表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/163

第67話 脱出の算段

 武叢の死亡を確認し刀を納める響と霊次。


「最期の言葉……なんだったのだ?」


 霊次は武叢が最期に自分達へ向けた「見事」という言葉が引っかかるようだ。


 それは当然の疑問だ。倒すべき陰陽師に敗れ、それを称える『影』など聞いた事も無い。


「さぁ?ぶっちゃけ『影』の事はそこまで知らん。でも、人を襲うなら倒すだけだろ?」

「……そうか。そうだな」


 響は短く答え、霊次はそれに納得する。しかしその言葉とは裏腹に、響の内心も複雑なものだった。


(正直、武叢の強さに驚いた。アイツと剣を交えて……それが研鑽の果てに形を成したものだって伝わってきた。紛れも無く本物だったんだ。だから……称える気持ちがない訳じゃない。けど人を襲う事は許せない。それは変わらない)


 響の信念は理不尽から人を救う事。その理不尽の元凶が『影』ならば容赦なく斬り捨てるだけだ。


 だが……。


(もし……もし最期の言葉も本心だったら……俺とアイツは似てるんじゃないか?)


 今ではもう問いかけることすら出来ない亡骸を眺めてそう思う響。


(いや、よそう。今はこの襲撃を乗り越える事を考えねぇと)


 響は頭の隅に疑問を追いやり思考を切り替える。


「霊次、ちょっと待っててくれ」

「あぁ……分かった」


 響は走り、霧の中に入っていった。


 一分後、響は戻ってくる。


「お待たせ」

「その子は……」

「この子は月城由良。ここに来るまでに助けたんだ」

「ど、どうも……秋雨先輩。えと、足怪我しちゃって……おぶって貰ってたんです」

「なるほど……取り敢えず校長の元へ行こう」


 響と由良は霊次に促され結界の壁まで来る。すると結界の一部が開く。


 中に入ると校長や生徒達が出迎えた。


「2人共無事で良かった……あの侍を倒したのだな」

「はい、これも響のお陰です。私1人では出来なかった」

「そりゃこっちのセリフだ。トドメ刺したのはそっちだし」

「なら2人の力だ」

「おう、そうだな」


 2人の信頼が見えるやり取りに校長は満足気に頷く。そして響の背に居る由良にも気がつく。


「月城さんも無事で良かった」

「あ、いえ……響さんに助けて頂いて……」

「そうか、それも礼を言わなければな。ありがとう」


 校長は頭を下げる。そして背後に居る者へ治療の指示を出した。響は由良をゆっくりと下ろし、三人は地面に座る。


 傷が生々しい響と霊次へ治癒術を使える陰陽師が駆け寄り、治療を開始する。


「助かります。あと由良も足怪我してるんで治してやってください」

「承知しました」

「響さん……ありがとうございます」


 響の気遣いに由良は丁寧に礼を申す。


「では、治療を受けながら聞いてくれ。これからの事を」


 一先ず危機を乗り越えた事で次の行動をどうするか。校長には既に案があった。


「私はこれから『影』の結界の解析を行い、解除出来ないか試してみる」


 校長こと土御門晴義は結界術に精通する土御門家だ。故に結界の多大な知識を持っている。だから結界をなんとかするならこの場に居る中で最も適任だ。


「解除は出来なくても、最低でも人が通れる穴を開けるつもりだ。だから霊次くんには護衛を頼みたい」

「お任せを」


 当然、解析をしている間は無防備だ。だから晴義に次いで位階が高い第陸位の霊次が適任だ。


「俺は何をすればいいッスか?」

「響くんは治癒が済み次第、結界の中に居る人達へここに行くように連絡をして欲しい」


 今での連絡手段は陽力モードを使ったスマホしかない。


 それも通信距離が短い。故に、連絡するには結界内を走り回らなければならない。


「まだ『影人』が何体も居るであろう結界内は危険だ。しかし、君は位階以上に強い。現に『影人』も倒している……頼んでもいいかな?」

「勿論です」


 響はノータイムで了承する。人を助ける為とあらば断る理由が無かった。


「ありがとう」


 こうして方針が決まり、響達の治療が終わる。


「じゃあ行ってきます」

「気をつけてな」

「響……君ならできるさ」

「おう」


 響は校長と霊次に言葉を返し、結界内へ再び足を踏み入れる。


「あ、あの!響さん!」


 そこに由良が声をかける。響が振り返ると、足を治療して貰っている最中なので座りながら視線を向けていた。


「なんだ?」

「あ、その……お礼、まだできてません。だ、だから!死なないで下さい!」


 命を助けた件についてだろう。響は当然の事をした迄だが、それでは納得しないであろう事も彼女の眼差しから伝わってくる。


「ああ、分かった。約束する」


 響は安心させるように微笑む。そしてまた前を向き、霧が立ち込める結界内へと走っていくのだった。


「さて、近くにはっと……」


 スマホで近くの端末を検索する。すると、1つだけ見知った人物の端末が表示される。


 響は通話をかける。


「秋!無事か?」

「響か。良かった……そっちも無事みたいだね」

「おう、一回合流しようぜ」

「了解した」


 2人はマップアプリで分かった互いの方向に走り、合流する。そして脱出の算段の事を伝える。


「……なるほど。君は引き続き人を探すのかい?」

「おうよ。そっちは?」

「僕は霧を出している敵を倒す」


 現在、結界内は霧が常に立ち込めている。戦闘の余波で晴れる事はあってもそれは一時的で、暫くしたらまたそこに霧に覆われる。


 だからこの霧は『影人』が常に出していると考えているのだ。


「確かに……いい加減この霧をなんとかしねぇと」


 マップアプリで自分の居る場所は大体分かるとはいえ、視界が悪いと人を探すにも、逃げるのにも支障が出る。


 戦闘によって地形も変わって危険であろう事も響の頭に浮かぶ。


「でも『影』の場所は分かるのか?」

「恐らく中央だよ」


 このフィールドは中央の無元素エリアを取り囲むように木、火、土、金、水のエリアがある。


 中央エリアは全てのエリアと隣接しているので、霧を送るにはもってこいなのだ。


「なるほどな……」

「でも確証は無い。響、『影』の気配は読めないか?」

「うーん、霧にも『影』の気配があってだな。近くに居ないとそれに阻まれて音が聞こえねぇんだ」


 術にも本体よりは弱いが『影』の気配がする。戦闘中は攻撃を読むのに便利だが、今回はそれが常に効いている状態になっている。


「そうか……じゃあ響の耳には頼れないか」


 秋は少し落胆する。秋は確率の高い作戦を選ぶ傾向がある。故にまだどうするか選べないで居た。


「……いや、ちょっと待ってくれ」

「響……?」


 そこに響が何かに勘づく。響は目を閉じ、深く集中する。


(ここは待とう……)


 秋はこういう時の響の感の良さや発想力を評価している。だからジッと響を待つことにした。


 暫くして響は目を開ける。


「うん……分かった」

「何が分かったんだ?」

「集中しなきゃいけねぇけど、霧の気配の中にそれと似てるけどなんか濃いというか……更に気持ち悪い音の方向があるのが分かった。多分そこに霧を出してる奴が居る」


 響がそう言って指を差す。その方向は南。


 直進すれば中央エリアを通るので、秋の仮説が当たっている可能性が上がる。


「分かった。行こう」

「おう、その間も俺は近くに人居ないかスマホで探せるしな。行くか」


 2人はそれぞれの目的を胸に南へ向かって走るのだった。




ここまで読んで頂きありがとうございます!

宜しければ是非とも評価やブクマ、感想よろしくお願いします!励みになります!

また、感想コメントでは質問も受付しています。

答えられる範囲でゆるく答えていきたいと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ