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第44話 1日目最後のプログラム

 そうして午後の部が終わり、晩御飯の時間になる。


「さてお前ら!昼食は弁当だったが、晩は各班に別れてカレーを作って貰う!」

「「うおおおっ!」」


 訓練を終えて気が抜けていた生徒達は遥の言葉に沸き立つ。陰陽師とは言え彼らはまだ学生。学生らしいイベントに心躍るのも仕方がなかった。


「何だこの騒がしさ……!?」

「すごい熱狂だね」

「2人がテンション低すぎるんだよ〜。こういうの盛り上がらない?」

「いやまあそうだけど……これはテンション上がりすぎって言うか……」

「ふむふむ〜?響くんは周りが賑やかだとバランス取って冷静になるタイプ?」

「えぇ?知らねぇ〜」

「うーん、響くんは昔からそういうとこ合ったかも?」

「マジ……?自覚無かった……」


 普段とあまり変わらない響達と正反対に、天陽学園の1年達は口々に楽しいイベントへの期待を漏らす。


「うおおお〜!めちゃくちゃ楽しみ!」

「どっちかって言うと林間合宿っぽいな!?」

「そんな事いいじゃん!面白いし!」

「話は最後まで聞けガキ共ぉ!」

「「は、はい!」」


 そこに遥の一喝が入り一同は静まり返った。


「カレーの食材はこちらが用意する!しかしそれ以外は各々で用意しろ!学園の備品を使う事や寮に取りに行く事も許さん!」

「「ええ!?」」


 告げられた理不尽なルールに驚嘆と困惑の声があがる。


「これも鍛錬プログラムという訳だ。天陽学園諸君は事前に決めた班があるな?それには1つの大きな基準でメンバーを割り振っている!そうだな……武見澄歌!分かるか?」

「は、はい!」


 澄歌に白羽の矢が立つ。響達の視線が其方に向けられると、真剣な表情で思考する横顔が見えた。


「えと!私の班は全員五行がバラバラで、木・火・土・金・水に綺麗に別れています!だから五行のバランスが判断基準です!」

「うむ!概ね正解だ!流石飛び級でこの学園に入っただけあるな!」


 緊張しながらも鋭い洞察力を見せる澄歌。褒められて小さくガッツポーズする様は年相応の可愛らしさが垣間見えた。


「つまり!それぞれの班には被りこそあれど、全員で5つの元素の術を扱える事になっている!五行の術を駆使して必要な器具や机、椅子に至るまでを生み出しカレーを作れと言う事だ!では始め!」


 こうして1日目最後の訓練プログラム『カレー作り』が始まった。


「という訳だ。天陽院はこの6人と俺で作るよ」


 響達天陽院生の元へ悠が現れる。五行が木の空と秋、火の響と文香、土の臣也、水の陽那に金の悠が加わる事でバランス良くなる。


「人数多いし先生の俺が入るのはちょっとズルかな?まあ何が必要か言われたら作るって事にするから、指示頼むよ」

「了解ッス」

「じゃあそれぞれ役割を分けようか。僕はできるとして、この中で料理する人……って寮で一人暮らしだから全員ある程度できるか」

「空とか家の定食屋手伝ってたぞ」

「うん!任せて!」

「なるほどね。じゃあ空が調理メインとして考えていくよ」


 役割分担が済み、本格的にカレー作りが始まる。


「なあ秋〜?米炊くかまどってこんなんだっけ?」

「臣也先輩それピザ窯です。直方体の上と前が空いてる感じです」

「あ、マジ!?作り直すわ!」


 ピザ窯が崩れ、臣也は新たに言われた通りのかまどを作る。


「そこに飯盒吊るす棒いるんで先生頼みます。僕は文香先輩に火着けてもらう薪出すんで」

「ほいほい」


 悠が作った金属の棒を合わせ、秋の作り出した薪で竈門が完成する。


「陽那ちゃん、具材どれくらいの大きさにする?」

「ゴロッとしたやつがいい!」

「は〜い♪」


 陽那は臣也が作った簡易的なキッチンのシンクの中で水を生み出し野菜を洗う。そして皮を剥く。向き終わった野菜を受け取った空は慣れた手つきで切っていく。


 勿論包丁やピーラーは悠が作ったものだ。


 その横のかまどでは、空が野菜を切り終えるまで響が火を起こす練習をしていた。


「くっ……一定の出力で出し続けるのって結構大変だ……」


 普段火力を上げることばかり鍛錬して来たからか、抑える方はまだ慣れない響。


「あんまりこういうのはしないものね。でも響くん上手よ?」

「そ、そうですか?」

「うん♪じゃあ次は中火の練習しようか?」

「はい……!」


 弱火から火を強める。逆に強すぎてしまったので弱めると、今度は逆に弱すぎる火になった。そのまま強火と弱火を交互に繰り返し、苦戦している様子が一目で見て取れた。


「ぐぬぬ……」

「難しい?じゃあお手本見せるから見てて?」


 そう言って文香は左手で小さな火を生み出す。それはゆっくりと大きくなり、中火と言えるサイズになった。


「手、貸して?」

「はい」


 響が言われた通り手を出すと、その左手を文香の左手の下に添えるよう持っていく。


「っ!あ、あの……」

「これで自分の手から中火が出てるイメージしやすいでしょ?」

「あ、はい……」


 2人の距離が近くなり、その手の温もりも感じる響。照れくさかったが、それを我慢してイメージを掴むことに集中する響。


 そのまま右手で起こした火を左と対になるように調整する。すると……。


「出来た!」


 見事に中火が出来上がった。


「凄いよ響くん!飲み込み早くて驚きだわ!」

「ありがとうございます。文香さんの教えあってこそッス」

「あらそう?ありがと♪」


 響は自分の事のように喜んでくれる文香の人柄に触れて心も温かくなるようだった。心の底からの感謝を伝える。


 そうして切り終わった具材を悠の作った鍋に入れていきある程度炒める。そして陽那の出した水を入れて沸騰するまで煮込んでいく。


「なあ秋。こっちにも薪くんね?あとは煮込むだけだし、ずっと手かざしとくのも疲れる」

「そうだね。ただ、五行の関係的に火が強まるから一旦そっちを弱めてから薪をくべよう」

「あ、そっか。んじゃ気をつけねえとな」


 言われた通り弱火にしてから差し出された薪に火を移す。それはすぐに中火ほどの大きさになる。


「おお……ほんとだ。こういう細かい調整学ばせる目的なんかね?」

「それもあるけど……多分、この力の使い方は『影』を倒すばかりじゃないって事を伝えたいんじゃないかな」

「……なるほどな」


 理不尽を跳ね除ける為の強い力だとばかり考えてた響にその考え方は新鮮であった。そしていつか今日の経験を役立てられるようになりたいと思うのだった。




 暫く経ち、天陽院一同のカレーが出来上がる。飯盒で炊いたご飯を皿に盛り付け、アツアツのカレーをかける。秋が作った木の温かみ感じるテーブルを囲い、7人は楽しそうに食事をする。


「美味い……!流石空だな!空ん家の店で食ったのと同じぐらい美味い……!」

「えへへ、良かったぁ♪そう言ってくれると嬉しいよ♪」

「ホントに美味し〜!あたし毎日食べた〜い!」

「そこまで……!?流石にそれは無理だけど、偶に作って持っていくね?」

「やった〜!空ちゃん大好き!」

「ホント陽那が居ると賑やかだね。それも慣れたもんだけどね……うん、美味しい」


 4人の横は文香と臣也、悠が固まって座る。


「フフッ……いつ見ても仲良しで微笑ましいわ」

「文香には臣也が居るだろ?ほら、いつも仲良さそうに漫才してるじゃん」

「してません!」「してないです!」


 悠の言葉に同時に抗議する文香と臣也。こういう所が息ぴったりだったりするのに……と悠は思う。


「あ〜俺も空ちゃんとか陽那ちゃんとかの優しい子がクラスメイトなら良かっ……いでで!」

「なんですって〜?もっかい言ってみなさいな?」

「嘘嘘!冗談だって!耳ちぎれる!」

「あらそう?なら早くそう言いなさいな」

「ひぃ〜マジ怖ぁ……」


 失礼な事を口走った罰を受ける臣也。文香の目は笑っておらず、たまらず萎縮するのだった。それを横から見ていた響達4人は控え目に笑うのだった。


 そんな賑やかな食卓も終わり、無事に交流会1日目は終了したのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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