第85話 響振
「な、なんだいそれは……その陽力は!?」
姿が変貌し、全身から溢れんばかりの青白い陽力は、そこにあるだけで如羅戯を威圧する。
(僕が……気圧されている?)
如羅戯は自身の手が震えている事に気がつく。だが拳を強く握り、それを押し殺す。
そして響を睨みつける。
「これ以上の狼藉は……私が許しません」
変貌してから初めて口を開いた響の声は、響のようにも女性のようにも聞こえた。
(雰囲気が変わった……?)
疑問を浮かべる如羅戯に響は手をかざす。如羅戯は反射的に陰力を纏い警戒した。すると……。
「なっ!?」
如羅戯の全身が切り裂かれたように青い鮮血が吹き出した。
(なんだ……!?見えなかった……!何をしたぁ!?)
混乱する如羅戯。まるでさっきの自分が響にした事を返されたような超速攻撃。それに並々ならぬ怒りを覚える。
「硬いですね。流石は『影人』……次は直接打ち込みます」
「っ!『蛇紋刀岩』!」
響の言葉に如羅戯は術を展開する。その巨大な刃は最初の時以上の速度で振るわれる。
響はそれを片手で容易く受け止めてしまった。
「何っ!?」
「この程度の術では……私に響きませんよ」
「っ!思い上がらないでよ響ぃ!」
煽るような言葉に如羅戯は憤慨し、また陰力を滾らせる。すると、もう一本巨大な蛇の紋様の刃が生まれる。
「『蛇紋刀岩』二番!」
それは先程の刃とは反対から振るわれた。それを響はもう片方の手で受け止める。
「同じ事を……」
「そうじゃないんだなぁこれが!」
口角を三日月状に上げる如羅戯は、更に陰力を纏い何かをしようとする。
「連なり、重なり、首を断つ。『蛇紋刀岩・首切り鋏』!急急如律令!」
刀印と詠唱によって2つの刃は1つとなり、巨大な鋏に変化した。
それは連鎖術式。性質の同じ術式を連続使用するという段階を踏む事で、連鎖の最後に1つの強力な術を発動する高等技術だ。
「その首、貰いまぁすっ!」
鋏は勢いよくその刃を閉じる。響は左右の刃を掴み、それを受け止めるが……。
「ンフフッ!無理無理!止められる筈無いって!そのまま切られちゃいなよぉ!」
如羅戯の言葉に呼応するように鋏の閉じる力は強まり、響の手を押し返していく。その様子には響も眉を潜ませる。
「致し方ありません……全開で行きます」
「は?」
響の言葉に如羅戯は固まる。まさかこの状況から逆転出来るわけが無いと思っているから。
だが、その考えは全くの間違いだと証明される事となる。
「『響振』」
響がそう呟くと、辺りに鈴の音が響く。それが『異能』の発動の合図。
「『伝振・流』」
呟くと共に、『首切り鋏』が激しく震えだす。すると……。
ガシャンッ!
鋏はその仰々しい見た目から考えられない程に容易く崩れ去ってしまった。
(ば、馬鹿な!生半可な力で連鎖術式の『首切り鋏』が壊せる筈が無い!まさか……あっちも連鎖術式を!?)
響は同じように高等技術を使い、相殺したのかと予想する如羅戯。しかしそれは違う。
響が使ったのは異能。如羅戯の預かり知らぬ力。強いて言うならば、そもそもの性質が違う力だ。
「ハッ!?」
今日何度目かの驚嘆をする如羅戯の前に、急激に接近した響。そして、伸ばした右手で如羅戯の左手をガッシリと掴んだ。
「『伝振・斬』」
呟く響。如羅戯の頭がそれはまずいと直感で告げる。反射的に腕を切り落とし、全速力でその場を逃れる。
その判断は正解だった。何故なら、響の掴んだ手は瞬く間に細切れになったからだ。
あと少し遅ければ、如羅戯の全身は腕と同じ末路を迎えていただろう。
「はあっ!はあっ!はあっ!」
如羅戯は大きく息を切らす。それは腕の痛みから来るものでは無く、矮小な存在と思っていた響が己の命に手をかけたからだ。
まさかの事態に如羅戯は響を強く睨む。
「『影人』はやはりしぶとい……ですが次でトドメを」
刺す……と言いかけた瞬間、響の体は光に包まれる。
「くっ……!もう時間が……!」
光はより眩く輝き、辺りを呑み込む。如羅戯はそれに目をつぶった。光が収まった後如羅戯が目を開けると、響は元の制服姿へと戻っていた。
「……あれ?俺は……っ!傷が無い……!?」
(奴にダメージ!?一体何が……!)
響は意識が飛んでいたのか覚えていないようで、如羅戯の欠損した左手を見て困惑する。
(な、なんなんだ……!コイツは……!)
如羅戯の目にはそんな響が得体の知れない気味悪い存在に映り、今すぐにでもその場から離れたかった。
だから、冷静に、平静に取り繕う。
「さて、中々やるようで嬉しいよ。それじゃあ今日はお開きだね」
如羅戯はそう言って踵を返す。
「っ!待て!」
響が叫ぶが、如羅戯は止まらない。視線だけ向けて如羅戯は述べる。
「言ったでしょ?今日は顔見せだって。またこっちの準備が出来たら会いに行くからさ?その時までちゃんと憎しみを溜めて待っててね。……響」
如羅戯は内に黒い感情が渦巻くような、ドスの聞いた声と目でそう述べる。そして如羅戯は高く跳躍してその場を後にした。
反対に響は立ち尽くす。今にも飛び出して八つ裂きにしたい怒りの心は、冷静になろうとする頭が制止させる。
このまま戦うのは分が悪いと告げているのだ。それは正しい。しかし仇を前にして何も出来ない歯がゆさが響の頭に満ちる。
「……ああ、その時はちゃんと殺してやるよ……!如羅戯」
それでも響は深い怒りと憎しみを込めた視線を送るのだった。
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