第156話 大蛇討伐後
響が地面の降り立つ頃には大蛇の巨体は半分が塵と化していた。響の真体への変身もまた解けていく。いつもの響に戻った時、山を覆う程の妖は破壊の跡だけを残して消え去ったのだった。
「なんとか、なったか……」
響は息を吐きながら実感する。888年前に現れ、多くの被害を出しながらも封印された伝承の妖。封印が解かれ、現代へと現れたそれをなんとか撃破したのだ。
それは麓の村まで避難していた里の人達にも見えた。
「おおっ! 大蛇が……大蛇が消えていく!」
「陰陽師がやってくれたんだっ!」
人々は歓声を上げて盛り上がる。涙を流す者、安心して息を吐くものと様々だ。そんな中、陽那は先行して応援に来た少数の陰陽師と共にその様子を見守った。
(響くん……やったんだね)
「すみません、里の人達よろしくお願いします!」
「お任せを」
里の人達の護衛を引き継ぎ、陽那は響の身を案じて里に足を向ける。そこに陽那の行動を察した夏が駆け寄る。
「俺も行く」
「夏くん……冬華ちゃんは?」
「あいつは他の奴らに任せた」
「ここに居た方が安全だもんね。じゃああたしらは行こう」
陽那は夏の提案に頷いた。式神の獅子を出し、その背に跨って2人は里へ戻るのだった。
数十分後、響は山から里へと降りてきていた。
昨日見た里の美しい景色はそこに無かった。大蛇が暴れた事で降り注いだ瓦礫や木々に家は押し潰され、道もボコボコに変形している。
半分程は土砂や埃を被ったりしただけだったが、半壊した里に響は胸を痛めていた。
(死体は無い……里の人は避難したか。陽那達にも感謝しねぇとな)
それでも、守れたものはあると響は顔を上げる。その時、背後より殺気を感じ取った。その場を飛び退く。するとそこに石の礫が着弾した。
「これは五輪剣の……!」
「不意打ちだったんだがな」
睨む響の目には淡い虹色の刀身を持つ咒装『五輪剣』。そしてそれを奪った男……藻助がいた。
「てっきり蛇に踏み潰されてるもんだと思ってたよ」
「ハッ。この藻助様が簡単にくたばるかよ。それよりまさかあのバケモンを殺すとは思わなかったぜ」
互いに煽るように言葉と視線をぶつける。
「だがバケモン相手して無事な訳ねぇ。今のお前なら余裕だぜ!」
藻助は五輪剣を振るう。水流が放たれ響を襲った。
「チッ!」
響は転がるように回避する。そこに続けて風、火が迫る。擦る程度だが響はダメージを受ける。
(体が鈍い!)
真体へと変身した反動だ。大蛇とやり合った傷もある。そんな中、第弐位の力を持つ五輪剣による襲撃。響が不利なのは明らかだった。
「『焔弾』!」
刀印を作り、そこから炎の弾丸を放つ。藻助はそれを躱し、5つ目の術を放った。強力になる5つ目……空を。
響は縮地を連発し真空の領域から何とか逃れた。
「チッ! だがいつまでそうできるかなぁ!」
五輪剣による広範囲高威力の連続攻撃。響はその中を掻い潜って格闘を仕掛けるが、五輪剣そのものの強度によって防がれる。
(これを攻略するには刀による術がいる……けど加具土命丸は折れてこの場に無いし、天鶏も今日はもう破壊されてる……!)
このままでは危ないのは事実。思考する響の元に幾度目かの石の散弾が放たれる。それをなんとか回避する。すると、そこに声が響いた。
「響くん!」
「陽那! ……っと夏!」
獅子に乗った陽那だ。そしてその後ろには夏が乗っている。
(救援! 陽那と2人なら……)
「邪魔すんじゃねぇ!」
響の考えを読んだ藻助は刃を振るう。現れた水流は響と藻助を覆っていく。
(檻!? まずい!)
陽那は獅子に速度を上げさせるが、もうトップスピードだ。
「間に合わない……!」
もう人が入れるような隙間は無かった。しかし、夏はまだ諦めない。
「はあっ!」
夏はその手に持った刀を投げた。それは水の檻が閉じ切るギリギリに通過し、響の足元に突き刺さった。そこで水の檻は完成した。陽那は檻を攻撃するが弾かれる。破壊には時間が必要だった。
だが、届いた。
「響! そいつを使いな!」
「夏……ありがとう」
響は感謝を述べながら刀を引き抜いた。それは陽力を生み出し刀身に纏った。
「ハハハ! 何かと思えばガキの刀か! こいつはウケるぜぇ! そんなもん五輪剣に比べりゃなまくら同然よ!」
藻助はバカにするように高笑いを上げる。だがそれを聞いても響は動じない。
「焔旋刃!」
その場で刀を振り抜く。炎の刃が伸び、藻助へと襲いかかった。藻助は驚嘆しながら五輪剣でそれを防いだ。
「おっと危ねぇ。だが甘いな!」
反撃とばかりに五輪剣を振るう。5つ目の術……火は業火となって響に襲いかかった。
「焔大太刀!」
巨大な炎の刃で対抗する。2つの炎は相殺された。
(あっちが発動早い分タメが足りねぇ……! しかもこの檻の狭さ……)
響は苦心する。追撃を避けて接近し、焔纏で炎を纏った刀身で斬りかかる。それを藻助も刀をぶつけていなす。五輪剣は強度も申し分ないので押し切るのも難しい。
後退した響にまた風、真空の領域、石の礫、水流が襲いかかる。なんとか致命傷は避けるも確実に追い込まれていた。
「ハハハハハ! やっぱり大した事ねぇ! 知ってるか? 剣士同士の勝負は刀で決まるんだぜ? つまりお前は俺に負けるんだ! ギャハハハ!」
勝ち誇ったように言う藻助。 それに響は何も言わない。
(五輪剣は刀そのものも強い……懐に飛び込んでもまた防がれるだろうな。ならどうするか……)
だがその闘志は消えていない。勝つ為の思考。どんな状況でもそれを止めない。そして1つの答えを出す。
「夏」
「なんだ響?」
外にいる夏に声をかけた。陽那は檻を壊そうと攻撃を繰り返しながらそれを聞く。
「五輪剣に勝つ方法が1つある」
「本当か!?」
「なに?」
響の言葉に喜ぶ夏。反対に藻助は眉を潜ませる。響は続けるが、次に出た言葉は驚くべきものだった。
「だけど、五輪剣を折る事になる」
「っ!」
夏だけでなく、陽那も藻助も目を見開く。あれだけ拳や蹴りを受けても、刀と打ち合ってもビクともしない五輪剣。それを折ると言ってるのだから当然だ。
「おいおい冗談だろ? まさかホントに折れると思ってるのかよ!?」
「夏。答えはどうなんだ?」
「そ、それは……」
響は藻助を無視して話を続ける。夏は思い悩む。五輪剣は父である七平 村正の傑作にして遺作。それを折るという事は永劫の別れである可能性が高い。
今現在、全国を含めても村正までの腕を持つ者は居ない。もちろん夏や冬華も同様であり、打ち直しは絶望的だ。
その決断を響は迫っているのだ。夏の答えは……。
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