第157話 大蛇騒乱終息
夏は五輪剣を折るかどうかの決断を迫られる。思い悩んだ夏は答えを出した。
「やってくれ、必要だろ」
夏は肩越しに見える響の目を真っ直ぐを見つめそう述べた。父の作品でこれ以上人を傷つけないようにする為にも、響が勝って生き残る為にも……夏は強く決断した。
夏の真っ直ぐな目から響もそれを感じ取る。
「分かった。なら、俺は勝つぜ」
藻助へと向き直り、響はハッキリとそう述べた。
「クックック……ハハハハハ!こいつはお笑いだ!さっき迄まるで歯が立たなかったのに、五輪剣を折るぅ!?舐めてんじゃねぇぞコラ!」
よっぽどおかしいのか、藻助は今日1番の嘲笑を発する。それに響は問いかけた。
「そういやさっき言ってたっけ?剣士同士の勝負は刀の強さで決まるって」
「おうさ。この刀がありゃ勝ちまくりよ」
「だったら教えてやるよ。剣士の勝負は刀だけじゃ決まらないってな」
そう言って不敵に笑い響は刀を構える。それが気に食わない藻助は怒りを露わにする。
「できるもんならやってみろよォ!」
五輪剣から業火が生み出された。5つ目の強力なそれはまともに当たれば無事では済まない。響はそれに構わず走り出す。そして体を地面に水平にするようにして頭から飛び込んだ。
僅かにできる炎の隙間を狙ったのだ。
「馬鹿が!」
藻助はすかさず刃を返し振り下ろす。響が刀を振るうよりも早い……そう誰もが思った。しかし響が使うのは天刃流。
(天刃流……奥義!)
天刃流は地上空中問わず剣を振るう事を目指した流派だ。そして奥義もまた、最大最速の刃を最適に放つ必勝の剣。
響は地面に左手を着き、肘を曲げて倒れる衝撃を吸収。そして体を捻り、その勢いを利用して右手に握る刃を下から抉るように振るった。
「『空』!」
天を衝かんばかりの斬撃は振り下ろされた五輪剣ごと藻助の体を斬り裂いたのだった。
奥義『空』。それには極度の集中が必要だった。故に少々時間を要するが、これはあくまで一から発動する場合だ。
響は大蛇との連戦により集中が続いていた。後はそれに指向性を与えればいい。目の前の男を斬る。それに心技体を向け、次元を斬り裂く刃は見事標的を斬り裂いたのだった。
「ガハッ……!ば、馬鹿な!最強の、刀が……!」
膝を着きその身を伏せる藻助。響は立ち上がりそれを見下ろす。
「剣士同士の勝負を決めるのは持ってる刀の強さだけじゃねぇ……担い手の強さを合わせて初めて決まるんだ」
刀とそれを使う者の剣技。それが合わさったからこそ響は勝利したのだ。
「クソ、が……!」
藻助はそれを認める事は無く、己の現実から目を背けながら息を引き取るのだった。
五輪剣が折れた時点で結界は解けていた。陽那と夏が響に駆け寄る。
「響くん、やったね。里のみんなを守ったんだ」
「ああ……夏もありがとう。この刀のお陰で勝てた」
「いや、俺の方こそ礼を言う。響、陽那。里を守ってくれて、父さんの仇を取ってくれて……本当にありがとう」
「いいって事よ」
「そうそう!陰陽師だからね!」
夏は頭を下げる。初めに素っ気ない態度を取ったとは思えない程に、3人は打ち解けるのだった。
響と陽那は治療を済ませ、応援に来た陰陽師と聴取を済ませた。既に里の安全は保証されており、里の人々は戻って来ていた。響と陽那を見つけた里長が駆け寄ってきた。
「此度の事……なんとお礼を言ったらいいか……」
「いいんスよ。陰陽師としての仕事を果たしただけですから」
「うん!寧ろあたしらがいる時で良かった!」
「そうじゃな……そうでなければ、ここまで被害を抑えられ無かっただろう」
里長は各々の家を目指す人々を眺めて呟く。だが響は少し苦々しげな表情だ。
「どうしたのじゃ?」
「人は守れたけど、里は半壊しましたから。守りきれなかった物はありました」
人を守れたとしても、住む場所を失った。道や畑、牛舎やその中の牛も……。その後の生活で苦労する事は目に見えて分かった。だからそれを悔やんでいるのだ。
「そうだろうな。しかし、大丈夫じゃ」
里長はそう言って指を刺す。響は顔を上げてその先を視界に入れた。瓦礫で潰れた家の前に、同じように被害にあった者たちが集まっていた。
「家は壊れたけど家族は無事!なら大丈夫!また家を立てよう!」
「ああ!またやり直しだ。畑耕して、前を超える美味い野菜を作ってやる!」
声を張り上げる被害者達に、家などが無事だった人達も合流した。
「家無い奴は面倒見るぜ。宿やってるから部屋だけはあるし」
「牛もこっちのは生きてる!繁殖させたら引き取ってくれよ!」
「ああ、みんなでまたやり直すぞー!」
「「おおー!」」
力強い声が里に響く。響や陽那や夏が諦めず立ち向かったように、里の人々も立ち向かうのだ。
「強いな……」
「うむ、強いんじゃよ。皆で協力すればこの程度屁でもないわ」
「あたしらも見習わないとね!」
陽那の言葉に響は頷く。そして2人は里の復興の手伝いをするのだった。
日が沈み、一旦復興作業は中断となった。流石にこればかりは一朝一夕では行かないだろう。作業を切り上げた響と陽那の元に里長が訪れた。
「2人ともお疲れ様じゃ。2人には旅館の温泉を貸切にしておる。入るといい」
「ええ〜!いいんですか!?」
「それは助かります……!」
間に休憩したとは言え、戦闘や復興作業を行って既に2人はヘトヘトだ。里長のご厚意に預かる事にした。
響はその身を洗い、露天風呂に浸かる。
「ふぅ……生き返る……」
頭にタオルを乗せ、熱い湯に包まれて響は癒される。それに清涼な風が吹いて心地よい。外に目を向けると雄大な山々が見えて景色もいい。目を閉じると何か動物か虫の独特な鳴き声もよく聞こえる。それが余計自然の中に居る事を感じさせる。
ここは五感全てで癒しを与える場所なのだ。そこに明るい声が響いた。
「うっわぁ〜!景色綺麗!露天風呂はこうでなくちゃねぇ!」
声の主は陽那だ。
(仕切りあっても聞こえるとかテンション高ぇな……気持ちは分かるけどな)
竹の仕切りを貫通して聞こえるその声に響は微笑む。陽那も結界の主と戦闘したと聞いていたので、存分に癒されて欲しいと思っていた。
引き続き湯を楽しむ響。すると、陽那の素っ頓狂な声が響いた。
「んにゃあっ!?」
(いやあんた狐だろ)
内心でツッコむ響。自然と目を開く。まあそれで仕切りの向こう側を覗けるとも覗こうとも思っていないのだが。次の瞬間、響の目が大きく見開かれる。
「は?」
「あっ……えと、な……なんで、居るのぉ?」
そこには居る筈の無い陽那が居た。髪を下ろし金髪を肩から垂らしている。何より……お腹付近に当てた左手にかけたタオル以外、一糸纏わぬ姿。
空に比べたらやや小ぶりの胸。髪と同じ金色の尻尾の生える、形の良い安産型の臀部。そこから伸びるムチっとした太腿。腹部から下はタオルで隠れているが、鼠径部が伺える。
それに響は顔を紅潮させる。それは陽那も同じだった。耳も尻尾もピンと伸びている。陽那は背を向けその場でしゃがみこむ。それが余計形の良い尻を強調するのだが……幸いにも響も背を向けた事で見る事は無かった。
「ご、ごめん!」
「いや!こ、こっちもすまん!」
(なんで陽那が!?ここ男湯じゃ……!てかどうする!?出るか?でも脱衣所は陽那の方じゃん!)
焦る頭で思考する響。だが直ぐに最適解は出ない。そんな中、陽那は立ち上がり、ゆっくりと湯に足を入れる。響が居るにも関わらず。
その音に何事かと響は視線を向けるがまた直ぐにそっぽを向く。陽那の行動の目的は一体……?
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