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第155話 人VS蛇

 大蛇の頭が地面に叩きつけられた事で、周囲に轟音が響く。木々は押し潰され、地面が割れて破片と土煙が舞う。殴られた大蛇の頭は鱗が砕け、その下の肉も穿たれて鮮血が見える。


「ギュシャアアアアッ!」


 だがそれで倒されるようでは、長きに渡り伝承が残る妖にはならない。そして封印を施さねばならぬ訳が無い。大蛇は首をもたげ上空を見る。その目に怒りを映し、重力に引かれて落ちてくる響に咆哮を発する。


(まだ倒れねぇか……なら)


「倒れるまでぶん殴る」


 響は頭を下に、足を上にして天と地を逆にする。そして天を蹴り、地にいる大蛇に向かって飛び出した。重力に引かれる速度から急加速した事に蛇は驚嘆する。遅れて口を開き、迫り来る響を喰らおうと首を伸ばした。


 しかし、響は右手で虚空を叩き直角に曲がった。蛇の大口は空気を喰らうばかり。響は今度は左手で虚空を叩き、大蛇に迫る。その勢いを乗せた蹴りが炸裂した。


「グギャアッ!」


 大蛇は怯むが、負けじとまた襲いかかる。しかしまたヒラリと躱される。


 真体となった響は空気の流れ、密度、温度など多岐に渡り知覚している。そしてその面を空気が固まる程の速度で叩き、空中での急激な方向転換を可能とした。


 それは縮地よりもタメが少なく初速も速い。それに蛇は翻弄されている。


 響はすれ違いざまに鱗を掴み、引き剥がす。そしてそれを回転をかけて投げ飛ばした。それは蛇の瞼を切り裂く。眼球には届かなかったが、血が吹き出してその瞳を赤く濡らした。


 それらの痛みに蛇は悶える。響は血に濡れた左眼側に移動し死角をつく。


「はあああっ!」


 1秒5発の拳を幾度と放つ。拳打を受けた蛇はひっくり返ってしまった。そこに響は追撃するがすぐさま体を回転させて拳を弾いた。


「チッ!」


 響は一時後退した。その時、右側から殺気を感じた。すかさず空を蹴り跳躍して回避する。さっき迄響が居た場所には剣と化した尻尾が通った。


 その間に大蛇は頭を上げた。そして口から何か粘性のある液体を吐き出す。それも響はヒラリと躱す。地面へと落ちたその液体は地面や木々を溶かしハゲ山のようにしてしまった。


(毒……!それも大量に……攻撃が多彩なのも流石怪物だな)


 響はそう考えながらも蛇の猛攻を潜り抜けその懐に入る。蛇は体で推し潰そうとするが、すぐさま移動した響には当たらない。再び拳が炸裂して蛇は怯んだ。


(チャンス……!)


 鱗や皮下の筋肉という装甲に綻びが生じた傷口を攻める。しかし大蛇の背から何かがせり出した。6つの大きな角のような器官。


(あれはやばい……!)


 響は直感が警告を発した瞬間その場から離れる。角が発光し、バチバチと音を立てながら雷を生み出していく。それは段々大きくなり、一気に放射状に放たれた。


「ぐぅっ!」


 範囲は広く、後退した響にも届く程。痛みに苦心しながらも空を蹴って範囲から出た。『真体』であったとしてもダメージを与える雷。それはかつて、神罰と恐れられたもの。


 888年前は陰陽師が多くいた咒装鍛治。その精鋭を含めた討伐部隊の殆どがそれによって壊滅させられたのだ。


 再び大蛇の背の角が発光する。そして角から雷が放たれた。放射状ではなく、指向性を持って、誘導性を持って響へと襲いかかる。


「マジかよ!」


 響はデタラメな軌道で動き、追ってくる雷撃を避けていく。地面が抉れ、木々は炭と化し消える。その仲間にしてやろうと雷がうねうねと蛇のように襲いかかる。


 何とか5つは躱す。しかし6つ目が迫っていた。


(これは躱せねぇ!)


「ならよぉ!」


 響は振り返って右足を振り上げ、地面を大きく踏みしめる。震脚……と言うよりも大雑把な力に任せた一撃。それはテコの原理によって岩盤を盛り上げる。膨大な質量のそれで雷を受ける。だが、それはボロボロと削れていく。


(流石に防ぎ切れねぇか!)


 響は岩盤が受け止めている間にその場を退避した。間を置かず雷は岩盤を貫き、先程まで響のいた場所を焼き払った。


 雷は五行で言う木。それは土を討ち滅ぼす相剋であるので、岩盤に幾ら質量があっても時間稼ぎにしかならない。


(もう少し保ってくれたら……そうだ!)


 響は何かを思いつき、その場を移動した。蛇は雷の範囲に入れようとそれを追いかける。そして、射程に入った瞬間角を発光させ、6つの雷の蛇を放った。


 響はそれをまたジグザグに動いて回避していく。そしてやはり6つ目は間に合わない。響は地面を踏み締め岩盤の壁を作った。それはまた雷を防ぐ。


 それも先程の例に漏れず崩れていく。だがその速度は先程より遅かった。響は余裕を持って6つ目の雷をいなした。


(やっぱりな……!)


 響は狙いが当たった事に口角を上げる。その秘密はその岩盤の性質にあった。


 響が訪れたここは採掘場。特に良質な金属が埋まっている咒装鍛治御用達の場所だった。五行で言えば金の元素が多い。だからそう簡単には壊れなかったのだ。


「もういっちょいくぜ!」


 三度岩盤の盾を作り出す響。今度はそれを大蛇へ投げるように押し出した。そして響もそれを追うように跳躍する。既に雷を貯めていた大蛇は岩盤が届くよりも前に解き放った。だが、6つの雷の内5つはあらぬ方向に飛んで行った。


 大蛇の雷は追尾する。だがそれには条件があり、視認した目標を追尾するようになっている。故に、途中で岩盤に隠れた響を追尾できなかった。6つ目の雷は金属を多く含む岩盤に激突して響まで届かない。


 岩盤が崩れた時には雷は止んでいた。響は流れるように蛇の背の角を3つ砕く。そしてそれらを投げ飛ばし、もう3つある角を破壊したのだった。


「グギャアアアアッ!」


 大蛇は痛みに大きな悲鳴を上げる。暴れるその身を躱しつつ響は蛇の目の前に迫った。そのまま拳は振り抜かれ、蛇の鼻先を殴り飛ばしたのだった。渾身の一撃だ。


「ギュゥゥッ!シュアアアッ!」


 だがまだ倒れない。尻尾を動かし、その先の巨大な剣を振るう。


「こんのっ!」


 響は空を蹴りつつ体を水平に倒し、剣をギリギリで避けた。そしてすぐさま体勢を整え、尻尾の先端へと迫った。


(真体の時間はあと1分!殴り倒せるかは賭けだが、ソレ(・・)なら確実に倒せる!)


 響は加速する。その勢いを乗せて剣の根元……尾の部分に迫り背を向けた。


「『鉄山靠(てつざんこう)』!」


 背中から激突させる体当たり鉄山靠で尻尾を弾き飛ばした。その刃は大蛇の首に迫る。数々の猛者を下した妖ら、自らの刃によって首を断たれたのだった。

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