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第51話 孤高と孤独、そして群れ

 ──私はずっと独りだった。


 陰陽師の名家、城金(しろがね)家。


 陰陽師として目立った名声は無かったが、表舞台で資金を集める事に長じていた。海外とも積極的に交流し、その血や技術を取り入れ陰陽総監部を支えて来た。


 そんな家であったが、ある時1人の少女……私の2歳上の姉に当たる人物が生まれた。


 姉は天才だった。


 僅か9歳で位階第(しち)位。家の者の期待と羨望を一身に受けた。


 反対に、私は姉のような才能は無く……9歳になる頃には両親でさえ目をかけなかった。


 だから……私は誰にも頼らず、血の滲むような努力をした。


 娯楽などに興味を持たず、1日の殆どを強くなる事に費やした。書庫に篭もり陰陽術の知恵を付け、修練場で只管に実践。


 任務でも、幾ら傷つこうが私1人で『影』を打ち倒して来た。


 そしていつしか私は第(ろく)位の位階を得て、姉を含め家の誰よりも強くなっていた。




「あんたなんか認めない!」


 ある日、そう言って姉は他の兄妹達を連れて私へと挑んで来た。


 多勢に無勢。しかしその時の私にはまるで相手にならなかった。それには私自身も驚いた。


 あれだけ恨み、妬み、追い抜こうとした姉がこれ程までに弱く、醜い事に。


 結局、姉は陰陽師を辞めて社会に溶け込み資金を集める道へと進んだ。


 代わりに私へ期待や羨望は集まったが、そんな想いにはなんの感慨も無かった。


 姉を超えた日から私の心は凍りつき、機械のように鍛錬する日々が続いた。




 しかしそれを溶かした人が居た。


 とある任務で一緒になった陰陽師の少年……白山獅郎(しろう)。その人だった。


 2つしか歳が変わらないのに、獅子の様に荒々しく、威風堂々とした佇まい。


 誰にも頼らず、誰よりも気高いその姿に……孤独と孤高の違いを見た。



 そして私はそんな彼に憧れたのだ。



 再び熱を孕んだ私の心は彼の背を追いかけた。


 彼へ追いつけるように、また只管に書庫と修練場を行き来する日々。


 しかし、どれ程時を費やしても彼には一向に追いつけなかった。


 再び任務を共にした時もあったが、初めて会った時と同じように彼は私を見向きもしなかった。



 だから、努力した。



 努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して努力して……努力した。


 独りで、只管に。


 そして今年、彼と同じ天陽学園へ来た。


 クラスメイトは凡百の者ばかり。姉達と変わらない……群れて傷を慰め合い、強くなったと思い込む弱き者しかいなかった。


 私は正しい。孤高こそ強き者のあるべき姿とより強く思った。


 彼だってそうだったから……。


 しかし、結果は見ての通り。無様に地に倒れたのは……私。




「私の、負け……」


 徒党を組む弱き者と侮蔑した相手に負けた。


 醜く地に背を預けているから天が良く見える。するとそこに私を打ち負かした2人が顔を覗かせるのだった。


「笑いなさい……」

「どうして?」


 心底不思議そうに首を傾げられた。それに少し苛立ちを憶えるが、それは直ぐに自身への情けなさへと向く。


「私は間違っていた。弱い者が群れようが弱いと……侮蔑し、見下していた私を打ち負かしたんですもの……貴方達は。だから、笑う権利がありますわ」


 そう、敗者は笑われる者。


 私が敗者へそうして来たように。


 だから、見下した相手に負けるような無様な私にはお似合いだった。


「そんな事しないよ。だって、間違ってたかもしれないけど……エルザさんは強かったもん」

「え?……」

「1人でそこまで強くなったのは紛れも無くエルザさんの努力の証だもん。でもさ?もし競い合い、時には頼って……そんな支え合える誰かが居たら、きっともっと強くなってたと思うの」


 それは意外だった。


 どんな罵詈雑言も甘んじて受け入れるつもりだったから。彼女の口から出てきた言葉にはなんの負の感情も乗っていなかった。


「私もね?響くんや秋くん、陽那ちゃんや悠先生、文香さんに臣也さんが居てくれたから……ここまで強くなれた。今だって、文香さんと協力したから貴方に勝てたんだもん。だから……」

「そうね。エルザさんも自分の間違った部分に気づけたんですもの。そう思えたなら、これからもっと強くなると思うわよ?」


 文香もそれに同意するように頷く。


 ……あぁ、この子達はどこまでも優しくて、お人好しなのですね……。


 自分が今まで何を切り捨てて来たのか……それが良く分かった気がする。


「……今までの無礼な発言を訂正するわ。ごめんなさい。貴方達が正しかったわ」


 間違ったのは私。だからその責任として謝罪を口にする。そして……。


「そして……もう二度と周りを見下したりしませんわ」

「……うん。あっ!だったらね?良かったら私と……お友達にならない?」

「え?」


 彼女から出た提案に今日何度目かの驚嘆が盛れる。


「いい考えね。私も1つ上だけど、先輩後輩関係なくお友達になりたいわ」


 そこに文香も便乗する。


 普通は、私みたいな高慢な奴と手を取ろうなんて思わないのに……この2人は本当にお人好しなんですわね。


「ここまでされておいて、断るのは無礼ですわね……いえ、寧ろそれは私の台詞ですわ。天鈴(あますず)空さん、(くれない)文香さん……私のご友人になって下さらない?」


 恐る恐る問いかけるが、返答はもう分かっている。


「「もちろん!」」


 こうして、私はぶつかり合った2人と友になるのでした。





 私は孤高にはなれなかった。けれど……群れる事もまた、素晴らしい事だと今日知ることができましたわ。






 ────────────────────────


 観客席では決着に盛り上がる声が響く。


「いや〜!激闘を制したのは空さん文香さん!エルザさんも何やら憑き物が落ちたように穏やかでしたね」

「本来であれば私が奴の心を溶かさねばならなかったがな……」

「ま、良かったじゃないですか。教師と生徒より、生徒同士での方が上手くいく時もありますよ?」

「フッ……そうだな。お前のその教師としての姿勢を見習うとしよう」



 こうして空、文香と城金エルザとの戦いは幕を下ろすのだった。


 だがバトルロワイヤルは未だ始まったばかりである。


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