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第65話 天刃共刀

 交錯する3つの刃。

 1つは天陽院陰陽師白波響の焔刀。1つは天陽学園陰陽師秋雨霊次の銀刀。1つは『影人』武叢の黒刀。


 奇しくも全員の獲物が刀。故にその実力を測るのにこれ以上ない組み合わせだ。


「はあああぁぁぁ!」

「うおおおぉぉぉ!」


 叫びと共に響、霊次が左右から剣を振るう。


「笑止」


 武叢はそれを受け、或いは躱す。そして返す刀で2人に間を置かず鋭いカウンターを繰り出す。


 それを受けて一旦下がる2人。


 2対1を捌く武叢は実力では上と言えるだろう。しかしそれは『影人』の身体能力による所が大きい。


 武叢は流派を持っていない。刀も『影人』になってから得た物で、敵として出会った侍を討ち果たし手に入れた物。


 剣術も見様見真似である。故に無駄が多く、剣術の完成度では天刃流の響と霊次が勝っている。


 そしてなによりこれは『影』と陰陽師の戦い。勝敗を分ける要素はそれだけでは無い。


 そう、それは人も『影』も扱う陰陽術の存在。


「響、私の陰陽術を解禁する。しかし詳細を説明する時間は無い」


 霊次はまだ陽力を纏った剣しか使っていなかった。


「でも君なら合わせられる。私から言うことは1つ。私と天刃流を信じてくれ」

「おう!」


 響はなんの疑いもなく力強く頷き、武叢に向き直る。霊次を信頼しているから。多くの言葉は必要なかった。


(何かする気だな……しかし)


「対応して見せよう」


 武叢もまた響達を見据え刀を構える。三者の間に緊張が走る。


 一番に動くのは勿論霊次だ。漆黒の長髪をたなびかせながら武叢へと駆け出す。それに響も一歩後ろから追従する。


 武叢はその場を動かない。霊次の術式を見極める為集中しているのだ。


 武叢に今、霊次が迫る。


「天刃流……『叢雨(むらさめ)』!」


 繰り出されたのは天刃流の袈裟斬り『叢雨』。確かにその剣は強い気迫が乗っているが、ただの斬撃と見て武叢は落胆する。


「っ!」


 だがその目は大きく見開かれた。何故ならば、刀の周りから激しい雨粒が吹き出したからだ。


 刀を受け止めるも、陽力を纏った雨粒は散弾の如く武叢の体を傷つける。


「ぐっ!」


 堪らず武叢は距離を置く。そこへまた霊次が斬りかかる。


「『紅霞(こうか)』!」


 横一文字『紅霞』。斬撃と共に赤い霞が吹き出し武叢の視界を塞ぐ。


 刃は受け止められるが、これは霊次の計算通り。背後に回った響がその背を斬り裂いた。


「おのれ……!」


 武叢は剣を振り回し2人を攻撃。だがそれはどちらにも捌かれる。


 我流と天刃流の違い……剣速こそ早いが、それまでの動きの無駄が攻防に現れている。


(なるほど……厄介な術式だ)


 霊次の術式『天刃流・五行ノ太刀』


 それは天刃流の太刀筋に付けられた名を具現化する術式。


 その術式に至った理由は天刃流の特性にある。それは必殺を誓い剣を振るう際、太刀筋に名付けられた現象を担い手が強く想う事。


 そうする事で、大いなる自然の如く力ある剣が振るえるという考えだ。


 無心の剣ならぬ、想心(そうしん)の剣。


 それは陽力に想い描いた念を乗せて陰陽術とする流れとよく似ていた。


 そして、霊次は全ての五行に対応した特質陽力……統一陽力を持っている。


 天刃流と統一陽力。


 その2つによって出来たのが、天の移り変わる模様を具現化する『天刃流・五行ノ剣』


「このまま攻める!」

「ああ!」


 2人は武叢へと突撃する。


 逆袈裟斬り『砂塵嵐』、唐竹『天雷』、左逆袈裟斬り『地吹雪』。どれも斬撃と共に陰陽術が発生し、武叢へ激しく襲いかかる。


 そして響はその全てに即座に応じ、追撃の刃で確実に武叢へダメージを与えていく。


(分かる……霊次が次に繰り出す太刀筋が。呼吸、歩法や体捌き……どれも知ってるから)


 同じ流派の剣を見てきた。それも響は祖父という師範を見て育ってきた。


 故に呼吸や体捌きといった、剣を振るうまでの一連の流れを事細かに読み取れる。


 故に武叢よりも早く霊次の次の剣を知り、それに合わせられる。


 独学で学んできた霊次にはここまでの読みは出来ない。


「君なら合わせられる」と霊次が言っていた通りだ。


「『箒星(ほうきぼし)』!」


 霊次は流星の如く高速の平突きを繰り出す。武叢は回避不可と判断し刀で受けるが、鋒は黒き刃を砕いてしまう。


「ぬぅ……!」


 武叢が身を捩った事で辛うじて心臓への直撃を躱す。素早く後退する事で刃を抜き、刀の代わりに右手を重点的に強化する事で響の追撃を防ぎ、その勢いも利用して距離を置く。


 武叢は好かさず胸の傷を再生させる。


(突きは威力が高いが範囲が狭い。急所を狙えないと再生されるか……!)


 渾身の一撃を凌がれた霊次が苦心する。だが同時に再生能力も万能では無いと知っている。


『影』は再生する際、陰力を消費する事でその身を補っている。


 それは『影』の肉体が陰力で出来ているからこその芸当。しかし、陰陽術の治癒術と違いその効率は大きく劣る。


 借りに四肢を生やせるレベルの再生能力を持っていても、陰力の大量消費も付いてまわる。


 そして今しがた刀も失った。


 響と霊次は武叢を確実に追い詰めている。


((獲る!))


 響と霊次は好機とばかりに攻める。


 武叢は陰力を集中した両腕で対応するが、それ以外の場所の防御は落ちる。


 故に霊次の術は範囲が広く、腕で刃を防いでもそれ以外にダメージが通る。


 そして怯んだ所に響が焔刀で斬り裂く。武叢は防戦一方だ。


(このまま削り、崩れた所を響か私が急所を潰す!)


 霊次の思考を響も読み取り、攻撃の姿勢を崩さない。


 だが……。


「『鏡刀腕』」


 武叢の腕が鏡面を持つ刃へと代わり、響達を斬り裂いた。


「なっ……!」

「ぐっ……!」


(腕が変化した!?あれ程までの剣速だったんだ……強化した刀がメイン火力とばかり……)


 霊次の読みは外れていた。しかも刃の腕は刀を持っていた時と同等の長さであり、反撃が来ても徒手の距離と判断した2人の不意を突く形となった。


「油断大敵だな」


 響達の状況を言い表し、また刃の腕を振るう武叢。


「『紅霞』!」


 霊次は咄嗟に刀で受けると共に霞で煙幕を張る。その隙に一旦響と霊次は後方へと下がるのだった。


 これは陰陽師と『影』の戦い。陰陽術1つ、判断ミスの1つでも形勢は変わる。


「悪い……もう少し慎重に行くべきだった」

「気にすんな。まだいける」


 異形と化した侍を睨み、2人は負けじと陽力を滾らせる。


「さあ、まだまだ某を愉しませてくれ。若き陰陽師よ」


 構えた鏡面のような刃に2人を映し、武叢は口角をあげるのだった。




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