第67話 脱出の算段
武叢の死亡を確認し刀を納める響と霊次。
「最期の言葉……なんだったのだ?」
霊次は武叢が最期に自分達へ向けた「見事」という言葉が引っかかるようだ。
それは当然の疑問だ。倒すべき陰陽師に敗れ、それを称える『影』など聞いた事も無い。
「さぁ?ぶっちゃけ『影』の事はそこまで知らん。でも、人を襲うなら倒すだけだろ?」
「……そうか。そうだな」
響は短く答え、霊次はそれに納得する。しかしその言葉とは裏腹に、響の内心も複雑なものだった。
(正直、武叢の強さに驚いた。アイツと剣を交えて……それが研鑽の果てに形を成したものだって伝わってきた。紛れも無く本物だったんだ。だから……称える気持ちがない訳じゃない。けど人を襲う事は許せない。それは変わらない)
響の信念は理不尽から人を救う事。その理不尽の元凶が『影』ならば容赦なく斬り捨てるだけだ。
だが……。
(もし……もし最期の言葉も本心だったら……俺とアイツは似てるんじゃないか?)
今ではもう問いかけることすら出来ない亡骸を眺めてそう思う響。
(いや、よそう。今はこの襲撃を乗り越える事を考えねぇと)
響は頭の隅に疑問を追いやり思考を切り替える。
「霊次、ちょっと待っててくれ」
「あぁ……分かった」
響は走り、霧の中に入っていった。
一分後、響は戻ってくる。
「お待たせ」
「その子は……」
「この子は月城由良。ここに来るまでに助けたんだ」
「ど、どうも……秋雨先輩。えと、足怪我しちゃって……おぶって貰ってたんです」
「なるほど……取り敢えず校長の元へ行こう」
響と由良は霊次に促され結界の壁まで来る。すると結界の一部が開く。
中に入ると校長や生徒達が出迎えた。
「2人共無事で良かった……あの侍を倒したのだな」
「はい、これも響のお陰です。私1人では出来なかった」
「そりゃこっちのセリフだ。トドメ刺したのはそっちだし」
「なら2人の力だ」
「おう、そうだな」
2人の信頼が見えるやり取りに校長は満足気に頷く。そして響の背に居る由良にも気がつく。
「月城さんも無事で良かった」
「あ、いえ……響さんに助けて頂いて……」
「そうか、それも礼を言わなければな。ありがとう」
校長は頭を下げる。そして背後に居る者へ治療の指示を出した。響は由良をゆっくりと下ろし、三人は地面に座る。
傷が生々しい響と霊次へ治癒術を使える陰陽師が駆け寄り、治療を開始する。
「助かります。あと由良も足怪我してるんで治してやってください」
「承知しました」
「響さん……ありがとうございます」
響の気遣いに由良は丁寧に礼を申す。
「では、治療を受けながら聞いてくれ。これからの事を」
一先ず危機を乗り越えた事で次の行動をどうするか。校長には既に案があった。
「私はこれから『影』の結界の解析を行い、解除出来ないか試してみる」
校長こと土御門晴義は結界術に精通する土御門家だ。故に結界の多大な知識を持っている。だから結界をなんとかするならこの場に居る中で最も適任だ。
「解除は出来なくても、最低でも人が通れる穴を開けるつもりだ。だから霊次くんには護衛を頼みたい」
「お任せを」
当然、解析をしている間は無防備だ。だから晴義に次いで位階が高い第陸位の霊次が適任だ。
「俺は何をすればいいッスか?」
「響くんは治癒が済み次第、結界の中に居る人達へここに行くように連絡をして欲しい」
今での連絡手段は陽力モードを使ったスマホしかない。
それも通信距離が短い。故に、連絡するには結界内を走り回らなければならない。
「まだ『影人』が何体も居るであろう結界内は危険だ。しかし、君は位階以上に強い。現に『影人』も倒している……頼んでもいいかな?」
「勿論です」
響はノータイムで了承する。人を助ける為とあらば断る理由が無かった。
「ありがとう」
こうして方針が決まり、響達の治療が終わる。
「じゃあ行ってきます」
「気をつけてな」
「響……君ならできるさ」
「おう」
響は校長と霊次に言葉を返し、結界内へ再び足を踏み入れる。
「あ、あの!響さん!」
そこに由良が声をかける。響が振り返ると、足を治療して貰っている最中なので座りながら視線を向けていた。
「なんだ?」
「あ、その……お礼、まだできてません。だ、だから!死なないで下さい!」
命を助けた件についてだろう。響は当然の事をした迄だが、それでは納得しないであろう事も彼女の眼差しから伝わってくる。
「ああ、分かった。約束する」
響は安心させるように微笑む。そしてまた前を向き、霧が立ち込める結界内へと走っていくのだった。
「さて、近くにはっと……」
スマホで近くの端末を検索する。すると、1つだけ見知った人物の端末が表示される。
響は通話をかける。
「秋!無事か?」
「響か。良かった……そっちも無事みたいだね」
「おう、一回合流しようぜ」
「了解した」
2人はマップアプリで分かった互いの方向に走り、合流する。そして脱出の算段の事を伝える。
「……なるほど。君は引き続き人を探すのかい?」
「おうよ。そっちは?」
「僕は霧を出している敵を倒す」
現在、結界内は霧が常に立ち込めている。戦闘の余波で晴れる事はあってもそれは一時的で、暫くしたらまたそこに霧に覆われる。
だからこの霧は『影人』が常に出していると考えているのだ。
「確かに……いい加減この霧をなんとかしねぇと」
マップアプリで自分の居る場所は大体分かるとはいえ、視界が悪いと人を探すにも、逃げるのにも支障が出る。
戦闘によって地形も変わって危険であろう事も響の頭に浮かぶ。
「でも『影』の場所は分かるのか?」
「恐らく中央だよ」
このフィールドは中央の無元素エリアを取り囲むように木、火、土、金、水のエリアがある。
中央エリアは全てのエリアと隣接しているので、霧を送るにはもってこいなのだ。
「なるほどな……」
「でも確証は無い。響、『影』の気配は読めないか?」
「うーん、霧にも『影』の気配があってだな。近くに居ないとそれに阻まれて音が聞こえねぇんだ」
術にも本体よりは弱いが『影』の気配がする。戦闘中は攻撃を読むのに便利だが、今回はそれが常に効いている状態になっている。
「そうか……じゃあ響の耳には頼れないか」
秋は少し落胆する。秋は確率の高い作戦を選ぶ傾向がある。故にまだどうするか選べないで居た。
「……いや、ちょっと待ってくれ」
「響……?」
そこに響が何かに勘づく。響は目を閉じ、深く集中する。
(ここは待とう……)
秋はこういう時の響の感の良さや発想力を評価している。だからジッと響を待つことにした。
暫くして響は目を開ける。
「うん……分かった」
「何が分かったんだ?」
「集中しなきゃいけねぇけど、霧の気配の中にそれと似てるけどなんか濃いというか……更に気持ち悪い音の方向があるのが分かった。多分そこに霧を出してる奴が居る」
響がそう言って指を差す。その方向は南。
直進すれば中央エリアを通るので、秋の仮説が当たっている可能性が上がる。
「分かった。行こう」
「おう、その間も俺は近くに人居ないかスマホで探せるしな。行くか」
2人はそれぞれの目的を胸に南へ向かって走るのだった。
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