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第84話 仇敵現る

 影世界。


「悪いな響。急にヘルプ入って貰って」

「いえ、哨戒任務の経験もっと積みたかったので全然大丈夫ッス」


 響は大柄の男……佐久間雄大と話しながら歩いていた。


 雄大は初めての哨戒任務で一緒になった人物だ。丁寧に任務の概要を教えてくれた事で信頼を置いている。


「元々来る予定の人はどうしたんですか?」

「分からん。音信不通としかな」

「そっスか……心配ですね」


 何事も無ければいいが……そう思う響の前から誰かが歩いてくる。


「心配もいいが任務には集中しろよ」

「水蓮さん」


 黒髪の毛先が青いの気の強そうな女性は佐久間水蓮。彼女もまた2回目の哨戒任務で響が一緒になったことがある陰陽師だ。


 そして2人は偶然にも夫婦であった。


「まあまあ、響は特異体質なの知ってるだろ?前も俺より早く『影』見つけたしな」

「そういう問題じゃない。でも確かに響の耳は有用だ。引き続きそのボンクラを頼むぞ」

「酷い!俺が監督役みたいなもんなのに!」

「なら尚のことしっかりしろぉ!」

「はいぃ……!」


 尻に敷かれる雄大。2人の仲睦まじいやり取りに響は微笑む。


「それじゃあ私もまた見て回る。改めて響、雄大。しっかりな」

「おうよ」

「はい!」


 良い返事をして2人は水蓮とすれ違う。その時……。


「えっ……?」


 響は微かな嫌な音が急速に迫るのを感じた。


「何か来……っ!」


 2人に伝えようと口を開いた時には、それは響の横をすり抜けた。


 そして、後ろを向いて歩いて行く水蓮の頭を何かが消し飛ばした。


「えっ?」

「なっ!」


 雄大は何が起こったのか分からなかった。響は確実に敵だと言う事だけは理解し、身構える。


「狙撃です!隠れて!」


 響はその場から動く。だが雄大は呆然として動けない。普段から聡明な判断力を持っていたにも関わらず。


「水、蓮……?」

「雄大さん!」


 響が叫ぶが、まるで聞こえていないようで……その手を弱々しく亡骸に伸ばす。


(ダメだ!聞こえてない!)


 響は糸を伸ばし、雄大の体を掴む。そして力の限り引っ張る。それと同時にまた嫌な音が急激に近づき……。


「がっ!」


 雄大の頭を吹き飛ばした。


「……っ!クソっ!」


 歯を食いしばる響。

 手繰り寄せた死体となった雄大を寝かせ、響は思考する。


(撃ってきた方角は分かる。なら気配に集中すればギリギリ避けられる。この場を移動する……!)


 響は2人の亡骸を交互に一瞥する。しかしそれを抱えて逃げられる程狙撃は甘くない。それは分かっている。


「……後で、戻ってきます」


 響は2人の亡骸にそう言い残し振り返る。後ろ髪を引かれる思いを何とか飲み込み、建物を盾にしながら移動するのだった。



 響達の居た場所から1km先。


 その建物の屋上には、黒髪と黒白の和装をなびかせ、腰に黒い刀を差した『影人』……如羅戯(ゆらぎ)と、洋装に包帯を全身に巻いた男の『影人』がいた。


 包帯の男は長弓を構えていた。彼こそが佐久間夫妻を射抜いた張本人だ。


「ナイス狙撃〜。もう帰っていいよ」

「逃げた方は?まあ、撃てと言われても狙撃で仕留めるのは骨が折れそうだが……」

「雑魚を払いたかっただけだからいいよ。ほら、帰った帰った」

「……分かった。じゃあな大将。死んだら笑ってやる」

「それはやだな〜……っと、逃げられちゃう前に行こうか」


 そう言って如羅戯は飛び出していく。それを一瞥し、包帯の男も別方向へ歩いていくのだった。


 その目的は如何に……?

 響は慎重に街を行き、今は十字路に居る。


 幸いにも他の『影』の気配は無いので、狙撃が来た一方向だけ注意すればいいのは響が逃げるのに追い風となる。


(暫く狙撃が無い……壁抜きは出来ないか、弾数少なくて慎重になってるか。このまま退いてくれてたらいいけど)


 響の位置はこのまま真っ直ぐ行けば探知結界があるぐらいの距離にいる。そこに入りさえすれば安全……という訳では無いが、『影』の術を探知して救援が来てくれるかもしれない。


 そうなれば1人よりはまだマシであるし、敵に知性があるならそもそも探知範囲に不用意に攻撃したりしないだろうとも響は考える。


「っ!これは……!」


 その時、虫が這いずるような気色が悪い音が聴こえた。そしてそれは大きくなり、急速に接近している事が分かった。


(これは狙撃じゃねぇ……!『影人』が来る!)


 響は刀を抜き放ち警戒する。すると十字路の中央に和装の『影人』が降り立った。


「っ!」


(飛んでもねぇ陰力だ……!下手すりゃ空や白山獅郎以上の……!)


 響は佇むだけで漲る陰力に嫌な汗が出るのを感じる。『影人』がゆらりと響を見る。


「やあ!会えて嬉しいよ響!」


 すると、明るい笑顔を作って響に話しかける。響はその様子に困惑する。


「あれ〜?やっぱりまだ思い出せてない?悲しいなぁ〜」

「ど、どういう事だよ……俺はお前なんて……っ!」


(いや、この嫌な感じ……確かお袋の墓参りの時に感じた気配……?……いや違う、違うんだ。もっと前……そう、もっと前に、俺はこいつと出会ってる筈だ)


 響は不思議と覚えがある目の前の『影人』について思考していると、突如頭に痛みが走った。


 まるで墓参りの時に感じた痛みのようなそれを。


 夏、雨、道路。母、自分、そして……少年。


 1つずつ映像がフラッシュバックする。最後に……モヤがかかった少年の顔が明確になる。


 それは目の前の男と被るのだった。


如羅戯(ゆらぎ)……!」

「思い出してくれて嬉しいよ。響」


 母を失ったあの日。響の世界が一変したあの日。そこにいた仇敵が今、響の目の前にいるのだった。


「如羅戯……そうだ、お前は如羅戯だ。テメェがお袋を殺した……!なんで!」

「なんで……か。僕は『影』……なら分かるでしょ?陽力だよ」


『影』の行動原理。人に仇なすその理由は、陽力を取り込む為。そうしなければ死ぬから。


 そして……『影』は陽力を取り込む度に強くなる。『影人』は『影』と比べて燃費がいい。数ヶ月は陽力を取り込まなくて済むが、強くなる為に積極的に奪う者もいる。


 つまりどこまで行っても『影』は人を殺し陽力を奪う存在なのだ。


「白波奏……君の母の陽力は並外れていてね。是非とも取り込みたかったけど……当時は触れただけで消されかねなかった。だから僕は君とお友達になったんだよ」

「……」


 響は記憶で少年の姿の如羅戯と公園で遊んでいた。だから、その理屈はよく分かった。


「楽しかったね〜。かけっこに鉄棒で逆上がり、砂場遊びもしたっけ?まあどれもこれも、君と友達になって母親に近づく為だったんだけどねぇ〜!プププッ!」


 心底バカにしたように語る如羅戯。響は黙ってそれを聞く。


「あれ?あれれ?これってさぁ?白波奏が死んだのって、僕を『影』とも分からず彼女に引き合わせた君が悪いんじゃないのぉ?」

「なん、だと……?」


 響は目を見開き、如羅戯を睨む。


「だから、母親が死ぬ羽目になったのは君のせいだって……」

「ふざっけんな!」


 響は叫びと共に刀を振り抜く。鋒から伸びた炎の刃が如羅戯の首を襲う。


 如羅戯はその身を逸らしてそれを避けた。


「ふざけんなよ……テメェがお袋を殺したんじゃねぇか……!」


 拳を強く握る響。爪がくい込み血が流れる。


「全部、テメェのせいだろうがぁ!」


 縮地にて響が如羅戯の前に一気に迫る。振り下ろされる炎の刃。如羅戯はそれを腰の黒刀を抜刀して受ける。


 金属がぶつかり合う甲高い音が影の街に響く。


「あ、そうそう……君の母親の陽力はすっごく美味しかったよぉ?」

「っ!テメェ!」


 恍惚の表情で語る如羅戯に、響は怒りに任せた蹴りを入れる。瞬間的な2連撃……それにより如羅戯は体勢を崩す。


「はああああ!」


 繰り出される袈裟斬り。如羅戯はバック転をするように躱し、そのまま距離を置く。


「そう焦らないでよ。今日は再会を悦びに来たんだからさ」

「何……?」

「ホントだよ。前は西の方に居たからさぁ?最近になってこっちに来たら響が陰陽師になってたんだもん。そりゃもうびっくり!なら、会いたくなっても不思議じゃないでしょぉ?」


 楽しげに話す如羅戯。その嘲笑がデフォルトで備わっているような口調に、響は神経を逆撫でされて更に怒りを貯める。


「今日は僕の事覚えてるか確認したかっただけなんだけど……ま、でもそっちがしたいなら一撃だけ付き合ってあげよう」

「っ!」


 そう言って刀印を結ぶ如羅戯。陰力が全身から迸る。響もまた刀を顔の横で構え、炎を纏わせていく。


 だが如羅戯の方が早い。


「『蛇紋刀岩(じゃもんとうがん)』」


 現れたのは蛇の紋様が入った巨大な刃。手を振るい、横凪の一撃が放たれた。


「『焔大太刀(ほむらおおだち)』!」


 響は遅れて炎の刃を振るう。2つの巨大な刃がぶつかり合い、激しい衝撃と熱風が辺りの建物を砕いていく。


「ぐ、うぅぅぅっ!」

「アハハ!ハハハッ!」


 響がジワジワと押されていく様子を楽しげに笑う如羅戯。


「押し切っちゃうよぉ!?」


 手を振り抜く。岩の刃は炎の刃を押し切り、範囲上の建物を何軒も切り裂いた。


 建物が崩れ、土埃が舞う。その中で如羅戯が呟く。


「……なんだ、生きてるじゃん」


 如羅戯は瓦礫の上に視線を移す。


「はぁっ……!はぁっ……!」


 そこには響が居た。


(縮地で一気に飛ばねぇとやばかった……あんなに発動が早いのに威力も桁違い……!クソ、訓練で短くなったのに、それでも準備が間に合わねぇなんて……!)


 響は何とか凌いだものの、最大火力の『焔大太刀』よりも早く、強大な術を扱う如羅戯の力を思い知る。


「じゃあ、ちょっと本気を出そうか」

「っ!」


 そう言って手をかざす如羅戯に響は警戒する。すると……。


「ガッ!」


 響の心臓に刃が突き刺さった。


「あれ?あら?やっちゃった?ごめーん。まさかこれぐらい避けられないとは思わなかった〜」


 如羅戯が術を解くと刃が消え、胸からはとめどない血を滴り落ちる。血を吐き、響は膝を着く。


(嘘だろ……!?全く見えなかった……!気がついたら刺されて……)


 驚嘆する響の視界がボヤけ出す。


(待て、まだ俺は……何も……)


 響の抵抗虚しく、意識はブラックアウトする。


「あれ?死んじゃった?マジで……?」


 如羅戯は焦る。あっさりと殺してしまった事にだが。


「あーあ、僕治癒できないんだよなぁ……ま、やっちゃったもんはしょうがないか!」


 残念そうにしたと思えば、あっけからんとして切り替える如羅戯。気分屋で、全てを見下し、なるようになれと生きていた事で培われた気質が出ている。


 そして死んだものへの興味は急速に薄れるのが如羅戯の性格だ。


 いつも通り、響の事も明日には忘れているだろう。


 死んでいるのであれば……だが。


「さて、帰るか」


 振り返り帰路につこうとする如羅戯。だが、突如として現れた強大な気配にその足は止まる。


(なっ!え?なにが……!?)


 気配の方向は背後。如羅戯の背に汗が滲む。


(まさか、まさかまさか!この力は……響が出しているんじゃないだろうなぁ!?)


 嫌な予想をしながら振り返る。そこには、今しがた心臓を刺して殺した響の姿。


 だが、装いは違う。


 全身が白い和装に変化し、輝く羽衣を纏っていた。



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