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第59話 澄歌に迫る恐怖

 ただの肉塊となった青淵を見て目を丸くする由良。


「すごい……ほんとに倒しちゃった……」

「大丈夫か?」

「え?わあっ!」


 由良はいつの間にか目の前に来ていた響に驚く。


「ま、まさか勝っちゃうとは思って無くて……でも、あんな怖い相手に……貴方は勝ってくれた。ほんとに凄い人……あの、助けて下さりありがとうございます。響さん」

「おう、どういたしまして」


 安心したのか、赤い瞳に涙を貯めて礼を述べる由良。響はそれに頬を緩めて言葉を返す。


(一先ず守れた……良かった。修行は無駄じゃなかった。俺はもう『影人』相手でも戦える……!)


 その確かな実感が響の胸に宿る。


「えと、これからどうしましょう?」

「そうだな……確か結界は陰陽師が複数人で貼ってるんだよな?」

「はい、結界には第肆位の校長も携わってる筈……」


 このフィールドは結界術のエキスパートが動員され強力な結界で囲われている。


 だから余計に『影』の侵入を許した事が不可解であると2人は考える。


「どうして奴らは入って来れたんでしょう?簡単に破れる筈なんて……」

「……破っては無いんじゃないか?」

「え?」


 由良はキョトンとして首を傾げる。その疑問に響は答える。


「俺は特異体質で何となく『影』の気配が読める……ってか聴こえるんだ。それで奴らは結界の中央……無元素エリアら辺に現れた。多分俺らみたいに転移した……もしくは門を開いたかだな」


 思いつく2つの可能性。


「特異体質……なるほど。でも、転移は無いと思います。アレは行きたい場所をマーキングしたり、術者が複数人で発動したり……特定条件を幾つも重ねてやっと実現する術ですから」


 しかし、由良の言で転移の線は薄まる。


「そうか……なら『影世界』から門を開いたのかも。前にも呪印が開いた門で『影世界』に引きずり込まれる事件があったんだ……それを特定条件で強化したのかもな」

「そんな事が……」


 あの手この手で現世へ侵入し人を脅かす『影』の脅威は底が知れなかった。


「まあ、今はこれからどうするか考えよう」

「あ、なら……北に行きませんか?」

「北?」

「はい、結界の北端は校長が担当しています。結界は見た感じ今も維持されてますから、そこに行けばかなり安全かも……」


 今現在2人は森林エリアの中央ら辺に位置している。


 つまりこのまま北上すればいい。


「外も事態を察している筈……そこまで行けば結界の一部を解除して貰えると思います」


 響は由良の提案に少し考え込む。


(空や秋達も心配だが……怪我してるこの子を放っておく訳には行かない)


「分かった、そうしよう。そういや怪我治せるか?」

「あ……私、治癒術はできないから……自分で歩くのも難しそうです。ごめんなさい」

「ん、分かった」


 響は了承し、由良へ背を向けてしゃがむ。


「おぶる。『影』が来たら分かるから早めに下ろすから隠れててくれ。いいか?」

「は、はい。お願いします」

「うし、行くぞ」


 背に由良をおぶり、響は北端へ向かって走るのだった。



 時は巻き戻り『影人』が散開した直後。


「嘘!?なんで『影』が……」


 リタイアした武見澄香は黒子が操る鴉の式神に乗って東方へ離脱しつつあった。そんな中『影』の襲来を察知したのだ。


「っ!外にも結界……!?一体何が起きて……」


 離脱し、陰陽師に外に出してもらおうとしていた関係から結界の異常に直ぐに気がついた。


(外から覆うように『影』の結界……外に敵が!?じゃあ結界を張っている陰陽師さんも危険!……でも、私は……)


 脅威は内側だけでないと察するが、同時に澄香は無力であると考える。


 陽那との戦いで陽力を全て使い切ったのだから当然である。


 幸い、この式神は媒介となる護符に込められた陽力で活動するタイプ。なのでこうして安全地帯まで運んで貰っているのだ。


 だが、この式神自体に戦闘能力はなく完全に運搬用だ。


 故に……。


 ドンッ!


「っ!」


 地上から迫ってきた何かが澄香が乗った鴉を貫く。同時に騎手である黒子もその身にダメージを負い、式神達はその形を綻ばせていく。


「きゃあああっ!」


 当然澄香は上空で取り残され、重力に引かれて落下する。


 陽力が無い澄香は身体強化すら出来ない為、この高さから地上に叩きつけられれば確実に命は無い。


(お兄様……助けて……!)


 澄香はただ目を瞑り、祈るように秋を呼ぶ事しか出来なかった。


 だが秋は来ない。物理的に距離が離れているから当然だ。




 しかし祈りは無駄では無かった。


「しーちゃん!」


 陽那の凛とした声が響く。


 落下してくる澄香を、獅子の式神が高く跳躍し首根っこを掴む。


 そのまま宙返りをして地面に着地するのだった。


「わっ……!」


 ゆっくりと地面に下ろされる澄香。絶対絶命の状況であった為、心臓が早鐘のように鳴り足は竦んで立てないでいる。


 そこに陽那がヒグマの背に乗りながら駆けつける。


「澄香ちゃん無事!?」

「ひ、陽那さん!?どうして……」

「『影』の気配感じたから追いかけて来たの!澄香ちゃん今は術使えないし……兎に角無事で良かった」


 澄香の離脱した時間からそれ程経っていない間に『影』が襲来した。だから万が一を考え澄香を追って来たのだ。


 その感は当たっていた。


「そりゃ放出型もいるよね……早いとこ離脱しよう!」

「は、はい!」


 伸ばした陽那の手を借りて澄香は立ち上がる。するとそこに霧が立ち込める。


「わっ!」

「急に霧が!?これは『影』の術……っ!誰!?」


 霧に狼狽える中、陽那は近づいてくる何者かの気配を感じ取った。


「おやおや?仕留め損ないましたか」

「「っ!」」


 現れたのは『影人』。


 細長い体格の燕尾服とシルクハットを着用した茶髪の男。その両眼は黒目と白目が反転し、翡翠の瞳が怪しく2人を覗いていた。


「こう見えて狙うのは苦手なんです私。派手なのが性に合ってる」


(『影人』!?は、初めて見た……!息、苦しい……!なんて陰力なの……!?)


 ただそこに立って独り言を言うだけで底知れぬ陰の気が漏れ出る。それに当てられて澄香は過呼吸に陥ってしまいそうになる。


「澄香ちゃん、大丈夫」

「っ!陽那、さん……?」

「私が守るから」


 そうして陽那は澄香を庇うように『影人』と相対する。


「これはこれは……狐のお嬢さんは生きが良さそうで。しかし……」


『影人』は翡翠の瞳をジロリと動かし澄香を見る。


「そっちはカスでございますね」


 そして左手をかざし、翠の石礫のようなモノを放つ。その速度は凄まじく、澄香は攻撃と認識すら出来なかった。


 ガギィンッ!


「ひゃあっ!」


 澄香は金属音に思わず目を瞑り悲鳴を漏らす。しかし術は鞭によって叩き落とされた。


「ほう?やりますね」

「丸腰の女の子を狙うなんて……最低だね」


 陽那の言葉には並々ならぬ怒りが乗っていた。


「ククク……どうせ遅かれ早かれ死ぬのです。良いではありませんか?それに効率の悪い弱者の陽力など必要ありませんので」


『影人』は心底不思議そうに返す。それがまた陽那の怒りに油を注ぐ。


 水を纏いし鞭が放たれる。それを軽く首を捻りギリギリで躱す『影人』。鞭は後方の木を薙ぎ倒してから陽那の手元に手繰り寄せられた。


「友達を悪く言うなら楽に殺してあげないよ」


 冷淡に言い放つ陽那。言葉を示すように『影人』の頬が裂ける。『影人』は目を輝かせ青い血が垂れる頬を見つめる。


「おやおや?あなた名前は?」

「天陽院1年尾皆(おみな)陽那(ひな)

「私は穢弩(えど)。貴方の陽力は美味でしょうね……楽しみです」


 名乗りを上げる両者。陽那は睨み、穢弩は嬉しそうに目を細める。


 健全に競い合う場ではなく、血で血を洗う戦場と化したフィールド。ここにまた1つ、人と『影』の殺し合いが始まるのだった。



ここまで読んで頂きありがとうございます!

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