第71話 響vs伽羅
「はぁっ!はぁっ!か、勝った……!」
地面に倒れ込んだ紫潤の絶命を確認した秋。木に寄りかかり、ゆっくりと腰を下ろす。
全身がズキズキと痛む。それは『瞬雷憑依』の反動だ。1分発動しているだけで倒れるのだ。43秒でもその負荷は凄まじい。
(暫く動けないな……でも)
「霧は晴れた……」
当初の予定通り、秋は仕事を果たしたのだった。
時は少し巻き戻り、霧の立ち込める森林エリア。その一角では響が炎の刃を振るっていた。
「うおおぉぉぉ!」
「くぅっ!」
怒涛の連撃を相手の『影人』……伽羅は両手に纏った岩の手甲で刃を防御する。
しかし、攻撃を受け続けていた手甲にヒビが入る。伽羅は堪らず大きく後退した。
「クソ……!」
吐き捨てる伽羅。その顔は怒りの色が伺える。反対に響は余裕綽々だ。
その時、周囲を覆っていた霧が晴れる。
「っ!何……!?」
「霧が晴れた……!秋か!」
秋が霧の主と接触し、術を中断させたのだろうと喜ぶ響。
(これで少しはみんなが逃げやすくなる……!秋は仕事を果たしている。なら!)
「俺もやるしかねぇよなぁ?」
陽力を激しく蜂起させる。伽羅はそれに対して刀印を結ぶ。
「岩衝破弾!急急如律令!」
そして宙に出現させた岩の弾丸を撃ち出す。その数……凡そ40個。響は臆せず接近する。
「天刃流『風雲』!」
迫り来る弾丸……その全ての軌道を刀で逸らす。
「何!?」
天刃流の対飛び道具の技『風雲』。『焔纏』により強化された刀は、伽羅レベルの攻撃も逸らす事ができる。
(こいつ、1ヶ月前とはまるで別人……!)
響の力に驚嘆する伽羅。そこに響は刃を振り下ろす。
「ぐうっ……!」
右手の手甲で防御する伽羅だが、ジリジリと押されていく。
「このっ!」
伽羅は左拳を響の顔面へ振るう。それを響は首を傾げるようにして躱す。
「はあっ!」
響は一歩離れてからまた接近し、一度、二度、三度と連続で剣を振るう。それを伽羅は手甲で受け、逸らし、後ろへ飛んで回避する。
伽羅の頬を汗が伝う。それは響に押されている証拠。
「どうしたよ?この前に比べて随分余裕ねぇじゃねぇか」
息が上がっている伽羅に響は言う。
「俺が強くなったのか……それともあんたが弱くなったか……どっちだ?」
「減らず口を……ならば直に見せてやろう!」
伽羅は手甲の術を解く。そして陰力を滾らせ刀印を結ぶ。
「『岩甲変腕』急急如律令」
名を唱えると、現れたのは両手を覆う手甲。しかし見た目が異なる。
(見た目だけじゃなく陰力の圧も違う……!)
響は警戒しながら刀を構える。そしてゆっくりと距離を詰めていく。
「はあっ!」
そんな響の動きを焦れったく思ったのか、伽羅は響へ飛び出していく。その速度は先程よりも速い。
鋭い左横拳の一撃を響は刀で受け流し、そのまま刃を振るう。それは右手の手甲に阻まれる。
(防御もそりゃ上がってるよな……!)
一撃で傷がつかない事でその防御力も理解する。
伽羅は右ストレート、左ジャブ、手刀を、響は袈裟斬り、突き、横一文字を繰り出す。
激しい攻防が両者の間を行き来する。
(かなりやる……!けど……)
響の刃が伽羅の肩口を斬る。
「相手にできねぇ程じゃねぇ」
「チッ!」
伽羅の獲物は手甲。どれだけ強力でも腕の長さが攻撃範囲。一方響の獲物は刀。当然、腕の長さ+刀の長さが攻撃範囲になるので有利だ。
だが伽羅は両手で攻撃ができる。響は刀を基本両手持ちで扱う為、手数では勝る。
つまり、得意距離で一気に攻められるかが互いの勝敗を分ける。
だがこれは互いの獲物が一つであった場合の話。
伽羅は距離を置き、そして刀印を結ぶ。
「させるか!」
響の鋭い斬撃を伽羅は両手で防ぐ。
放出型で射程の長い『岩衝破弾』を使おうとした伽羅だったが、それを読んでいた響に詰められて発動できない。
刀の届かない距離からの攻撃狙いは正しかったが、下がるより追う方が早いならば潰されるのは自明の理。
(このまま攻める!)
「っ!」
響が畳み掛けようとしたその時、手甲の隙間から刃が飛び出した。
反射的に後退する響。その脇腹は刃が掠り赤く染まっていた。
「暗器か……!」
「そうとも。しかし剣だけでは無い」
伽羅がそう述べた瞬間、剣が収納された代わりに肘を覆う部分が変形する。開いた装甲の部分から陰力を吹き出し、伽羅は急速に響へ接近する。
そしてその勢いを乗せた拳が振るわれた。
「ぐぅっ!」
響は刀でそれを受ける。だがその体は吹き飛ばされた。空中で宙返りし、刀と足を地面に付けてその勢いを殺す。
(変形する多機能手甲!厄介だな!)
顔を上げた瞬間、首を右横に逸らす響。そこに伽羅の左拳が通り過ぎる。
「この!」
反撃の逆袈裟斬りを繰り出すが防がれ、反対の手甲からまた刃が伸びる。
「ぐっ!」
飛び退くように後退するが、リーチが伸びた事で躱しきれず肩口に傷がつく。
(高速移動に拳打からシームレスに剣を出してきやがる……!)
手甲による格闘の型を大きく崩さず、多種多様な攻撃を繰り出す。それこそ『岩甲変腕』の本領だ。
「どうした?弱くなったか?」
意趣返しのように響へ問いかける伽羅。
「さあな。でも……もう目は慣れたぜ」
「……っ!ぬかせ!」
それでも余裕があるように見える響に、伽羅はまた怒りを見せる。
手甲から勢いよく陰力を放出し、また一気に接近する。
「っ!」
だが拳を振るう直前。伽羅の目の前に刃が迫った。
伽羅はすんでの所で軌道を変えたが、太腿を斬られる事となる。そのまま響の後方へと進んで着地する。両者の間には青い血が垂れていた。
「慣れたって言ったろ?」
「ふざけた事を……!」
響の言葉に益々伽羅は憤怒を見せる。陰力が迸るが、冷静さを欠いているのは誰が見ても明らかだ。
「次は俺の番だぜ」
響は強く地面を踏みしめ、伽羅に接近する。
(目で追われるなら潰せばいい!)
伽羅は地面を強く叩き、土煙を発生させる。そして手甲の陰力の噴射で一気に回り込み、響の背後に迫る。
(貰った!)
手甲から伸びた刃が後頭部へ迫る。
「読めてるぜ?」
「っ!」
しかし、それは避けられた。
響は『影』の気配が読める。それは術を構成する陰力からも読み取る事ができるし、術で隠れようとも『影』本体の気配は一段と大きく感じられる。
故に響に『影』の凡ゆる奇襲は奇襲とならない。
「はああああ!」
拳を振り抜いた伽羅に袈裟斬りが入る。青い鮮血が勢いよく吹き出す。
「ぐうぅぅっ!」
伽羅は掌の装甲を変形、全力で陰力を吹かせて後退する。流石に響自身はそれには追いつけない。
だが追いつけないならば、それより早く刃を届かせればいい。
響は刀を左の腰に回し、居合のような型を作る。そして左手で刀印を作り刀身へ添える。
「『焔旋刃』!急急如律令!」
鞘から抜き放つように刀を動かす事で、刀印が刀身を撫でる。刀印から生じた炎が刃へと纏われていき、鋒を超えて炎の刃が勢いよく伸びる。
「ぐはぁっ……!」
振り抜かれた炎の刃は伽羅の胴を斬り裂いたのだった。
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