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第61話 最北端の戦場

「ふう、ギリギリ勝てた……」


 穢弩の死亡を確認し、陽那がゆっくりと息を吐く。


「陽那さん!……っ!」


 そこに澄歌が駆け寄る。途端、陽那の傷ついた体を見て絶句するのだった。


(酷い怪我……!特に左手はズタズタだ……)


 術者が死んだ事で破片が消え、血が勢いよく吹き出した左手は真っ赤に染まっていた。


「澄歌ちゃん怪我無い?」

「わ、私は大丈夫です……それより!自分の心配して下さい!こんなに傷ついて……私の、せいで……」


 澄歌は自責の念を抱き俯く。陽那がここまで傷ついたのも、陽力を使い果たして何も出来ない自分のせいであると思っているのだ。


「澄歌ちゃんのせいじゃないよ。だからそんなに自分を責めないで?」

「陽那、さん……」

「ほ、ほら!あたし治癒できるし!雛宮先生程じゃないけどさ!」


 澄歌を励まそうと明るく振る舞う陽那。


「はい……澄歌さん、助けて下さりありがとうございます」


 その優しさを受け心が軽くなるのを感じる澄歌。深い感謝の言葉を述べるのであった。


「あの……火の術も使えたんですね」


 陽那が自身を治癒する傍ら、澄歌は逆転の一手となった火熊の事を問う。


 澄歌の言う「使える」とは、実戦レベルでという意味だ。


 本来、得意な五行は1人につき1つ。その五行なら少ない陽力消費で最大の効果を得る。


 だがそれ以外は大きく効率を落とさなければ扱えない。故に実戦レベルに運用するには得意以外の五行の知識とイメージ、なにより多量の陽力を必要とするのだ。


 だが時に例外は現れる。


 陽力が複数の五行に適応している特異体質の場合があるのだ。


 だから澄歌は陽那が水が得意なだけでは無く、火も得意なのだと思ったのだ。


「いや、水だけだよ?」

「え?」


 しかし澄歌の予想はあっさり否定された。


「えと、じゃあ……どういう事ですか?」

「んーとね、あれは『五行付与』って言うの」

「五行……付与?」


 意味はなんとなく分かるが、聞き慣れぬ単語に澄歌はオウム返しをしてしまう。


「カラクリはこれ〜」

「石……?」


 陽那が取り出したのは、戦闘中紅く輝いた石だった。今はその光を失い、どこにでもあるただの石に見える。


「これは火纏石(ひてんせき)って言ってね?火の元素が貯まりやすい火山とかで取れる貴重な石なんだ」


 この世は五行の元素により出来ている。その為元素が濃い場所では、長い時間をかけて火纏石のような元素を色濃く内包した物質……「高濃度元素物質」が生まれる事がある。


 因みに略して「濃元物(のうげんぶつ)」である。


「あたしは思念で式神を作るから媒介無しなんだけど、追加でこれを媒介にする事で五行の力を付与できるようになったの」


 故に五行付与。


 式神術のエキスパートである陽那が開発したオリジナルの術である。これにより理論上全ての五行の式神を得手不得手に関係なく扱える事になる。


「す、凄い……そんな事ができるんですね!流石陽那さんです!」

「ありがと♪でも媒介にできる濃元物が貴重だし、式神との相性もあるのがネックだね。今回持ってたのが火で良かった」


 術の開発まで多くの濃元物を使った陽那。その末に成功し、偶々手元に残っていたのはこの火纏石1つのみだった。


(だから水が得意な私の時は使わなかったんですね……いえ、使うまでも無く……陽那さんは強かった)


「やっぱり凄いです。陽那さんは……私も負けてられませんね」

「うん、澄歌ちゃんもこれからもっと強くなれるよ……だから、絶対生き残ろうね」

「……はい!」


 陰陽師としてもっと先を目指す為、この襲撃を乗り越えて見せると強く誓う2人だった。





 響は由良を背負いながら森林エリアを北上していた。


 あと300m程で最北端に着く。だが、響はその足を止めた。


「……?響さん?」

「この先に『影人』が居る……!」


 響は特異体質の耳で『影人』の嫌な音を感じ取ったのだ。


「そんな……!じゃあ校長達は……」

「まだ分からん。けど陰陽師側の結界は生きてる。回り込んで結界に沿って行こう」


 響は進路を変更し、やや東から最北端へと迫る。


 するとそこは霧がやや晴れていた。恐らく戦闘の余波だろう。


 視界に映のるは少し広けた場所。そこに侍のような出で立ちの『影人』と校長が戦っている様子が伺えた。


 校長は無数の刀傷を受け、高そうな着物は赤く染まっている。


 特に腹の傷は深い。それは逃げてくる生徒を招き入れる時、襲いかかった『影人』の刃から庇って出来た傷だ。


 第肆位の位階を持つ晴義でも、そのハンデは大きい。


「ご老人。あまり年寄りが無茶するものではござらんぞ?」

「老いぼれだろうが……私はこの学園の校長。生徒や陰陽師を護るのは当然だ」


 校長……土御門(つちみかど)晴義(はるよし)は結界を背にして戦っている。陰陽師と『影』の結界の間には何人かの陰陽師、そして生徒が居る。


 第肆位の校長はその中でも最も強いのだろう。だから自らは結界の内側に入り『影人』と戦う事を選んだのだ。


「はあ!」


 校長は結界を柱のように形成、先端の尖ったそれを『影人』へと放った。


(結界にあんな使い方が……!)


 響は始めてみるそれに驚愕する。結界は内と外を区切り、干渉させないもの。


 故に攻撃に転用するものは土御門家や結界術師の中でも希少な存在だ。


「ふん」


 侍の『影人』は涼しい顔で刀を振り抜き、結界の柱を真っ2つにしてしまった。


「終いでござるか?」

「ならば……!『伍柱連檻(ごちゅうれんかん)』!」


 刀印を結び陽力を滾らせる校長。すると『影人』を囲うように五つの柱が地面より現れる。


 それらは互いに繋がり、1つの五角柱の大きな檻となった。


「閉じ込めた所で……」


 つまらなさそうに侍は刀を構える。しかしそれだけでは無い。


「まだだ。『十二柱檻(じゅうにちゅうかん)』」


 更に術を重ねる。今度は4つの棒状の結界が真ん中を開けた四角形を形作り、『影人』を封じた『伍柱連檻』が穴にハマるように形成。それを上・中・下の3段を重ね、合計12の柱で封じる。


「これで終いだ」


 最後に巨大な槌と釘が宙に現れ、その先端を『影人』へと向ける。


「『断罪ノ(つち)』、『封殺ノ釘』急急如律令!」


 振り下ろされた槌は釘を勢いよく打ち付けられた。


 衝撃で土煙が発生し、封じ込めていた結界が砕ける。


「我が最大の奥義だ。無事では済むまい……」


 しかし……。


「やはり、所詮は陽流か……」


 刀の鋒にて釘は受け止められていた。


「ふん」


 ガシャンッ!


 侍が力を入れると、釘はガラス細工のように砕けてしまった。


「ば、馬鹿な……」

「貴殿はよくやった。それでは……さらばだ」


 刀を構え、突撃する『影人』。その速度に校長はもう対応できない。


 無慈悲に刃は喉元を切り裂く。




 筈だった。


 ガギィンッ!


 凶刃は、正義を宿した刃に受け止められた。防がれた事で後退する侍。


「何奴……」

「天陽院1年白波響。陰陽師だ」


 校長を庇い、響は侍へと立ちはだかるのだった。


「名乗られたならば……名乗り返さねば無作法というもの。(それがし)の名は武叢(むそう)。いざ尋常に……勝負!」


 刃と刃が激しくぶつかり合う。


 剣に生きる相反する存在。人と『影』の死合がここに始まる。



 離れた場所で由良は茂みに隠れる。


「ここで隠れててくれ。何かあったら声を出すか、スマホ鳴らしてくれ」


 そう響に言われて背から降ろされた。


 足を負傷している状態で1人になる心細さはあった。だが、あのまま校長やその場の人間を見殺しになど出来なかった。


「響さん……がんばれ……!」


 由良は響の勝利を精一杯祈るのだった。

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