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第69話 霧の主

 一方、秋は中央エリア入る。霧が一層濃くなるがそれは霧の主へ近づいている証拠だった。


 結界で出来た建物を横切りながら、更に中央へと走る。そして、秋にも分かる程『影人』とその陰力の気配が強まる。


(居る!確実に!)


 秋は直刀を抜き放つ。ギリギリまで陽力は最小限にして気配を消す。


 そして……。


「っ!」


 ローブの『影人』に飛びかかり、その直刀に雷電を纏い振り下ろす。


 バリィッ!


 激しい雷光が瞬く。だがそこにはローブしか無かった。


(躱された……!)


 奇襲は失敗した。気配の方に視線をやると、ゆったりとした服装の紫髪の『影人』が居た。


「まさかここに攻めてくるとは思いませんでしたよ……陰陽師さん」


 服の埃を払う『影人』。口では予想外と言いつつ余裕綽々といった感じだ。


「コソコソしてる奴を見ると表に引きづり出したくなってね」


 直刀で地面の呪術陣に雷を流し破壊する秋。


 煙が薄くなっていき視界が開ける。暫くして結界内の全ての霧が晴れる。


「苦労して書いた陣と術を……やってくれましたね」


 紫髪の『影人』は怒り心頭といった風に顔を歪ませる。しかし、息を大きく吐き出し平静を取り戻す。


「まあ過ぎた事はいいでしょう……しかし、この紫潤(しじゅん)を侮った事!後悔させてやる!」


 全身から霧を出す紫潤。それは瞬く間に姿を覆い隠してしまう。


(霧……範囲は陣のモノに比べたら流石に狭いな)


「『雷華(らいか)』!」


 左手から雷球を放つ。華のような爆発で霧を吹き飛ばす。しかしそこに紫潤の姿は無い。


「っ!上か!」


 紫潤は上空へ退避していた。そして地上の秋へ水球を撃ち降ろす。


 秋はジグザグに走ってそれらを避ける。そして重力に引かれ地上へ落ちてくる紫潤へ追撃する。


(空中なら躱せない!)


「『雷電憑剣(らいでんひょうけん)』!急急如律令!」


 激しい雷電の刃が振るわれる。


「甘い!」


 だがその一振は水の盾により受け止められた。


 ──否。


「がっ!」


 紫潤に電流が走る。


(防いでいるのに……!?)


 紫潤は硬直し、盾が緩む。秋は力任せに刃を振り抜き盾ごと紫潤を斬り裂いた。


(もう一撃!)


 振り抜いた直刀を返し、再び紫潤へ襲いかかる。だが盾を構成していた水が炸裂する。


 いや、正しくはより細かく姿を変えた。


「くっ……!」


(水から霧に!視界が……!)


 怯みつつ剣を振るったが、既に紫潤は後退していた。


「危ない危ない……」

「チッ……」


(五行の水……それを細かくして霧を作っているのか。でも霧自体に攻撃力は無い)


 攻撃は躱されても、それを元に紫潤の術を冷静に分析する秋。


(雷……『影世界』でも見れましたが、それを操る者が居るとは……食らうのも初めてですね。そして雷は水を貫通するのですね)


 紫潤もまた秋の術から雷と水の関係性を読み取る。


「『霧隠(きりがくれ)』」


 紫潤は再び霧でその体を隠す。


(そっちが霧で隠れるなら……!)


 秋にも考えがある。霧に包まれた場所を右側から回り込むように移動する。


 すると、霧の中から水球が幾つも飛んでくる。


 秋はそれを速度で振り切り、或いはしゃがみ、飛んで避ける。あくまで霧には入らず霧のギリギリ外側を走る。


(いつまで避けられますかな?)


 再び飛び出た水球。それは秋を追うように弧を描く。


(っ!追尾か!)


 秋は一つの水球を引き付けて躱すが、微妙な時間差をつけられた他の球は避けられない。だから直刀を振るい弾く。


 しかし足が止まる。そこへ、更に時間差で放っていた追尾する水球が空より降り注ぎ、秋に直撃した。


「くっ……!」


 ダメージを受ける秋。その威力は襲撃前に相手をしてた生徒たちとは一線を画す力である。


 秋は傷つきながらもお返しとばかりに『雷華』を放つ。しかし撃った霧の中に紫潤は居なかった。


「こちらです」


 やや左側に居た紫潤。また水球は秋を襲った。


「クソ……!」

「ククク……!どうです!?これが私の力です!」


 傷ついた秋を眺め、鼻高々に胸を逸らして見下す紫潤。相当気分が良いようで、その口角は吊り上がっている。


 しかし、秋もまた笑う。それぐらいの傷は必要経費と考えていたから。


 その時、地面が……いや、地面に置かれた護符が輝く。


 そしてそこから雷の鎖が伸び、紫潤を拘束した。


「な、何っ……!?」


 秋は様子を見つつ回り込んたように見えて、その実護符を撒いていた。


 そして護符に念を送り、護符に刻まれた『鎖状雷電(さじょうらいでん)』を起動させたのだ。


「これなら霧の中に居ても位置が分かる」


 雷の鎖は光輝き、霧の中でも紫潤を照らしている。


「喰らえ!」


 今度は確実に仕留める気概を胸に、輝く雷刀を握る。そして一直線に飛び出して行く。


「ぐ、こんなもの……!」


 紫潤は体に力を入れるが、雷鎖(らいさ)はビクともしない。


 そして霧を切り裂きながら紫潤へ秋が迫る。


「はああああっ!」


 雷電の刃は光跡を描き、紫潤を斬り裂いた。


「ぐはぁっ……!」


 青の鮮血が舞う。これにて決着。




 とはならない。



「まだだァっ!」

「っ!」


 大きく目を見開く紫潤。その身から陰力が溢れる。秋はその気迫に気圧され後退する。


「お、おお、おの、おのれぇ陰陽師ぃぃぃ!」


 目をギョロギョロと動かし、呪詛のような言葉を漏らす紫潤。まるで 正気を失っている。


「なんなんだ……!」

(でも拘束してる今がチャンス!)


 秋は混乱しながらも好機とみて直刀の鋒を向ける。直刀に纏っていた雷が鋒へと集まっていく。


 刀印を結び、その名を口にする。


「『雷光砲』!急急如律令!」


 そして放たれる光弾。真っ直ぐな光の軌跡を描きながら進み、紫潤へと命中した。


 眩しい光が着弾した周囲を包み込む。


 光は収まったが、そこには土煙が立ち込める。


(確実に当たった!無事では済まない筈……!)


 確かな手応えを感じる秋。


 その時、煙から何かが飛び出した。


「っ!」


 秋は咄嗟に直刀で受け止める。そしてその正体が目に入る。


「陰陽師ぃぃぃ!」


 全身はズタボロで、左腕を失っても辛うじて紫潤と分かる存在だった。


「まだ生きて……ぐあっ!」


 秋はとてつもない力を乗せた拳で弾き飛ばされる。地面を転げ回るが、何とか受け身を取って立ち上がる秋。


「許さん、許さんぞ陰陽師!まさかまさかまさかぁぁぁぁ!」


 叫びと同時に膨張する紫潤の体。蠢きながら膨らむそれは、やがて元の五倍は大きくなり、筋肉の鎧を纏った巨人になる。


「……まさか、こんなすぐこの姿を見せるハメになるとはなぁ?」


 一人称も口調も……陰力の雰囲気も変化したのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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