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第151話 夏と冬華

 七平村正に致命傷を負わせ、咒装(じゅそう)五輪剣を奪った藻助の策略により大蛇の封印が解けてしまった。藻助はそのどさくさに紛れ逃げてしまい、響は陽那と夏と合流するのだった。


「陽那!夏!無事で良かった……」

「響くんもね。それよりあの蛇だよ〜」

「今は山にとぐろを巻いてるな。寝ぼけてるってぇのか?」


 視線を向けると、遠くの山に紫で長大な体を巻き付けている様子が見えた。何をするでもなく、ただボンヤリと虚空を見ていた。


「夏、何か分かるか?」

「何かか……確か伝承では人のいる所に向かって襲いかかったらしいが……」

「もしかしたらさ〜?感覚器官が鈍ってるのかも?」

「確かに……888年も弱ったまま封印されてたんだろ?3ヶ月で復活出来たとして、それが万全な方がありえねぇと思うぜ」


 響の推測に納得する陽那と夏。次にどうするかを決める。


「里の人も事態には気がついてるだろうから連絡して詳細を伝えよう」

「なら俺に任せな。里長にも他所もんのアンタらよりかは顔が効く」

「分かった。避難するようにもな」


 夏はスマホを取り出し里長に事情を話し、避難を呼びかけて貰うのだった。


「冬華ちゃんは大丈夫かな?」

「ちょうど次に連絡する所だった。待ってな」


 続いて夏は家に居る冬華にかける。1コールで出た。


「冬華、大丈夫か?」

「夏……う、うん。地震ビックリした。家の物や鍛冶場の物が落ちたぐらいで怪我はしてないよ」

「そうか、なら今すぐ避難しろ」

「うん……あの、地震が来る時、すっごく嫌な感じがしたけど……何か知ってる?」


 冬華は今の地震が自然のものでは無いと感じ取っていたようだ。夏は冬華に大蛇の事や父が死ぬ原因となり、五輪剣を奪った本人である事を伝える。


「そっか……夏、怪我してない?」

「大丈夫だ。五輪剣に手も足も出なかったけど、陰陽師の2人に助けられた」

「良かった……これからどうするの?」

「まずお前は里のみんなと一緒に逃げろ。俺も後から向かう」


 冬華の身を案じて夏は言葉をかける。だが返ってきた言葉は思いもよらない言葉だった。


「それは、嫌……!」

「冬華……?」


 その言葉に夏は戸惑う。そして声を張り上げる。


「馬鹿言え!家は里から離れてるっつっても、バカでかい蛇にしちゃ誤差だ!だから逃げろって言ってんだ!」

「やだ!絶対やだ!」

「っ!」


 声を張り上げる冬華に夏は更に戸惑う。それはスピーカーで声が聞こえた響と陽那も同じだった。


「だって、ここは父さんと母さんと……夏と過ごした場所なんだもん。ここを離れるなんて絶対やだ!夏が帰ってくる場所が無くなっちゃう!」


 冬華は幼子のような駄々をこねる。しかし、その言葉には家族との思い出や大切にしていた鍛冶場を想う心が宿っていた。そして唯一残った家族である夏への想いも……。


(冬華がここまで意地になるのなんて初めてだ……でも!)


「家なんていいだろ!」

「なんでそんな事言うの?大事な場所じゃないの!?」


 互いの声がスマホを通じて怒号のように響く。


「そうだけど……!ああもう!お前が大切なんだよ!」

「えっ……?」


 だが、夏の言葉に怒号の応酬は止まった。


「家も、鍛冶場も……家族で過ごした場所だ。大切だ。だけど……妹のお前が大切だから……」


 家族を大切に想っているのは夏も同じだった。


「俺はもう、家族を亡くしたくない」

「夏……うん、私も。我儘言ってごめんなさい」


 2人の想いはやっと通じ合った。悲しみが2人の関係を変えようとも、根っこは変わらない。こうして本音をぶつければ通じ合えるのだ。


 響と陽那はこれこそ本来の2人なんだろうと感じる。こうして冬華は里の人と共に避難すると約束し、静かに通話を切るのだった。


「で、俺らはどうするかだ。夏も冬華と合流させるとして……その後2人だけで大蛇の相手は難しいと思う」

「そうだね。総監部に連絡を……えっ?」


 総監部に現状を伝えようとしていた陽那は画面を見て固まる。響と夏は疑問を浮かべて画面を覗くと、陽力モードで起動する旨が書かれていた。つまり、何かしらによって妨害を受けたのだ。


「っ!」


 響は空を見る。パッと見何も無いように見えるが、目を凝らすと薄らと結界が見えた。里と周囲の山々を覆うほど巨大なモノだ。


「結界……!ありゃ元となった力は陰力じゃねぇ……」

「それだったら響くんが気づいてるもんね。なら人間か……」

「父さんの剣を奪ったアイツがこんなこと出来るタマじゃねぇだろうさ。なら他の人間……最初の勾玉の依頼者か?」

「確かに。最初に作った勾玉で大蛇の封印を解いたなら、そいつが藻助とか言うのに渡した可能性は高いな」


 最初の依頼は村正が懇意にしていた人間だ。そして村正は2回目の怪しい者の依頼は断り、探りを入れたら先で剣を失い重症を負って帰ってきた。


「なら最初の依頼で懇意にしてた人間が結界の主。そして2回目が藻助って奴か……クソが!」

「逃げる時あいつは総大将がうんたらって言ってた。思ったより多くの奴らが関わってるのかもな」


 響と夏が情報から考察する。そこに陽那の嘆く声が届く。


「連絡出来ないなら応援も来れない!どうしよぉ〜!」

「やるしかねぇか……」

「まさかあの大蛇と戦うってぇのか?それこそ無理だろ」


 3人は変わる状況に思考を働かせる。やがて響は口を開いた。


「俺が大蛇相手に時間稼ぎする。全力なら少しは耐えられる筈だ」

「そんな事できるのか?」

「多分。その間に陽那は結界を壊してくれ」

「こんな広い中術者を探すのは難しいしね。まあそもそも外に居たらお手上げだし」

「俺はどうすれば……」

「陽那と一緒に行って里の人と合流、結界が壊れたら直ぐに出られるようにしといてくれ」

「……分かった」


 3人は方針を決め、行動に移す。いつまでも大蛇が待っていてくれる筈も無いから当然だ。


 山を降りて行き、里からやや離れた所で人だかりを見つけた。里の人達が大蛇の反対側に逃げようとしているのだ。その中には冬華の姿もある。いち早く見つけた夏が指差し、陽那と共に合流した。


「冬華!」

「夏!」


 一目散に駆け寄り、兄妹2人は身を寄せ合う。


「夏……困らせてごめんなさい」

「んな事ぁもういい。早く逃げるぞ」

「うん。あれ?もう1人……響さんは?」

「アイツは大蛇の足止めに行った。算段はあるらしい」

「だ、大丈夫なの……?」

「分かんねぇ……だから俺らは俺らのできる事をするんだ」

「……うん、そうだね」


 兄妹2人は最初の気まずい空気を払拭していた。陽那はその様子に微笑み、2人を守れるように自身に気合いを入れた。


「里長!これから私は結界を壊しに行きます。一部でも穴を開けられたらそこからみんなを脱出させられますから」

「おお!そうか、それはありがたい……!」

「お、俺たち助かるのか?」

「陰陽師だ!陰陽師が助けてくれる!」


 里長に続き、他の人も陽那の言葉に希望を見出す。プレッシャーはあったが、陽那はそれに負けじと決意を口にする。


「任せてください!あたしが先に行くので、少し離れた所から着いてきてください!周りは式神で守ります!」


 陽那は懸命に人々を先導し結界の壁へと進むのだった。



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