第42話 交流会開始
校庭。
朝礼台の前に集められた天陽学園1年35名、選抜2年2名、3年2名。そして天陽院1年4名、2年2名……総勢45名がそれぞれ並んでいた。
時間になると朝礼台に1人の教師が立つ。そして拡声器を持ち深く息を吸う。
「お前らァ!遂にこの日が来たなァ!?長々と話すつもりは無い!各々鍛え上げてきた実力を見せ、天陽院・天陽学園の一同研鑽しろ!この我修院遥が!ここに天陽院・天陽学園交流会の開始を宣言する!」
特攻服に身を包み、艶やかな赤毛をポニーテールにした20代後半くらいの歳の女性教師……我修院遥が高らかに開会宣言をする。
以下にもスパルタなその雰囲気に天陽院から来た響達の背筋も思わず伸びてしまう。
「以上を開会の宣言とする!この後は第1プログラムの準備で校庭の立ち入りを禁ずる!お前らは控えのテントで精々英気を養っておくんだな!」
そうして開会式は手短に終わった。一同はゾロゾロと控えのテントへ向かう。そんな中、響達は天陽学園の生徒達から視線を向けられるのを感じる。
「へぇ……あれが天陽院のねぇ?」
「なーんか普通。弱そう」
「一般出ならそんなもんじゃね?エリートの俺らとは違うっていうか」
「でも女の子可愛い〜。陰陽術教えるって誘ったらワンチャンあるかな?」
「バーカ顔見て言え。ま、エリートの俺ならあの黒髪の内側青い子……ウブそうだしイチコロっしょ」
ヒソヒソ……とは言えない声で視線と同じやや下品な会話をする天陽学園生徒。
「あ?」
「響、ガン飛ばさない」
「俺はいいけどけどよぉ……お前らの事舐めてるのはムカつくんだよ」
自分以上に仲間の事を想う響。秋はその気持ちを汲みつつもあくまで制止する。
「気持ちは分かる。けどどうせやるなら交流会の中でだ」
「ム……そうだな。ギタギタにするわ」
「やる気あるのはいいんだけどね……」
不満はまだあるが響はその視線の矛を収めるのだった。
天陽院一行は視線を無視して待機する。そして暫く経ち、訓練プログラムの準備を整った事をスピーカーからの声で告げられた。
「ええ〜皆様!準備が整いましたので朝礼台前に整列して下さい!あ、私は連絡兼実況担当の天陽学園2年、我修院唯華です!どうぞよしなに〜」
朝礼台横のテントの一角。そこに長机とパイプ椅子の実況席に居る赤毛をサイドテールにした少女が声の主であった。
「我修院……あの教師の身内か?」
「多分。ていうか実況まで居るの面白いね」
そこかしこから体育祭のような雰囲気を感じる響達であった。そして開会式のように我修院遥が朝礼台に上がる。
「お前らァ!第1プログラムの説明をする!天陽学園生徒は入学時に知っていると思うが、今から行うのは対『影』戦闘試験だ!」
第1プログラムの対『影』戦闘試験。それは天陽学園が行う入学試験で行われる戦闘試験である。
校庭にある幾つもある4つ一組の楔。それが貼る結界の中に入り、『影』に見立てた式神を制限時間5分以内に倒すというものだ。
天陽学園に通う生徒は全員陰陽師の家系である為、天陽院と違って入学前に実力を問われるのである。
「入学時のものとはまるで違うぞ!舐めてかかって醜態を晒さぬよう気をつけろ!……特に天陽院生徒!」
「ん?」
突然話を振られた響達はやや驚く。その反応を見越していたかのように笑う我修院遥。
「一般出身やそれとつるむ者達では荷が重いかもしれんが、精々頑張るがいい。以上だ!」
嘲るようなその言葉を聞いて小さく笑う天陽学園の多数の生徒。
それに響は眉を潜ませる。その内心は当然穏やかでは無い。しかし秋の言葉を思い出し、見返してやると決意するのだった。
サポートの陰陽師達により結界が展開され、だだっ広い校庭に45の透明な部屋が形作られる。響達がそれぞれの結界に招かれると、やや奥の方に札が貼られた楔が新たに立てられた。
それこそ式神を召喚する護符である。
「は〜い!皆様見えますでしょうか!これから楔の護符から式神が召喚されます!そしてスタートの合図と共にそれを倒してくださ〜い!それじゃ『陽流』の皆様お願いします!」
我修院唯華のアナウンスの元、『陽流陰陽師』達は詠唱を始める。そして各結界の札が陽力に包まれ、やがて醜い怪物のような式神が現れる。
「全ての結界に式神が召喚されましたね?それでは10カウントの後に開始となります!行きますよ〜?」
いよいよ戦闘試験の始まりを告げるカウントダウンが開始される。全ての天陽学園の生徒、天陽院生徒が各々戦闘態勢に入る。
カウントは残り3秒。
「……3!……2!……1!スタートぉぉぉ!」
ブーッ!
始まりを告げるブザーが鳴り響く。
そしてそれが鳴り終わる2秒。
その間に空の風が、秋の直刀が、陽那の鞭が、文香の炎が、臣也の土の手が……そして響の刃が式神を撃破したのだった。
「え?え?」
実況の我修院唯華の呆けた声がスピーカーから流される。
「あっ!は、早くも合格者が出たぁぁぁ!ええ!?こんな早く!?」
「えっ!?」
「嘘だろ……!?」
「誰だよ……!って天陽院の……!?」
本分を思い出して実況に戻る唯華の声を聴き、他の結界内では次々と驚きの声があがる。
「ふぅ……」
息を吐き刀を鞘に納める響。周りを見渡し、天陽院の仲間がそれぞれ式神を撃破したのを確認し微笑む。
結界を出た響の元に皆が集まってきた。
「おし、全員合格だな」
「うん!良かったぁ……」
「僕たちなら当然だね」
「もうバッチシよぉ〜!」
「みんな怪我無いようで良かったわ」
「これ秒数とか出ないのか?武勇伝として女の子に話したいから教えて欲しいぜ」
和気あいあいと健闘を称え合う響、空、秋、陽那、文香、そして臣也。すると、響の視線は同じように結界から出てきていた人物に映る。
「あいつもか……」
視線の先には天陽学園3年の白山獅郎。響に気がついたのか、視線をぶつけると共にニッと口角を上げるのだった。
「やっぱり頭抜けてるのは選抜2年と3年だね」
その響の横に立ち秋が口からそう漏らす。
「ふーん。まあどんだけ凄くても負けてやる気は無いけどな」
「同感だね」
2人は好敵手を見つけたようにやる気に満ち溢れるのだった。
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