表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/163

第38話 陽那と過ごす休日

 今日も今日とて夕暮れが天陽院のグラウンドを赤く照らす午後。


 空と秋、そして悠はそれぞれ任務で不在。響と陽那は自主鍛錬に励み、丁度切り上げようとしていた所だ。


「響くんおっつ〜」

「おう、お疲れ〜。あ、なあ陽那?今度式神の事教えて欲しいんだけど……」


 響は今の鍛錬も慣れて来た事で、新しい技術にも興味を示していた。だから実際に式神を扱い、その分野に精通する陽那へ教えを乞うのが良いと考えた。


「式神!?いいよいいよ!教えたげるー!」


 陽那は2つ返事で引き受ける。目の色を変えた様子に響は少々驚き、思わず身を引いた。


「テンション高ぇな……ありがたいけど」

「だってだって〜!響くんあたしにはあんま頼ってくんないんだも〜ん!」

「……あぁ〜たしかに。でも憑依型の事は先生とか秋が居るし……」

「ムゥ……それもそっか。まあ式神術の事は、この超絶エキスパートな陽那ちゃんにまっかせなさい!」


 そう言って陽那は鼻高々に胸を逸らす。そして流れるように軽い講義が始まる。


(今度って言ったんだけど……ま、お言葉に甘えるとするか)


「えっとね?まず式神術には概ね3つの種類があって、1つ目は思業式(しぎょうしき)っていうの。陽力に術者の思念を加え具現化するタイプだね」

「思念……普通に術を使うみたいな感じか」

「そうそう♪それで、2つ目は擬人式(ぎじんしき)。人型の和紙や藁人形とか、媒介に陽力を加えて式神を生み出すタイプだよ。名前の由来はまんまだけど、護符や勾玉の人型以外の媒介でも同じだよ〜」

「へぇ〜」


 そう言えば陽那は護符を用いた術もしていたも思い浮かべる響。その時は式神ではなかった事から、護符は式神術でも他の術でも扱えるものだと考える。


「最後に悪行罰示(あくぎょうばっし)。これはかなり特殊で、過去に悪ぅ〜い事した神様や霊を儀式で調伏、式神として使役するタイプ。強力だけど、大抵は命を賭けるレベルの儀式をする必要があるから使い手は少ないよ〜」


 所謂、調伏(ちょうぶく)の儀というものである。使い手は少ないものの、強力な式神とそれを屈伏させた実力を持つ術者で鬼に金棒の戦力となる。


「そんなのまで……でもすぐに出来そうじゃねぇなそれ」

「そうだね〜。だからまずはあたしと同じ思業式を覚えるといいよ!」

「おう!で、どうするんだ?」


 いよいよ実践と意気込む響だったが、陽那は待ったをかけた。


「いや〜いきなりはねぇ?うーん……そうだ、明日!土曜日の予定空いてる?」

「えーとたしか……土曜は(さえぎ)と映画見に行くから日曜なら大丈夫……でもなんでだ?」

「フッフッフッ……式神に関係してちょっと付き合って欲しいとこあるんだよね〜?話はそれから!」

「お、おう」


 冗談半分、真面目半分のように語る陽那。今日はもう遅い事もあり、響は陽那の提案に従うのだった。




 2日経った日曜日の朝8時。



 私服の赤のパーカーと黒のズボンに身を包んだ響は寮の玄関で陽那を待っていた。


「おっ待たせ〜!」

「おう、別にあんま待ってな……」


 声に振り返った響の目に飛び込んできたのは、ここ数年東京で流行り定着した服装……所謂、地雷系ファッションに身を包んだ陽那の姿であった。


「お?響くんカジュアルだね〜!相変わらず赤似合ってカッコイイね!」

「おう、ありがとな……」


 陽那はいの一番に響の全身を見回し褒め称える。その言葉に響は少し照れくさくなり目を逸らす。


「ほ〜ら、女の子が褒めたんだからさ?こっちの服も褒めるの〜」

「あ、すまん……って近いわ!」


 響の視線に入るように顔を覗き込んでいた。一歩下がり、改めて陽那の全身に目を向ける。


 上からトレードマークのサイドテールは黒のリボンで結び、フワフワのカールが施されている。


 そして薄ピンクに黒のフリルをあしらったセーラーブラウス。膝上までの黒のビジュースカートがそこから伸びる白い脚を際立たせている。


「おぉ〜……普段ギャルっぽい制服だけどこういう系も似合うな」

「でっしょぉ〜!ね?可愛い?」

「おう、悔しいけど可愛い」

「ちょっとぉ〜!悔しいって何さ〜!」


 響は照れ隠しを含めて意地悪く言うと、陽那は可愛らしく怒る。その様子に口角を上げると、陽那も同じように笑うのだった。


 そうして陽那の案内の元、響は目的地へ向けて足を向けるのだった。





「さぁ〜!やって参りました!神谷動物園!」


 2人がやって来たのは首都で有名な動物園。世界中から取り寄せた様々な動物が見れる場所だ。


「あれ!?式神は!?」


 当然響はそれにツッコミを入れる。厳密には普通のお出かけの格好である陽那から何となくは察していた。


 しかしいざ目の前に陰陽術とは縁遠い場所に来るとツッコミたくもなるのだった。


「式神って姿形はそれぞれだけど、あたしみたいに色々動物を参考にする人も多いんだよ〜」

「あ、たしかに陽那のは動物だったな」


 天陽院で陽那の式神を相手に訓練した時の事を思い出す響。熊、獅子、山羊など体格もそれぞれ別の式神を目撃していた。


「そうそう!どんな式神にするか分かんないけど、色んな動物を観察、参考にして自分が一番だって子を作るの。そうすれば、絶対頼りになる味方になるよ♪」

「なるほどな。そんじゃ行こうぜ」


 響は陽那の理屈に納得し、動物園へと入場するのだった。


 まず2人が向かったのは正門左の日ノ本の動物が見れるコーナー。


 五重の塔が見える自然溢れる道を行く。


「わっ!鹿さんだ〜!」

「ホントだ。角が立派で強そうだな」

「角ならウチのやまちゃんの方も負けてない!」

「やまちゃ……?あぁ、山羊の子か?確かに硬そうだ。そもそも式神の方が強いと思うが……まあいいか」


 張り合う陽那を窘めつつ、その次は道なり進んだ。


「バイソン!ガタイ良っ!」

「おお……!あれに突進されたらタダじゃ済まなさそうだ」


 歩いているだけで力強さを感じるその雄姿に感心する2人。


 その次は近くのゾウのいる森。


「おっきぃ〜!けどおっとりした動き可愛い〜♪」

「でもアレが人襲う事もあるのか……生身だと恐ろしいな……」


 巨影並の大きさを誇るゾウに目を奪われる。だが器用に鼻で餌を口に運ぶ様子に愛らしさも感じるのだった。


 その後は正門の右側の道を行く2人。


「フクロウ!可愛いぃ〜!膨らんでる!」

「うおっ!?奥のはめっちゃ細くなってる!?」

「ホントだ〜!あはは!おもしろ〜!」


 威嚇で体を大きく見せたり、木に擬態しようとして細くなるフクロウの姿に2人は興味津々。


「でもさっき迄のに比べたらあんま強くはなさそうだな……伝令とかには役に立つか?」

「そうだね〜。なんか魔法使いっぽくて良くない?腕に乗せてさ〜?」

「あぁ、あの映画の……確かにそれっぽいな」


 有名な魔法使いの映画を思い起こす響と陽那。専用スマホ以外にも連絡手段を持てるのは利点だと考える。


「響くん杖とローブ似合わなさそ〜」

「コスプレした事ねぇから分かんね〜。でも陽那は似合うんじゃなぇか?」

「そう?んじゃ、今度コラボしてるテーマパークで陽那ちゃんのローブ姿見せてあげよう♪」

「おう、そん時は空や秋らとも行くか」

「もち!絶対楽しいじゃん!」


 そんなこんなで時間はお昼12時を回る。


「お腹空いた〜!ご飯食べよ?」

「おう、確か東野食堂ってのがあったっけ?」

「お!詳しいね〜?デートで来た事あるの?」

「別にデートじゃねぇよ。空とか他の友達と遊びに来た事あんだよ」


 場所を覚えてるので響は陽那を先導するようにレストランまで来る。


 テラス席へ座る2人。響はヒレカツの乗ったカレーで、陽那は卵でご飯を包んだオムハヤシライス。


「お?響くんはカレーにしたんだね!ガッツリ系!男の子って感じだ〜」

「おう、陽那はオムハヤシか。これも結構ガッツリじゃね?」

「こう見えて陽那ちゃんは沢山食べるからね!」

「なんか意外だ……なんとなくオシャレなパスタとか食べるのかと」


 普段からギャルコーデでオシャレに気を使っているので、てっきり食べ物もオシャレなものや可愛いものを選ぶとぼんやりそう思っていた。


 蓋を開けてみればガッツリ系でギャップを感じたが、活発な陽那に合っているようにも思う響。


「いっぱい食べる子嫌い〜?」

「んなわけ。好きなもん好きなだけ食べるのが幸せそうでいいと思うぜ?」

「ほんと?嬉しい〜♪じゃ、早速食べよっか?」


 響の回答にご満悦な陽那はオムハヤシをスプーン一杯に掬い、口に迎える。


「んん〜!おいっしぃ〜!卵ふわふわ!」

「俺も……」


 ヒレカツを切り分け、ご飯と共にカレーを絡めて口に運ぶ。


「美味い……!」


 サクサクの衣に肉汁がジューシーなヒレ肉、スパイスの効いたカレーのコンボはまさに暴力的な味わいに響は唸る。


「そっちも美味しそ〜……ね?一口ちょ〜だい?」

「え?」

「ねぇ〜いいでしょ〜?あたしのも一口あげるから!」

「しょうがねぇなぁ……いいぜ」


 可愛らしく駄々をこねる陽那。響は快く了承する。


「やった!あーん!」

「あーん!?」


 少し顔を寄せ口を開く陽那。てっきり勝手に取るものだと思っていたから響は驚く。


「ほら早く〜」

「お、おう」


 陽那は目を瞑って受け入れ準備万端だ。少し恥ずかしいが、響は仕方なく切り分けたヒレカツとカレーを口に運んでやった。


「んーっ!凄い!めちゃ美味しい!ヒレカツとカレーの相性やっば!」


 子供のように目を輝かせ頬張る陽那。その様子に響は自然と笑みがこぼれる。


「それは良かった」

「んじゃ今度はこっちの番だね!はい、あーん?」


(そうだった……こっちもあるんだった)


 響は陽那からお返しのあーんをされ羞恥心を思い出す。

 祝賀会のタコパでもされたが、何回やっても慣れないと思う響であった。


「あーん……おおっ、ほんとに卵ふわふわだ……!ハヤシもうめぇ」

「でしょ?いや〜2人で来て良かった〜!これぞ二度美味しい!」


 こうして2人はランチを楽しむのであった。



 その後もまた動物園を見て周り、2人は夕方まで充実した時間を過ごすのだった。






 天陽院の敷地に戻り、寮までの帰路をゆっくりと歩く2人。


「響くん、式神どんなのにするか決まった?」

「そうだな……やっぱ最初は元から考えてたのにしようと思う。他の動物も色々出来て面白そうだったし、また次の機会にかな。今日は誘ってくれてありがとな」

「いいってことよ!で、教えてくれないの〜?大っきくてすごい奴?いや、案外ちっちゃくて可愛いの?ねぇねぇ〜なんなのぉ?」


 響の考えていた式神に興味津々な陽那。期待を持たれるとなんとなく恥ずかしい響は言い淀む。


「えーとだな……」

「うんうん?」


 響は内緒話をするように小さく呟く。すると陽那は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするのだった。


「ええ〜!なんで?なんでその子にしようと思ったの?他にも強そうな子居るのに!」

「べ、別にいいだろ?つい最近すげぇの見たんだから……ほら、先行くぞ」

「あ、待ってよー!」


 響は足早に帰路を歩み、それを陽那は駆けて追いつき詳細を問いかけるのだった。



 寮の玄関に入ると、幾つか服の入った袋を携えた空と出くわした。


「あ、空」

「ほんとだ。空ちゃんやっほ〜?買い物帰り?」

「響くん、陽那ちゃん。うん、気になってた夏服買ったんだ〜」


 袋を軽く開けると涼し気な生地の服が見えた。


「おおー!着てる空ちゃん見るの楽しみ〜!」

「あはは、そんなに期待されるとちょっと恥ずかしいな……陽那ちゃん達は何してたの?」

「動物園デート!」

「「デート!?」」


 陽那の発言に空と響が驚愕する。


「そ、そうなんだぁ〜?ふぅーん?……楽しかった?」


 空の声は震えて動揺の色が見える。しかし直ぐに目は笑っていない張り付いた笑顔になる。


(なんかめっちゃ怒ってる!?)

(あちゃ〜……本気にしちゃうタイプだったか〜)


 響と陽那はその圧に内心戦々恐々となる。


「えと、じょーだんじょーだん!ね?響くん!」

「俺に振んの!?えと、式神の事について教わろうとしたらだな……!」


 響は空に懇切丁寧に説明をするのだった。


「なーんだ!そうだったんだね!もう、早く言ってよ〜!」

「お、おう……分かったようで良かったよ」

「あはは〜……良かった良かった〜」


 普段の空に戻り安心する2人。命拾いした気さえ感じる。


「でも、私も式神の事聞きたかったな〜?遊びにだって……」


 プクっと頬を膨らませて可愛く拗ねる空。


「あぁ〜……それは悪い事しちゃったね。お詫びにだけど、次はみんなで遊びに行こう?」

「ほんと!?うん!行く!」


 空は陽那の言葉を受け、先程までと打って変わって明るくなる。コロコロ表情が変わる様子を響は面白く感じる。


「そういや、みんな誘ってテーマパーク行きたいって話してたんだ」

「ホント!?最近行けて無かったから嬉しい♪予定空けておくね?」

「おけ!あたしチケット取っとく!」

「秋にも声かけねぇとな」


 こうして響は休日を学びのある過ごし方をした。そして、響の式神の詳細を空達が知るのはもう少し後の話であった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

宜しければ是非とも評価やブクマ、感想よろしくお願いします!励みになります!

また、感想コメントでは質問も受付しています。

答えられる範囲でゆるく答えていきたいと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ