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第55話 ただの臣也として

 俺の実家……坂田家は坂田金時の代からその名を上げて来た家だ。


 坂田金時は持ち前の怪力で表の戦は勿論、裏の『影』相手でも多くの武勲を上げていたから。


 だがその英華は長くは続かなかった。


 理由は簡単だ。凄かったのは坂田金時という存在だけだったから。持ち前の怪力も、陰陽術の素養すら子供には引き継がれなかった。


 故に坂田金時が亡くなってからは衰退の一途を辿って居た。


 そんな中、坂田金時が懇意にしていた土御門家から娘を迎え入れた。そうする事で傾いていた家を建て直そうとしたようだ。


 目論見通り、嫡子は土御門家の結界術や占星術の素養を引き継いでいた。


 この時から坂田家は『陽流』の陰陽師の名家となったのだ。


 そんでもって、俺は結界術の才能無し!占星術も訳分かんね〜。


 まあこんな感じなんで家ではまあ約立たずだなんだと言われましたっと。


「弟はもう大人顔負けの結界を張れるのに……臣也は情けないわ」

「仕方ないさ。陰陽師は才能の世界。元から才能の無かった臣也が悪い」

「あんな兄貴と血が繋がってるとか有り得ねぇ」


 ……思い返すと好き放題言われてんなぁ俺。


 ま、そんな家に居たい筈もなく……俺は天陽院に来たって訳。


「『陰流』とはいえ陰陽師。そっちの世界なら活躍できるとでも思ってそうだね兄貴」

「おう、バリバリ活躍してやるから見とけよ」


 出ていく時の会話。この時も相変わらず鼻で笑われてたな。


 いざ天陽院に入り、制服は狩衣風にした。


 任務の現場で会った時の弟は睨んできてたな。まあその為に狩衣に寄せたんだが。


 その任務は第捌位の任務。


 捌位と言えば中型の『影』が含まれる、所謂下位の登竜門とも言える位階だろう。


 実際出てきたのは能力もある中型の個体だった。


「『岩軍腕』!」


 俺は弟が張った結界を砕く程の力で『影』を倒した。


「な、なんのつもりだ!結界を壊すなんて……!」

「悪い悪い、そっちの結界が耐えられないとは思わなかったわ。俺の術に」

「なんだと!?」


 あの時の憤慨した弟の顔はまあ傑作だった。




 こんな感じで俺は狩衣風制服に身を包み、『陽流』では扱えない攻撃的な陰陽術を振るって来た。


 目立つから噂は割と広がったらしく、数日後には実家の親父から通話がかかって来た。


「どういうつもりだ!制服を狩衣にした挙句、弟の結界まで壊したとは!」

「俺に『陽流陰陽師』の才能は無かったけど、こっちの才能は合ったみたいなんだわ」

「なにぃ……?」

「これからもこんな感じでやってくから、親父は弟みたいに情けない結界張らないでくれよ〜?んじゃ!」


 我ながら性格悪ぅ〜。後悔はしてないしスカッとしたけど。


 そっからなんか『陽流』の人に『結界壊しの臣也』とか呼ばれたっけ?一回しか壊してないのに……。


 そもそも脆い方が悪いと思うけど、まあひねくれた実家の奴らが流した悪評だろと気にもとめなかったが。


 そんなこんなで俺は今日まで陰陽師やってきた。


 が、まさか同じ学生で『陰流陰陽師』に文句言われるなんてな〜。


「陰陽師は『影』と戦う誇り高き存在だというのに!」


 さっきの如月蓮の言葉。


 誇りかぁ〜正直考えた事無かったな。


 だって落ちこぼれの俺は、狩衣着て『陰流陰陽師』として活躍する事で実家への嫌がらせするってしか考えて無かったもん。


 だから俺は誇りなんか無いし、人助けもモテたいからってぐらいの心持ちだわ。


 ひねくれてるし、半端もんって言われても仕方ねぇなこりゃ。


 ……あぁ〜いや、でもこの事話したら天陽院の奴らは引かなかったっけ?


「どんなカッコしてようが、どう思われようが先輩は先輩じゃないッスか?」


 確か1、2年の合同組手の休憩時間だったか。


「……どゆこと?」

「自分を大切にしてるって事だよね響?」

「そう、それが言いたかったんだよ秋。才能の方向性だけじゃないって言うか……自分が胸張って生きれるように見返そうと努力してるし……煽るのはアレですけど。まあ……結果的に善い事してるなら別にそれでいいんじゃないッスか?」

「確かに〜。臣也先輩って軽薄だけどやる時はやる人だよね。ね?空ちゃん?」

「うん、陽那ちゃんの言う通りだと思う。私もこの前任務で助けて貰いましたから……でも2人っきりでお茶はちょっと……」

「あんたまたくだらない事してたのね。馬鹿はほっといて組手再開するわよ」


 ……思い返したら文香だけ褒めてない!いやまあ信頼の現れ?とも思うけど……。


 あいつらは坂田臣也じゃなくて……ただの俺を見てるんだ。


 全く、ほんと良い奴らだ。ひねくれもんの俺には勿体ないな。


 ───────────────────


 巨大な根は維持する為の陽力が尽きて光となって消える。


 蓮はその少し離れた所に人影を見る。


「仕留められなかったか。案外やるな」

「どうも」


(咄嗟に発動時間削って耐久高めた壁で防御したのが幸いしたな……アドリブもやってみるもんだ)


 術のパラメータを弄り微調整する事は陰陽師が普段からやっている事だ。


 しかしそれは使いやすいようにするのが主な目的。敢えて扱い辛いピーキーにする事はそれ自体が特定条件と見なされ更に能力が向上するのだ。


 臣也は壁が根を妨げている短い時間の中、根の隙間を縫うようにして根の奔流から脱出したのだ。


 だが全くダメージが無いわけでは無い。


 脱出までに高速で動く根に砕かれ飛んで来る建物の破片や、根そのものに擦る事はあった。


 臣也の狩衣風制服の所々は破け、裂傷が生々しく出来ている。


(文香に相手して貰ったのが役に立ったな)


 文香の炎の操作技術は高い。それを身をもって経験したからこそ致命傷は避けられていた。


「次で半端者のお前を打ち倒して見せる」


 蓮は変わらず激しい闘志を胸に、再び剣を構えた。


「そうだな。あんたの言う通り、半端もんだわ」

「何……?」


 蓮が言った事を肯定する臣也。その様子に蓮は眉をひそめる。


「でも、家の事とか……性格悪いとことか、そういうの知った上でただの俺を見てくれる奴がいんだよ。なら、いつまでも半端もんでいるのは……ダッセェよなぁ?」


 臣也は破れかけた狩衣を掴み、力いっぱい引きちぎる。上半身の布を完全に破り捨て、半裸になる。


「なっ……!」

「おし!んじゃあ今からは!『陽流陰陽師』の名家、坂田家の落ちこぼれでは無く!ただの臣也として!あんたと戦わせて貰う!」


 そう言って刀印を構える臣也。迸る陽力に蓮が警戒を示す。


「『呪操岩王像(じゅそうがんおうぞう)』!急急如律令!」


 陽力は地面へと流れ、やがてそれらを素材に一体の石像を形作った。


(なんだか知らんが……さっき迄と比べていい顔じゃねぇか)


「いいだろう……なら俺は、ただのあんたを全力で倒す!」


 臣也を認め、蓮もまた陽力を激しく波打たせる。


 互いの相手への想いが変化し、それと呼応するように2人の戦闘は激しさを増すのだった。

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