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第70話 瞬雷の如く

 変貌した紫潤の姿。その凄まじい圧に秋は身構える。


(術じゃなく肉体の能力か?さっき迄と雰囲気もまるで……)


「っ!」


 思考を凝らす中、秋の目の前に拳が迫った。秋はそのまま殴り飛ばされる。


「ぐうっ……!」


 咄嗟に直刀を盾にしたが紫潤の力は凄まじく、幾つも木々を薙ぎ倒してやっとその勢いは止まるのだった。


 紫潤はゆっくりと歩み寄る。


「フハハハハっ!俺が霧に隠れて術を使うだけだと思っただろ?甘ぇよ!これこそ俺の真の姿!今迄のは油断させる為の演技だったのだぁーっ!アッハッハ!」


 その屈強な体を逸らして笑う紫潤。秋は直刀を杖にして立ち上がる。


「しぶといな。だが!この強化に全振りした肉体には如何なる攻撃も効かねぇ!」

「それはどうかな?」


 秋は紫潤を見据え刀を構え直す。左手では刀印を結ぶ。


(いかづち)纏いて万物斬り裂け……『雷電憑剣(らいでんひょうけん)』急急如律令!」


『雷電憑剣』の完全詠唱。それにより直刀は一層激しく雷を纏う。身体も強化し直し、力強く飛び出す秋。


「はぁぁぁ!」


 振るった雷刀を紫潤は巨木のような腕で受ける。僅かに肉を斬り裂き、激しく雷が流れる。


 だが……。


「ぬるいわぁっ!」


 秋ごと直刀を弾き飛ばす紫潤。


(嘘だろ!?)


 腕は少し切れただけ。雷で動きが止まることも無い。


「言っただろうが!効かねえってなぁ!」


 拳を振るう紫潤。秋はそれを躱すが、怒涛のラッシュが始まる。秋は右に、左にと飛んで紙一重でそれを避ける。


「ちょこっ!まかっ!避けんじゃ……ねぇ!」

「がはっ!」


 煩わしくなった紫潤は横薙ぎの蹴りを繰り出し、秋を蹴り飛ばした。


 また木々を薙ぎ倒しながら進み、大きな岩にぶつかって秋は倒れる。


「クソ……!」


 全身の痛みに耐えながら立ち上がる秋。次なる手を考える。


 だが妙案を待ってくれる紫潤では無い。


「まだ生きてやがる。タフだな……なら、これならどうだ?」


 紫潤は薄い霧を出す。それは二人を包み込んだ。


(なんだ……?こんな霧じゃ姿も隠れないのに……)


 秋の言う通り、霧は二人を覆い隠す事など到底できない。


 つまり、狙いはそうでは無いという事。


「っ!」

(体が……!)


 直後、体が弛緩する秋。


「毒か……!」

「そうとも!一度吸えば神経が麻痺する!」


 紫潤の言う通り、体は指先一つ動かない。


「そうして動けない陰陽師をなぶり殺すのが俺の第二の戦法!」


 紫潤は拳の連撃を浴びせる。当然、秋は防御する事が出来ない。そのまま地面へ叩きつけられた。


 身体強化術でダメージは多少軽減されているが、それでも何度もノーガードで攻撃を受けて無事な訳は無い。


 秋は倒れ伏す。


「さて、いい加減終わりにしようぜ?また体戻さねぇと、ここに来た奴が油断してくれねぇからな」


 既に次の獲物の事を考えている紫潤。


「まだだ……」

「あん?」

「まだ僕は、死んじゃいないぞ……!」


 まだ秋の目には闘志が燃えていた。そして、動けない筈の体をゆっくりと起こす。


「マジか……でも、亀みたいな動きでろくに起き上がれないんだ。そんなんで何ができる?」


 秋は膝を着いた状態までしか起き上がれなかった。そんな動きでは到底紫潤に倒す所か、傷一つ付けられないだろう。


「お前を倒せる」

「は?」


 だが、秋はハッキリと口にする。


「出来ねぇ事を言ってんなよ!いや、寧ろ出来るもんならやってみな!」


 当然紫潤は信じない。信じられない。だからこそ……足元をすくわれる事になる。




「『瞬雷憑依(しゅんらいひょうい)』……急急如律令!」


 秋が術を唱えると、全身から微弱な雷が迸る。


「何かと思えば、それだけの雷で一体何を……っ!」


 紫潤が落胆の言葉を言い終わるより早く、肩口に斬撃が入る。


「何っ!?」


 傷口を覗き振り返る紫潤。視線の先には直刀を振り抜いた秋が立っていた。


「っ!」


 そしてまた姿が消えたと思いきや紫潤の目の前に迫った。その一撃を紫潤は何とか防御する。


「なんっ……なんだよ!」

「ぐっ!」


 秋は大きく弾き飛ばされる。だが着地と同時に姿勢を屈め、バネのような勢いでまた接近する。


 そのまま今度は周囲を旋回しつつ連続攻撃を浴びせる。紫潤はその一つ一つを全力で防ぐ。


(ぐっ!こいつ速く……!どういう事だ!?そもそも毒で動ける訳……)


 秋の体に依然毒は回っている。そうであるのに動けるのは先程の陰陽術──『瞬雷憑依(しゅんらいひょうい)』が関係している。


『瞬雷憑依』は雷を纏う術では無く、雷を体内に流す術である。


 体内に流された雷に思念を入力する事で第二の神経とする。そうする事で本来の神経に何らかの障害が起きようとも問題無く体を動かす事ができる。


 それと同時に筋肉を普段より速く収縮させる事で、まさに瞬雷の如き高速駆動を可能にしている。


 当然デメリットはある。


(最初の一太刀で倒せなかった……!首を落とすつもりが、速度に慣れてないから狙いがズレた……!)


 速度を上げすぎると思考速度と制御が追いつかない事。


 そして雷を流していると言うことは、自身の体を攻撃しているようなものだ。


 それに加え、無理やり肉体を高速で動かしている事でかなりの負荷が生じる。


 秋がこの術を維持できるのはおよそ2分。これは何もせずに立った状態での時間であり、全開戦闘を行った場合には一分程で動けなくなる。


(もう15秒……!余力を残す為にも、あと30秒でケリを付ける……!)


 秋の攻撃は苛烈さを強める。紫潤の体には大小様々な傷が出来ていく。


「ぐぅっ……!この!」

「なっ!」


(防がれた……!?)


 さっきまで紫潤は陰力を全身に纏い防御力を高めて対抗していたが、この攻撃は腕に陰力を集中させてピンポイントで防いだのだった。


「目で追えなくてもぉ!デカイ雷は分かるんだよォ!」

「ぐあっ!」


 蹴り飛ばされる秋。紫潤は高速で動く秋では無く、攻撃時に蜂起する直刀の強大な雷電を感知、防御を合わせていたのだ。


「クソ……!それなら!」


 秋は雷電を抑え攻撃を繰り出す。しかしそれを読んでいた紫潤。瞬時に陰力を全身に広げる事で致命傷には到底届かない。


(25秒!削り殺すのは無理か……!?どうする……!)


 秋は残り20秒で紫潤を倒さなくてはならない。焦りが内心を支配していく。


「そんな攻撃では俺は倒せんぞぉ!」


 秋の内心を見透かしたかのような挑発的な言葉を吐く紫潤。


「……そいつはこれを食らってからにしろ!」


 それに臆する事無く、秋は声を荒らげもう一度加速する。


(もっと速く!もっと先へ……加速しろ!)


 紫潤の周りを衛星の如く回る秋。その動きはどんどん速く、疾く、捷くなる


(フン!どれだけ速く動き、どこから来ようとも……俺に致命の一撃を与える為には必ず刃に膨大な雷を纏う。それに合わせれば負けることはない!)


「さあ来い!」


 どっしりと構える紫潤。対する秋は『瞬雷憑依』発動から36秒が経過していた。


 互いに一際緊張が走る。




 そして3秒後、雷電が光り輝く。


(来たな!)


 振り返る紫潤。真っ直ぐ顔面に進んで来た直刀を両手の守りで受け止めた。


「俺の勝ちだぁ!死ねっ!」


 直刀を振り払い、拳を振りかぶる紫潤。しかし、その拳は空を切る。


(な……!刀だけ……!?)


 目の前に秋が居ない事を理解した瞬間、背後から殺気を感じ振り返る。


 そこには拳を構えた秋が居た。秋は速さ勝負と見せかけて直刀を投擲、囮とする事で背後を取ったのだった。


 紫潤は防御しようと腕を動かすがもう遅い。


 秋のこの一撃で決めるという意思が陽力をどこまでも白く輝かせ、その拳が振るわれる。


「『雷光拳』!」


 白い閃光がほとばしり、紫潤の背中から胸を穿つのだった。


「がっ……!」


 紫潤は前から倒れ伏し、そして二度と動く事は無かった。


『瞬雷憑依』発動から43秒後──秋は勝利を掴んだのだった。

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