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第68話 意見対立

 響と秋は霧の立ち込める森林エリアを南へ進み、中央エリアに居るであろう『影人』へ向かって走っていた。


 その最中、秋は口を開く。


「走りながら聞いてくれ。道中、『影』やそれと交戦してる生徒を見つけても霧の主を優先する」

「はぁっ!?なんでだよ!」


 響は抗議の声をあげる。

 当然だ。響は理不尽な目に合う人を救う為に陰陽師になったのだから、誰かを見捨てるなんてできないしする気も無い。


 大半が姉妹校の生徒であってもそれは変わらない。


「長期的な目で見てよ。霧が晴れることで助かる人間の方が多い」


 秋の考えは響よりも遠くを見据えている。それは響も分かっている。


 だが……。


「そりゃ……そうだけど、見捨てろってのかよ!」

「優先順位を履き違えるなって事だよ!」


 秋もまた声を荒らげる。


 秋は現実的な見方をしている。対して響は感情優先。2人の意見はぶつかり合って当然であった。


「僕達は学生であっても陰陽師だ。みんなも戦う覚悟も、その果てに死ぬ覚悟も出来てる筈だ」

「でもよ……!」

「君が目の前の人を救ってる間に、遠くでもっと人が死んでるかもしれないんだぞ!」

「っ!」


 秋は立ち止まり響に訴えかける。その脳裏に浮かぶのは過去の光景。


 仲間の陰陽師を助ける為突出した秋。その者を救い出すも、それは『影』の巧妙な罠であった。


 背後から迫った『影』は秋の仲間を次々に殺していった。


 そして『影』の凶刃は秋にも迫った。だが貫いたのは秋ではなく、駆けつけた秋の師匠であった。


 その光景を、秋は今にも悪夢として見ている。


「僕の短絡的な行動で……何人が、誰が犠牲になったのか……!君は知らないから!」


 血が滲む程に拳を握る秋。その悔恨は計り知れない。


「……秋の理屈は分かった。でもやっぱ俺は、手の届く所で理不尽な目に合う人を見殺しになんてできねぇ」

「響……!」

「だから、お前はお前の信念に従え」

「え……?」


 秋は響の言葉に面食らう。響は続ける。


「俺が目の前の人を助けて、お前が遠くの人を助ける……これならいっぱい人を救えるだろ?」


 確かに両対応ならばどちらも救う事が出来るかもしれない。だが相手が『影人』の場合、敗れる可能性は当然2人の時より高い。


 だから、石橋を叩いて渡る秋は賭けに出れない。


「……でも、今は君しか霧の主の居場所が分からない……それはどうするんだ?」

「霧の奴はさっきから移動して無ぇ……もしかしたら特定条件で霧を出してる間はあんま動けねぇんじゃねぇか?」

「っ!」


 秋は考えてもみなかった事に目を見開く。


「……確かにこの広い結界を覆い、尚且つ視界も効き辛い程に濃い。それを出し続けるのはかなり陰陽力がいる。それはあまりにも非効率だ。なら、難しい特定条件を付与してる……か」

「だろ?位置はこのまま真っ直ぐ。俺が離脱しても後から追いかけられるし、もし『影』が移動したらすぐ秋に連絡する」


 秋はメリットとリスクを秤にかける。


(最悪はどちらも敗れる事……でも、話を聴くに響は『影人』を単騎で倒している。僕もこの1ヶ月で前より強くなっている。ならば……)


「……分かったよ。なら、1体でも多くの『影』を倒し、1人でも多く人を助けよう。僕達で」

「おう!」


 2人は納得し、打ち合わせをして再び道を進むのだった。



 数分後。


「うわあああぁぁぁ!」

「「っ!」」


 2人は悲鳴に立ち止まり顔を見合わせる。そして2人は頷き、事前の手筈通りに動く。


 響は声のした方へ、秋は霧の主のいる中央エリアの方へ向かう。


 もう2人に言葉は必要無かった。それぞれが自身の信念を胸に戦う事を決めたのを、お互い知っているから。


 響の向かった先では、悲鳴の主である男子生徒が『影人』に迫られていた。


「おい、白波響はどこだ?」


 紺色の髪は毛先が白く、金色の瞳で問いかける『影人』……それは伽羅(から)だ。


 弱き者しかいない場所への襲撃に後ろ向きだったが、白波響がいると聞いて参戦したのだ。


「ひぃぃ!」

「どこだと聞いている。早くせねばその目をくり抜くぞ」


 尻もちを着きながら後退る男子生徒。最早そこに戦意は無く、恐怖が張り付いている。


「し、知らない!知らねぇよぉ!」

「そうか。ならば……」


 男子生徒へ伽羅の手が迫る。男子生徒は堪らず目をギュッと閉じた。その時……。


 殺気に気が付きその場を飛び退く。そこには赤き炎を纏った刃が振り下ろされた。


 割って入ったのは白波響。


「俺ならここに居るぜ。伽羅」

「白波響……!」


 かつて戦った2人。その視線がぶつかり合う。男子生徒は目を開けて響の背を見上げる。


「き、君は天陽院の……!」

「ここは俺に任せて北へ行け。校長が結界を何とかしようとしてる」


 響は伽羅聞こえないよう小声で伝える。


「ほ、本当か!?」

「ああ。真っ直ぐ北だ」

「あ、ありがとう!ありがとう!」


 男子生徒は立ち上がり、北へ向かって走って行った。伽羅も別段追う事はしない。


 何故ならば、当初の目標は今目の前に居るから。


「ずっと……どう殺してやるか考えていた」


 伽羅はぽつりぽつりと語り出す。


「貴様に腕を落とされてから、再生したにも関わらず傷が疼いてしょうがなかった。そして……それは貴様を殺さねば収まらない。この時をずっと待っていた……!」


 激しい怒りを表すように全身から陰力を滾らせる。以前ならば、響はそれに臆しただろう。


 しかし、今の響はそれを前にしても涼しい顔をしている。


「俺もだ。あの時は殆ど手も足も出なかったからな……」


 もう以前の響では無い。


 対抗するように陽力を蜂起させ、伽羅を見据える響。


「行くぜ。俺がどれだけ変わったか……見せてやるよ!」

「ふん……変わったのは貴様だけだと思うなよ!」


 地を強く蹴り、飛ぶように接近する2人。そしてぶつかり合う刃と手甲。


 その衝撃は、周囲の霧を容易く晴らしてしまう。


 今ここに、互いにとってのリベンジマッチが始まるのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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