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第79話 御前試合 響VS獅郎 決着

 響が立ち上がるのを獅郎は大剣を構えて警戒する。


(なんだ……?急に足に変な力が入って……でも距離は取れた。考えろ……何をしていたらこれは起こった?)


 響は危機を脱した先程の現象。これが獅郎に勝つ為の手札になると考える。そしてそれを再現する為に思考する。


(剣を受けていた。陽力を全力で生み出して全身に巡らせて強化していた。力が入ったのは足のつま先だ……けど力が入るより前、ほんの一瞬……つま先の力が抜けたような感覚があったかも……?)


「何をしたか知らないが……来ないならばこちらから行くぞ!」


 響が考える時間をくれる程獅郎は優しくは無い。またグッと地面を踏み込み、飛び込んで来る。


「っ!」


(撃ち出されるみたいな突撃……もしかして……!)


 それを見て響は何かを閃いた。転がるようにして突撃ざまの斬撃を躱す。そしてそのまま響は地面を強く踏み込み、獅郎と反対方向へ飛んだ。


(違う、もっと陽力を集めて……圧縮する感じか?)


 方向を反転させた獅郎が逃げる響を追う。速さと力によるゴリ押し。全力で防戦しなければ即座に敗北するであろうそれに対し、響は前へと踏み込む体勢に入る。


「圧縮して……ほんの少しだけ、一部分だけ……緩める」


 バシュッ!


 すると、響の体は弾丸のように獅郎へと撃ち出された。


「っ!」


 その予想外の速さで迫る響に驚き、獅郎の剣が僅かに鈍る。


 刀が大剣へと接触する。そしてそのまま響は空中で前転するように獅郎の頭の上を超え、反対の壁へと飛んでいく。


「うおっ!とっ!ふんっ!…………よし、できた!」


 今度は受け身をしっかりと取り直ぐに立ち上がる響。確かな手応えを感じ口角を上げる。


「ククク……何か掴んだな?では試してやろう」


 ゆっくりと歩き獅郎は一息で詰められる距離へと着く。依然としてその力は凄まじいもの。だが響に焦りも恐れも無かった。


「……」

「……」


 また剣を構える両者に緊張が走る。何かを掴んだ響か……攻めの姿勢を崩さない獅郎か……。


「ふっ!」


 やはり先に動くのは獅郎。真正面から、最大速度、最大威力の一撃で潰すシンプルな一手だ。響に長大な剣の鋒が突き出される。


 だがそれは響には当たらない。鋒が触れるよりも前に響は獅郎の左側へと移動したからだ。


「おおおおお!」


 ズバンッ!


 そして炎を纏いし刃が空いた獅郎の脇腹を切り裂く。


「ぐぅ……!」


 顔をしかめる獅郎。それでも響を逃すまいと痛みに呻く体を動かす。


 ゴッ!


「うぐっ!」


 響の顔に裏拳が入る。響の速さを見た上で大剣を構えて斬るよりも早いと判断したのだ。


 怯む響へと片手で動かす大剣が迫る。腰を強引に回し剣速を補ったのだ。しかし、それでも響の急激な後退には間に合わなかった。


「チッ……厄介な瞬発力だな」

「どうも。名ずけて響流『縮地』だ。…………やっぱただの『縮地』で。そっちこそホント硬ってぇな……」


 獅郎の強固な護りは響の一太刀を軽減した。だが傷口から血が滴り、確実にダメージがあるのが伺える。



(あれは天陽十二家秘伝の戦闘歩法……『日天縮地』!きっかけは偶然とはいえ、それを直ぐに実践レベルまで……!)


「末恐ろしいね」


 悠が響のセンスに驚愕の声を漏らす。



「んじゃ、今度はこっちから行くぜ」


 今度は響が攻めに転じる番。獅郎のように強く地面を踏み込む。だがそれだけでは無い。


 足裏に陽力を集中……強く圧縮し、飛び出すタイミングで一部分だけその圧縮を緩める。


 すると、圧縮された陽力が逃げ道を得て一気に噴出、推進剤となって響を運ぶ。


「はああああ!」


 その勢いを乗せた刃が大剣と衝突、激しい火花や衝撃を生む。ギリギリと鍔迫り合う二人。


「ぬぅん!」


 鍔迫り合いを制したのは獅郎。その膂力は伊達では無い。だが響は刀が弾かれたと同時に獅郎の右側を通り過ぎるように動く。


 獅郎は近距離での『縮地』の速度にまだ反応しきれない。今度は右の太腿に一太刀入る。


 それで終わる響では無い。獅郎の周りを高速移動、様々な角度から繰り返し攻める。攻める。攻める。


 それにカウンターを狙う獅郎であったが、響を捉えられず確実に削られていく。


(このまま……!)


 いける……と響が思い迫った瞬間、獅郎は足を高く振り上げ強く地面を踏みしめる。すると獅郎を中心に円状の衝撃波が走った。


「ぐっ……!」


(これは……!しまった!)


「はあっ!」


 ズバッ!


 震脚……それをモロに受けてしまい、響の動きが鈍る。そして響に袈裟斬りが入った。 


 鮮血が吹き出し、赤いシャツを更に赤く染める。


「がはっ!」

「まだだぞ!」


(下、がれぇ……!)


 追撃から逃れる為、地面に水平になるように身を倒す響。そのまま『縮地』で距離を置いた。


「はあっ……!はあっ……!」

「息が上がっているぞ?このまま行けばお前は倒れるだろうな」


 深手を負った響と未だ致命とは遠い傷しかない獅郎。一手で戦況が覆る。再び焦りが生まれ、額に脂汗が滲む響。


(油断した……ありゃ陽力を震脚の衝撃波に乗せて飛ばしてたんだ。俺が全身強化して防いでも……アイツみてぇに均等に守れてないから防御の薄い部分はダメージがデカイ!先輩らの術も消してたから術もある程度防げるだろうな……使う前に足を高く振り上げるとこが隙だ)


 自省しつつ冷静に分析する響。ここから響は獅郎を倒す為に必要な作を練る。


「考える時間を与えるとでも?」


 響の逆境は獅郎の好機。再び攻めに転じる。


 響はそれを刀で受け、縮地で躱し距離を取る。その動きは袈裟斬りを受ける前より落ちる。


「どうした!?キレが無いぞ!」

「チッ!」


(こいつに勝つ!勝って、位階を上げて真実を確かめる為に……!)


 追い込まれる中、脳裏のあの記憶が蘇る。そして交流会へ臨んだ理由が響の胸に強く灯る。


(一秒経つ事に動きは落ちる。それぐらいの傷だ……なら勝つには一撃で終わらせる必要がある。その為の作は……ある!)


 響は幾度目かの剣撃を躱し、右足、左足と交互に縮地を発動。結界の端へと大きく下がる。刀を地面に突き刺し、距離を詰めようと走る獅郎へ掌を向ける。


(こっからが勝負だ!)


旭日(きょくじつ)常世長鳴(とこよのながなき)、大御神の加護」


 そして詠唱を施す。それはまだ慣れておらず発動するまで集中する時間を要し、持続時間も短い術。


 だから陽力の揺らぎや刀印などの起こりを見て対処されないよう、瞬時に大きく距離を離す縮地が出来るまで使う隙が無かった。


(ここに来て新たな術!だが何が来ようと打ち砕くのみ!)


 獅郎はそれに怯む様子もなく前進を続ける。そして……。


「式神召喚──『天鶏(てんけい)』急急如律令!」


 響の右手から陽力が溢れ、それは燃ゆる炎が鶏冠になった巨大な鶏となる。


「式神……!」

「コココッ!コケェェェェェェッッッ!」


 そして獅郎へ威嚇するように長く大きな鳴き声が結界内に響き渡る。


 それは十酉ゆづるの式神を参考にした式神。単体でも無数の『影』を蹴散らす姿が強く目に焼き付いていたのだった。


 響にとって最強の式神の形がそれなのだ。


「頼んだぜ!『天鶏(てんけい)』!」

「コケェ!」


天鶏(てんけい)』が響の指示の元、獅郎へ向かっていく。獅郎はそれを切り裂こうと剣を振るうも、それを大きく跳躍して躱す。


「なにっ!」

「コココッ!」


 そして落下の勢いを乗せた爪が振り下ろされる。獅郎はそれを大剣で受け止めた。結界を震わす程の衝撃が走る。


「ぐぅ……!中々強力な式神……だがしかぁし!」


 爪を押し返し、返す刃は『天鶏』の右の翼を切り上げる。傷口から白い陽の気が光の粒子のように漏れる。


「俺には時間稼ぎにしかならんぞ!」


(まだあの人みたいに作れないか……!でも!)


「今はそれで十分……!」


 響は刀を地面から抜き、顔の横で天を貫くように構えていた。そして握った両手から炎を生み出しその刀身へと纏わせていく。


(もっとだ……!もっと炎を!)


 これも『天鶏』と同じく準備に時間がかかる技。響は集中して両手から炎を供給し続ける。


 やがてそれは結界の天井へと届きそうな程伸び、長大な炎の刃を形作っていく。


「はあっ!」


 獅郎は『天鶏』の首を切り飛ばす。『天鶏』はそのまま形を綻ばせ、光となって消えていく。もう獅郎を阻む者は無い。


 だが既に響の準備は整っていた。


「『焔大太刀(ほむらおおだち)』!急急如律令!」


 振り下ろされる逆巻く炎の刃。獅郎は大剣に更に陽力を込めて受ける。


 これ迄と比べ物にならない程の衝撃が伝播し、一度強化された結界にもヒビが入る。


「うおおおおお!」

「ぬおおおおお!」


 二人の叫びが呼応する。獅郎の大剣にもヒビが入り、刃こぼれしていく。


(なんて術だ……!そして、なんて勝利への執念!やはりお前は俺の好敵手だ!ならば……それに応えなくてどうする!白山獅郎!)


 獅郎のボルテージが上がる。それに呼応して陽力の質は高まり、剣への強化を更に一段階引き上げる。


 響の刃をジリジリと押し返していく。


「ぐうぅ……!」


(なんて奴だよ……!でも!ここで負けてたまるか!)


 勝利を求める心が、響の陽力の質を引き上げる。炎は更にその勢いを増す。


「斬りぃ裂けェええええ!」


 響は全霊を込めてその刃を振り下ろす。そして……。


 ゴォォォッ!


 結界の中を炎と衝撃が包み込んだ。結界はそれに耐えきれず砕け散り、熱風が外へと放出される。


「あっつぅ!皆さん!姿勢を眺めて身を守って下さーい!」


 唯華が注意を即し陽力で身を守る。会場の生徒や陰陽師らも同様に身を守り、それが収まるのを待つのだった。



「み、皆さん無事でしょうか!?凄い衝撃と熱……!二人はどうなったんでしょう……!?」


 やがて熱風は収まり、実況の唯華の声を聞く生徒達。土煙に包まれた二人が出てくるのを固唾を呑んで見守る。


 煙が晴れた時、その場に立っていたのは……。


「あ!見て下さい!あれは……」


 一同の目に飛び込んできたのは、普段のたてがみのような姿は見る影もなくしなびた白い髪、左肩口から縦の大きな傷、体の所々にも火傷を負った獅郎だった。


 折れた剣を握りしめ肩で息をしている。


「獅郎さん!立って、立っています!響さんは……」


 獅郎の視線の先。煙が晴れた先には……傷口から血を零しながら、刀を杖のようにして立つ響の姿があった。


「響さんも立っています……!二人ともボロボロですが!まだ試合は続いている!」

「響くん……!」


 傷付いた響の姿。それを目にした空は今にも飛び出して行きそうな顔で見守る。


「はぁ……!はぁ……!フッ……そっちも存外頑丈だな……」

「うる、せぇ……!ゲホッ……!」


 両者は肩で息をしながら敵を見据える。その飽くなき勝利への執念は観客すら絶句する。


 このままどちらかが死ぬ迄行われるのではないかと誰もが思ったその時……。


「こ、今回は……お前の、勝ちだ。白波響」

「え……?」

「楽し……かった、ぞ……」


 そう言い残し、獅郎は顔から焼け焦げた黒い地面へと倒れ伏した。


 拳次郎が一瞥する。そして宣言する。


「白山獅郎、戦闘続行不可能と判断!よって勝者……白波響!」



「……け、け、決着ぅぅぅ!」

「「おおおおおおおおお!」」


 拳次郎と唯華の言葉に会場中から歓声が上がる。勝利を得た響、健闘した獅郎を称えて盛大な拍手が贈られる。


「勝った……のか……?」


 信じられないと言った声を漏らし、フラッと背中から倒れる響。それを受け止めたのは悠。


「あ、悠……さん」

「お疲れ様。そして勝利おめでとう」

「そ、そっか……俺、勝ったんだ……」

「ああ」


 悠の言葉にやっと勝利した事を実感する響。その顔は緊張が解けて穏やかに変わる。


 こうして御前試合は響の勝利で幕を引くのだった。



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