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第77話 御前試合開始 響VS獅郎

 交流会2日目。

 3日ある交流会の中でもメインイベントとも言える御前試合が今始まろうとしていた。


「響くん、がんばってね!」

「響、ファイト」

「あたしらも観客席で応援してるからね!」


 改めて空、秋、陽那から激励を受ける響。そこに遅れて2年の2人も集まる。


「頑張るのはいいけど、あくまで交流会だって事は忘れないように。あまり無茶しちゃダメよ?相手に対しても、自分に対してもね」

「いや、寧ろ死ぬ気で!殺す気でやれ!相手はあの白山獅郎だし、この前の借りを返してやろうぜ!」

「どっち!?」


 文香と臣也から正反対の事を言われて響は思わず困惑する。そのまま2人が言い合うのを宥める羽目になったが、結果的にこれが緊張を解すには丁度良かった。


「それじゃ、行ってきます!」



 時間になり校庭の結界に入場する響。反対からは白山獅郎が現れる。沸き立つ観客達。ぶつかり合うのを今か今かと待ちわびている。


 そして結界内に入る両者。いよいよ御前試合が始まろうとしていた。


「御前試合!白波響VS白山獅郎!」


 結界の外、両者の真ん中程の位置で拳次郎が音頭を取る。そしてカウントダウンが始まる。


「3!2!1!スタートォ!」


 ブーッ!


 戦いの火蓋を切ったのは響の方。ブザーが鳴り響くと共に居合の構えに移行し、その場で居合『初月』を繰り出す。


 当然、その距離では刃は届かない。ただの剣士の刃であるならだが。


「っ!」


 刹那、鋒から伸びる炎の刃。それが離れた獅郎へと迫る。獅郎は咄嗟に陽力で強化した両手を重ねて防御する。


 結界外では観客のどよめきと実況が鳴り響く。


「せ、先制攻撃をしたのは天陽院の白波響!目にも止まらぬ攻撃!亥土先生見えました!?」

「はい。刀を抜いた瞬間、鋒から炎で形作った刃を伸ばしてましたね。刀を振る速度と瞬間的に伸ばされた刃を正確に当てるのはかなり高度な技だと思います」

「あの一瞬そこまで見抜くとは……!流石天陽十二家の亥土家に認められただけある推察眼です!……あっ!因みに、実況と解説の声は結界に遮られていますのでご安心を!獅郎さんは果たして詳細まで見抜けたのでしょうか!期待です!」



 結界内。

 先制の一撃を防がれた響は剣を構え様子見に転じる。一方、獅郎の制服の袖が切り裂かれ、腕に浅い傷ができている。


 獅郎もまた、あの一瞬で陽力を集中させて防御したのだ。


「やるな……!次は俺の番だ!」


 口角を上げ、嬉しそうに陽力を全身に巡らせる獅郎。空程では無い陽力量であるのに、それ以上の圧を醸し出している。


 獅郎の気迫を受け、響は更に気合を入れて刀を握る。


「『獅子心剣(しししんけん)』急急如律令」


 獅郎は左手で刀印を結び、右手から獅郎の身の丈程はある両刃の大剣が生み出された。地面に突き刺さったそれは十字架のようなシルエットを響に見せる。


(南蛮作りの大剣……五行が金で憑依型か?)


 剣を抜き構える獅郎の佇まいから戦型を読み取る響。2人は視線をぶつけ合いジリジリと間合いを縮める。


 結界の外まで伝わるその緊張。実況の唯華でさえ、ゴクリと生唾を呑む音しか出せない程に真剣に両者の一挙手一投足を見守っていた。


「っ!」


 瞬間、動いたのは獅郎。その巨躯が弾丸のように勢い良く響へ突き進む。そしてその勢いのまま振り下ろされる大剣。それを響は刀を水平にして受ける。


 ガァンッ!


 甲高い音が鳴り、火花が散る。そのまま響を叩き切ろうと獅郎は力を込める。


(な、なんつう馬鹿力だ……!)


「こ、のぉっ!」


 響は右側に躱しつつ、刀を鋒が向く左側に傾け大剣を滑らせる。大剣は地面を叩き、衝撃と土煙を生じさせる。


 返す刀で響は斬りかかる。獅郎は体を捻り、大剣でそれを受け止めた。


「甘い!」

「ぐっ!」


 力任せに振り抜かれた大剣により響は刀ごと押し飛ばされるも、空中で身を翻し着地した。


(単純なパワーだけじゃなぇ……あの剣は陰陽術で生み出した物……それを更に陽力で強化してんだ。そりゃ陽力を纏っただけのこっちは押される)


 響は起きた事実を冷静に受け止める。そして対抗する術も既に考えている。


「『焔纏(えんてん)』急急如律令……!」


 響が刀印を結び術を発動すると、刀身に逆巻くように集まる陽力が炎へと変貌する。勿論、刀を炎から守る為に陽力を纏わせている。これは大剣にも防御力を発揮するだろう。


「そう来なくてはな!」


 獅郎が歯を見せるようにして笑うと、またも響に接近する。だが今度は響からも踏み込み刃をぶつけた。


「はあぁぁぁっ!」

「おおぉぉぉっ!」


 2人の叫びと共に一度、二度、三度と激しくぶつり合う両者の刃。散る火花の中に火の粉と金属片が混じる。


 五行の火と金は相剋の関係。火の元素は金の元素を討ち滅ぼす。


 それを表すように響の火は剥がれつつもその下の陽力に包まれた刀は無事。対して、獅郎の大剣は大きく刃こぼれしていく。


 だが押されるだけの獅郎では無い。

 打ち合いが不利とみて獅郎はまた力任せに響を弾き飛ばす。


「ぐっ……!」


 響は倒れないように地面に足をつけ、地面を削るようにしながら踏ん張る。しかし体勢が僅かに崩れた。


 それを見逃す程獅郎は甘くない。大剣を担ぐように構えながら響へ迫る。


「チッ!」


 響は強引にその剣を受けるも、腰が入っておらず刀を持つ手を弾かれる。がら空きの胴へ獅郎は再び斬りかかる。


(まだだ……!)


 斬撃が入ると思われた時、その剣を握る手に響のつま先蹴りが入る。


 響は刀で受ける事を諦めた。代わりに軸の右足を獅郎とは外側に、腰を廻して勢いをつけ、鋭い左の蹴りを繰り出したのだ。


 それにより逆に獅郎の大剣を持つ手が弾かれる。


「おらっ!」

「ぬぐぅ!」


 すかさず同じ足で蹴りが繰り出される。陽力を靴部分に集中したそれが獅郎の腹へと入る。獅郎はスタートの位置まで大きく吹き飛ばされた。


 姿勢を整え、落ち着いてまた刀を構え直して踏みとどまった獅郎を見据える。


「ククク……サバットか。珍しいな」

「分かんのかよ……」


 響が今しがた披露した足技……それは獅郎の言う通りサバットである。それは海外のストリートファイトで発展した喧嘩殺法を体系化したものであり、格闘術でも珍しい外靴前提のもの。


 陰陽師の制服の素材は特注品。それは靴も例外ではなく、サバットの武器と言える専用の靴以上の硬度と耐久性を誇り相性が良かった。


(練習しておいて良かったぜ……緊急用でもかなり役立つな)


 格闘技の本を見て学び、組手の授業で秋相手に練習していた響。それを的確に獲物を持つ手に当てたのは研鑽合っての賜物であった。


「剣術と足技の切り替え……器用な奴め。さて、仕切り直しといこう」


 獅郎は響を褒めつつ刃こぼれした大剣を光のように霧散させる。そしてもう一度同じ剣を生み出した。


(わざわざ作り直して……補修することは出来ないのか……?まあ悠さんのも直したとこ見た事ないし……作るまでが術って感じか)


「さあ、もう一度やろうか」

「やだね!」


 三度接近する獅郎に響は左手で作った刀印を向ける。そこに集中した陽力が炎となり、獅郎へ向けて勢いよく撃ち出された。


「『火弾』か……!」


 大剣の側面を盾にして防ぐ獅郎。響の術を天陽院の生徒が使う放出型の基礎の陰陽術と見る。


 しかし、平均的な生徒が扱うより響の方が数倍の威力を持っていた。だがそれでも獅郎は止まらない。


(コイツにはこれじゃ威力が足りねぇ!なら回転を加えてやる……言霊も乗せる!)


「『螺旋火弾』!急急如律令!」


 名を改められ再度撃ち出される火の弾。銃弾のように回転を加えられたそれの衝撃で獅郎の脚が止まる。


(ここだ!)


 響は刀を左の腰に廻し居合のような型を作る。そして左手で刀印を作り刀身へ添える。


「『焔旋刃(えんせんじん)』!急急如律令!」


 鞘から抜き放たれるように刀を動かし、刀印が刀身を撫でる。刀印から生じた炎が刀身へ纏われていき、鋒を超えて炎の刃を伸ばす。


 それこそ響が初手で見せた伸びる居合の正体。だがその時は居合の特性上、刀印や術の行程を省かれている。


 代わりに柄を握る右腕から炎を生み出して刃を伸ばしていた。


 しかし今回のそれは完全な所作、刀印や術に加え急急如律令と末尾詠唱が加えられている。


 それは開幕のものとは比べ物にならない威力と速度を誇る。


 ズバンッ!


「ぐあぁぁっ!」


 それは防御した大剣を砕き、獅郎の胴体を斬り裂いた。





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