巻き込んで灰と化す。
「あの火力の術をあんなに早く……!?」
驚きの声を漏らす他の陰陽師。響の成長が垣間見える。
「まだまだ!」
護符を宙に投げる。思念を送り、それらを起動させる。すると護符から紅く輝く糸が飛び出し、2体の『影』を瞬く間に拘束する。
その糸に響は手から出した糸を絡ませる。
「『火糸・赤熱斬糸』!」
響は手元の糸を引っ張る事で絡まった糸は更に締め付け、2体の『影』は同時に焼き切られた。
響は瞬く間に4体の『影』を撃破してしまった。
「フッ……負けてられないな」
3人もまた各々術を行使して『影』を倒していく。最後の1匹が響の前に迫る。
響は高く跳躍し、影の巨大な顔面を縦に斬り裂く。これで『影』は全滅だ。
だがしかし、塵になる『影』の体から呪印の刻まれた護符が出てきた。
「っ!」
それは黒い旋風を生み、響を包み込む。
「なんだ!?……っ!」
響は気がついた時には、別の場所に居た。
(飛ばされたのか!どこだここ……屋上か!?)
響は夜空が広がり、その眼下に街が小さく見える事でそこがどこかのビルの屋上と気づく。
相変わらずの嫌な空気から影世界であるのには変わりがないとも知る。
当たりを見回す響。すると屋上への入口が開き、中から赤髪を逆立てた和装の男が現れた。
「よう白波響。1ヶ月ぶりくらいか?」
「お前は……来朱緋苑!」
警戒する響に緋苑は気さくに挨拶をする。その真意とは一体……?
「お前が『影』を使って呼び寄せたのか」
「おう、手の込んだ仕掛けだったろ?全滅したら最後の個体の護符が起動するようにしてたんだ。お前狙い撃ちの専用護符をな」
『影』の集団は初めから響を狙った罠だったのだ。
「何が目的だよ」
「そりゃ話し合いさ。あっ!さては信用してねぇな?」
「当たり前だろうが」
来朱緋苑……響は空が影世界に連れ去られた日に会った男。悠曰く、陰陽師を裏切った要注意人物。実際『影』と連む様子を見ているので警戒をするのは当然の事であった。
「ホントに話し合いに来たんだって。ほら、前に如羅戯と顔合わせたんだろ?」
「っ!なんでそれを……」
「そりゃ知り合いだからな。んで、俺も個人的にお前には興味があったからな。だから今回は如羅戯と同じで話し合いに来たんだよ」
無害だと示すように両手を広げブラブラと振る緋苑。陽力も纏っておらず無防備であるのは確かだ。
(今いる場所はここらで一番高い建物。狙撃も下からじゃ射線が通らないし、登って来ても気配で分かる……でも警戒はしておくべきだ)
熟考する響に緋苑は心を読んだ風に提案する。
「そっちは陽力出しといていいぜ」
「……分かった。で、何話すんだよ?」
響は提案を呑み、目的を図る為に了承する。
「まあ先ずは俺の事だな。悠は大して教えてくれなかったみたいだし……んじゃ、改めて。俺は来朱緋苑……前は朱天って姓だった」
「旧姓……?」
「おう、でも別に婿に入った訳じゃねぇ。捨てたのさ」
(捨てた……つまりで裏切った時に姓を変えたのか)
響は理由を頭の中で予想する。緋苑は続けてその旧姓の家の事を語り出した。
「朱天家は天陽十二家の七午家から派生した家でな。他に似たようにできた青天家、玄天家、白天家ってのがあった。かつては四神家って呼ばれた名家さ」
「かつては……?」
「おう、今はねぇよ。俺が出てく時に諸共滅ぼしたからな。血筋は俺しか残ってねぇだろうな」
「っ!」
四家を族滅したと言う緋苑。それを行える精神と力を持っているという事を理解する響。
「ま、その理由も後で分かるから待ってろ。……さて、これから俺が語るのは陰陽師の陰の部分……そして、俺と悠の過去だ」
同刻──天陽院。
空き教室には集められた空、陽那、秋の4人。そして呼び出した悠が居た。全員揃ったのを見て悠は語り出す。
「みんなに集まって貰ったのは話があるからだ。響は任務でいないが……まあまた話すよ。とりまその辺にかけてくれ」
3人はそれぞれ空いた席に座る。それを確認し、悠は話を再開させる。
「これはあんまり知ってる人は居ない話。そして俺と……親友だった緋苑の過去だ」
今、まさに2つの場所で語られる過去。それは10年も前に遡る事になる。
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