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第159話 宴会と約束

 仲居に連れられて響と陽那は大広間に通された。そこには里の人々が居た。どうやら里のみんなを集めたらしく、大広間を4つぶち抜いた中でも少し狭そうだ。圧巻の光景に響と陽那は固まっていた。


「こ、これは……?」

「宴会じゃよ」


 そこに里長が現れる。どうやら彼の一声で皆集まったようだ。


「皆を元気づけるには宴会が持ってこいじゃ。お主らをもてなすと共に絆を更に深める。如何かな?」

「いいと思います!」

「俺も同じッス。やっぱりここの人は逞しい……!」


 響と陽那は席に着く。すると次々に豪華な料理が運ばれてきた。滅多に食べない料理達に2人や里の人々は目を輝かせる。


 全員に料理と酒が行き渡ると、里長が軽く音頭を取る。


「此度の騒動は大変な被害があった。だがしかし、この里に生きる者たちは皆強い。だからまた明日から復興に務め、日常を取り戻して行こう。その為今宵は存分に楽しみ、英気を養って欲しい。では……里の為に戦ってくれた陰陽師、白波響と尾皆陽那に……乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 乾杯と共に人々は酒に口をつける。響と陽那は未成年なので甘酒だ。続いて料理に口をつける。


 天ぷらの盛合わせ、鯛の刺身、炊き込みご飯など、里唯一の旅館で出せる最高の料理が揃っている。その味わいは暖かい自然の恵みを凝縮しているようだった。


 ささやかながら宴会芸も披露され、激動の今日を送ったとは思えない程に皆は笑った。食後には響と陽那の元へ何人も人が集まり、感謝を述べていった。


 流石に全員と話すのは難しいとして里長がまとめてお礼を述べる。沢山の感謝の心を響と陽那は受け取ったのだった。


 そうして夜はふけていく。2人は仲居に連れられて今日泊まる部屋に通された。


「誠に申し訳無いのですが……ご用意出来る個室としてはここが一番でして……」


 仲居が申し訳なさそうに言う。2人の部屋は極普通の一室。里を救った英雄には質素と言えよう。しかし里の半分が壊れ、家を失った人々を泊める事となったこの宿。


 流石に大広間を使っても全員が寝るには狭く、部屋が限られるのだった。


「いえ、雨風凌げる場所があるだけありがたいです」

「そうですよ!温泉も料理も絶品でしたし、全然構いません!」


 2人は快く受け入れるのだった。2人は七平家に泊まった時のように間を開けて布団を敷いた。電気を消して布団に包まれる。


「いや〜偶然にも昨日と同じだねぇ」

「そうだな。ま、寧ろこれぐらい狭い方が落ち着くからいいんだけどな」

「そうだねぇ」


 布団の中で2人は暫く話す事にした。今日は色々な事があった。楽しい事も辛い事も。それでも里の人達のように逞しく生きようと話した。


 今日を振り返った後は他愛もない話をする。そうしていると2人はいい感じに眠気が襲って来ていた。陽那が少し眠たそうな声で呟く。


「ねぇ、響くん?」

「なんだ?」

「今日の……温泉での事」

「別に気にしてねぇよ」

「そっか。響くんは優しいね……本当にありがとう」

「おう」


 暫く黙り込むが、また陽那は口を開いた。


「あのね?あたし……まだ隠してる事、あるの。それで……」


 陽那は顔を響の方に向けた。すると、瞼を閉じて小さくと寝息を立てる響が居た。それに陽那は優しく微笑む。


「色々あったもんね。この事はまた今度に……ね。おやすみ、響くん」


 そう言い残し、陽那もまた瞼を閉じて段々意識を手放すのだった。


 朝。

 暖かな日差しが窓から差し込む。それに陽那は目を開けた。気怠い体をゆっくりと起こす。まだ起ききらない頭で思考し、まず顔を洗おうと部屋の洗面台に向かう事にした。


 これまたゆっくりと立ち上がる陽那。上がり切らない瞼の狭い視界で先を目指す。すると、何かに足を取られて倒れた。


「んにゃんっ!」


 狐の耳や尻尾を持つのに猫のような悲鳴を上げる。その音で響も目を覚ました。陽那は響の体に引っかかったのだった。


「んあ……ひ、陽那……?何して……っ!」


 響は半目で周りを見ると大きく目を見開いた。お尻を上げて横たわる陽那が見えたからだ。浴衣は乱れ、隙間から赤いレースのパンツが覗いた。


(ま、またこういうパターンか……!)


 響は顔を紅潮させて布団を被るのだった。


「ごめぇん……起こしちゃったね。あたし、顔洗ってくるね〜」

「お、おう……」


(隙ありすぎだろ……こっちは男だぞ?もうちょい……警戒してだな……)


 陽那が離れていく音を聴く。響はため息をつき、そのまま瞼を閉じて眠気に身を委ねるのだった。二度寝して起きた時、響は今朝の記憶はスッカリ忘れていた。


 響と陽那は朝食を済ませ宿を出た。そこに冬華(とうか)が現れた。いつもの青と白の作務衣姿だ。


「冬華ちゃん!おはよ!」

「おはよう」

「はい、おはようございます」


 軽く朝の挨拶を済ませる3人。


「ちょうどあたしらからそっちに行こうと思ってたんだ!」

「そうでしたか。もちろん刀の打ち直し……ですよね?」

「ああ、約束したからな」


 夏の手伝いをして全てが終わった後、響の持つ咒装(じゅそう)加具土命丸の打ち直しを考えるというもの。


 響達はそれを求めに七平家に行く気だった。それこそ響がこの咒装鍛治の里を訪れた本来の理由である。


「既に夏が準備しています。行きましょう」

「おお……!ありがとう!」

「そんじゃ急がないとね!」


 3人は七平家へと走るのだった。


「私も準備をするので、鍛冶場へどうぞ」


 冬華に促され、響と陽那は鍛冶場に入る。そこには白い作務衣に身を包んだ夏が居た。


「来たか。ほれ、愛刀を出しな。俺と冬華が責任を持って打ち直す」

「ああ、頼んだ」


 響は腰から愛刀を差し出す。折れた刀身と合わせて加具土命丸は託された。


「それでは始めましょうか」


 冬華も白い作務衣に着替える。それこそ、正式に依頼を受けて咒装を打つ為の礼装だ。これより儀式『咒装鍛治』が始まる。


 先ずは夏が刀を分解し、抜き身の刃を取り出す。そして刀身と共に一度溶かす。刀の素材である玉鋼という素材に戻すのだ。


 響と陽那、そして出番がまだの冬華が離れた所で見守る。響はふと浮かんだ疑問を冬華に問う。


「あの、刀としての形無くなったけど、術式とか陽力生み出したりって大丈夫なのか?」

「ダメですね」

「ダメなの……!?」


 サラッと言う冬華に響と陽那は驚く。冬華はそれに笑いながら答える。


「そのままでしたらね。あの状態ではやがて忘れ去られるように消えてしまいます。だから私達咒装鍛治が作業と共に念を込めて呼び覚ましていくのです」

「なるほど……」


 冬華の説明に納得し、夏が黙々と作業を続ける様子を見守るのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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