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第162話 帰還と次なる任務

 響は代表して里長から此度の感謝を込めて2つの咒装を贈られるのだった。詳細が語られる。


「白い方は『陽縛布(ようばくふ)』という。端から陽力を伸ばせばその軌跡を追うように伸びる」


 響は布を持ち言われた通り陽力を伸ばす。すると布が延長していった。布に触れた時点で術式詳細は頭に入ってきたが、いざ使うと感動するものだ。


「おお……ホントに伸びた」

「上手く操作すれば捕縛はもちろん、木々に引っ掛けて移動にも使えるぞ」

「汎用性があっていいっスね」


 火糸(ほのいと)でこういうものは慣れているので上手く扱えそうだと響は考える。続いては赤の布。


「これは『護布(ごふ)』。神に捧げたものからお下がりした物を使ったらしく、身につけている物から邪気を祓うと言われている」

「邪気……なるほど、月の霊力とか陰力から護ってくれるのか」


 触れて伝わってきた術式情報から響は納得した。


飛輪陽霊(ひりんようれい)は護布を肩から斜めにかけ、陽縛布は太刀の柄頭に縛って反対を刀身に巻いて鞘代わりにしたという。護布は太刀を背負う為にも使ったそうな」

「太刀使う時は刀身の所を火の術で焼き切ってたらしいぜ」

「マジか……でも確かに背負った太刀を抜刀するなら合理的ではある」

「響くんもそうしなよ!」

「私もいいと思いますよ?」

「んじゃそうしよっかな」


 響は白雹加具土命丸の新調された柄頭に陽縛布を巻き付け、その端を伸ばして刀身に巻き付けていった。そして隙間から護布を通した。


 それを背負うと、響の好む色で構成された黒、赤、白の制服と調和が取れていた。


「うむ、まるで伝説に聞く飛輪陽霊(ひりんようれい)のようじゃな」

「響くんめっちゃ似合ってるよ!」

「孫にも衣装だな」

「もう、夏ったら……素敵ですよ。響さん」

「おう、ありがとう」


 こうして響は新たな刀、新たな装いとなった。


 いつの間にか昼を回っており、響達は昼食を食べた。そして別れの時がやってくる。


「夏、冬華。世話になったな。刀大事にするよ」

「おう、また折れたら来な。更に強く打ち直してやる」

「夏と私で……ね?」

「たりめぇよ」


 2人で1人前の兄妹。1人で打てるようになるまでは力を合わせて咒装鍛治の仕事を受けると決めた。


「先ずは腕を磨いて……いつか父さんの作った五輪剣を修復する」

「今度はちゃんと人を守る為に振るえるように……です」

「2人ならきっとできるよ!あたしと響くんが保証する!」


 胸を叩き、陽那は真っ直ぐに伝える。それに響は頷く。


「んじゃ、そろそろ行くよ。本当にありがとな」

「里のみんなにもよろしく言っておいてね!」

「もちろんです。響さん、陽那さん……ありがとうございました」

「達者でな」


 兄妹に見送られ、響と陽那は帰路につくのだった。夏と冬華はその背が見えなくなるまでその手を振るのだった。


 ─────────────────────────


 八大蛇(やおろち)の封印が解かれた事件についての報告書。


 10月1日。

 咒装鍛治の里にて、888年前に各地で現れ猛威を奮った妖『八大蛇』が時を経て封印から解かれた。これを八大蛇復活事件と呼称。


 八大蛇は偶々里を訪れていた陰陽師白波響により討伐された事で幕を閉じた。


 尚、調べによると封印を解いた人物である太原(たはら)藻助(もすけ)は5年前に姿を消した陰陽師の血を引く人物である。交戦記録にてぬらりひょんの名を口にしていた事から妖の関与が疑われる。


 引き続き専門部隊による調査を進める。


 ─────────────────────────


 天陽院に戻ってきた響と陽那。教室で空と秋に土産話をする。


「そんな事があったんだね……2人とも大変だったね」

「そうなんだよぉ〜。帰ってくるのも遅くなったし!」

「でも、得るものもちゃんとあったぜ」


 響は傍に置いた白雹加具土命丸に目を向ける。鞘代わりの陽縛布。背負う為の護布が巻かれたそれは今回の成果を一目で伺える。


「確かに……君達の頑張りの成果だね」

「おう。陽那は土産に石貰ってたよな?」

「そう!貴重な濃元物!金念石(きんねんせき)石!」


 咒装鍛治として良質な鉱石が必要な里は近くに鉱脈や採掘場を持っている。その中では五行の金の元素を濃縮した石が採れるのだ。


 金の五行の咒装にするしか向かないので、貴重な品として保存だけされていたのを陽那は恩賞として譲って貰ったのだ。


「これで暫く金の五行付与し放題!助かる〜!」

「良かったね陽那ちゃん」

「うん!てな訳でみんなにも練習付き合って貰うから覚悟しててね!」

「はいはい」


 響は呆れたように返事をするが悪い気はしなかった。元気な陽那の姿が見れているのだから。



 数日後。

 響、陽那、空、秋は執務室に集められた。そこには悠が待っていた。


「みんなお疲れ様。わざわざ来てもらったのは次の任務の事だ」


 悠は挨拶も早々に立ち上がり、机にあった資料を4人に渡していく。その資料には呪術被害調査書類と題されていた。響はあまり聞き馴染みのない言葉を音読する。


「呪術……陰陽術じゃなくて?」

「ああ、響と空はここら辺まだ知らないか。説明するよ」


 悠は壁際にあるホワイトボードに図を書く。


「呪術は陰陽術の種類だよ。恨みや憎しみを力に変えて敵を殺す術。逆に負の力を使わず穢れを祓い人を生かす事もできるのを(まじな)いと言って、祓除(ばつじょ)術や治癒術がこれにあたる」

「なるほど」

「そうなんですね」


 響と空は説明に納得する。


「さて、資料を読んでもらうと分かる通りだが……最近呪いによる被害が急増している」


 資料には人や動植物の呪いの被害とその分布図が乗っていた。そして右肩上がりのグラフには、それらの数が例年より増加している事を示していた。


「偶々月の霊力に負の念が結びついてそういう被害が出る事もある。普通は妖になるけど、負の念の指向性が強いと呪いとなって降りかかるんだよ」

「誰かに強い恨みや憎しみを向けていたら……ですね」


 賢しげに秋が呟き、それを悠は頷きで肯定する。


「だが今回は明らかに多い。ほぼ人為的なものと見ていいだろう」

「故意に呪いを振り撒いてる奴がいるのか……許せねぇな」

「そうだね。それを何とかするのが私達の任務ですよね?」

「ああ、その通りだ。陰陽師としてこれは見過ごせない。詳細な日付は追って伝えるが、何時でも行けるように準備しといてくれ」

「「了解!」」


 悠の言葉に4人はハキハキと返事をする。そのまま退室し、来る任務に備えるのだった。


 そんな中、陽那の様子が気になった響。


「陽那?どした?」

「え?何響くん?なんか言った?」

「いや、なんも言ってねぇけど……なんかやけに静かだったから気になって」

「そ、そう?次の任務までに他の濃元物用意できたらな〜って思ってただけだよ?」


 陽那は少し戸惑いながらも、いつもの元気な調子で答える。


「さ、そんな事より授業始まっちゃうよ?早く教室行こ?」

「ならいいんだが……」


 陽那は少し早足で教室に向かった。響はその背がどこか心細そうに見えたのだった。

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