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第149話 五輪剣

 大蛇の封じられた禁足地。響達は七平村正の作った咒装(じゅそう)『五輪剣』を手にした刺青の男と出会った。夏はそれに敵意を込めた視線を向ける。刀を握る手にも力が入る。


「村正のガキか……いいねぇ。親が作った刀で息子を斬る……(そそ)るぜぇ」


 男はニタニタと笑い、刀を手首で回転させて遊ばせる。その様子に夏は更に怒りを募らせる。


「いつまでも……汚ぇ手で握ってんじゃねぇ!」


 夏は陽力で全身を強化し、男に向かって強く踏み込む。


「ハッ」


 男は嘲笑し、その手の五輪剣を振るった。すると刃から猛火が生まれ、夏へと襲いかかった。夏は突っ込む足を止め、転がるようにそれを避けた。


「いいねぇ。それぐらいしてくれねぇと……斬り甲斐がねぇからなぁ!」


 男がまた刃を振るう。すると暴風が巻き起こる。それに夏は空中に浮かされた。


「そぉら!」


 三度刃を振るう男。すると夏の体に異変が走る。


(息が……!?)


 まるで見えない水中にいるかのように呼吸が出来なくなる。夏はバランスを崩しながら落下する。


 その隙を見逃す程男は優しくない。寧ろ嬉々として刃を振るう。すると、今までで一番の規模の土の術が発動した。周囲の地面が浮き、巨大な岩の礫となり一斉に夏に襲いかかった。


(まずい……!)


 夏はギュッと目を瞑る。そこに岩石は全方向から迫り、押し潰してしまった。


「ハハハハハ!これが五輪剣の力ァ!やはりこの咒装はこの俺!太原(たはら)藻助(もすけ)様が持つに相応しい!」


 藻助と名乗る男は高笑いを辺りに響かせる。岩石が地に落ちた音にも負けじと笑う。やがて、一通り笑った藻助は夏の無惨な死体でも拝んでやろうと煙が晴れるのを待った。


 しかし……遺体は愚か、煙が晴れて姿を現した岩石達にも血1つ付いていなかった。


「な、なんだと!?」


 藻助は予想外の出来事に目を見開く。その時、気配を感じた方向に顔を向けた。そこには夏を米俵のように肩に乗せた響が居た。


「テメェ……!っ!?」


 藻助は響を睨んだが、何かを察して1歩下がった。すると、さっき迄いた場所に頭程の大きさの水球が着弾した。


 水球の来た方角……響達から見て右側を睨むと、陽那が手をかざしていた。彼女の術による牽制だ。


「響……!?いつの間に……」

「悪い。危なそうだったから手ぇ出しちまった。必要無かったか?」

「……いや、助かった。ありがとな」


 夏は戸惑いつつ、助けられた事に感謝を述べた。父……村正の仇、そしてその遺物である五輪剣を奪った男を目の前にして頭に血が上っていた。その事を反省する。


 響はゆっくりと夏を下ろし、藻助に向き直る。


「あれが五輪剣か」

「ああ、父さんの最高傑作だ。詳細は知らねぇが、見ての通り5つの術式を扱えるっつーわけだ。岩の前は何故か息が出来なかった」

「分かった。下がっててくれ」


 響は夏の前に出る。それに夏が声を荒らげて食い下がる。


「なっ……!俺も戦う!さっきのは冷静じゃなかっただけだ!」

「陰陽師の方が戦闘慣れしてる」

「だけど!あいつは父さんの……!」

「また頭に血が上ってるぜ?」

「っ!」


 響に指摘されて夏は口をつぐむ。ついさっき自分が言った事も実践できていない。これでは最初と同じだ。響と共に挑んでも同じ結果になるだろう。その事を夏は実感する。


「陽那、夏を頼む」

「ん、任された」


 陽那は夏に駆け寄る。それを確認して響は藻助に向き直り、更に1歩前へ出た。


「見ない格好だ。陰陽師の学生か?こんな山奥まで何しに来たか知らねぇが……ちょうどコイツをもっと試したかった所だ。簡単に死んでくれるなよ?」


 藻助は邪悪な笑みを浮かべながら五輪剣を構える。響は陽力こそ纏うが素手だ。


「素手で大丈夫か?」

「どうだろうな」


 はぐらかす響。藻助は別に刀の打ち合いがしたい訳でもなく、それはそれで好都合といった風だ。両者睨み合い……そして一斉に駆け出した。


 響は真っ直ぐ藻助に向かう。藻助は射程に入ると足を止め、刃を振るった。放出されたのは無数の石の礫だ。響はそれらを最小限の動きで躱し、藻助へと迫る。


「はあっ!」


 両手に炎を纏い拳を振り抜く。藻助はそれを躱し、刃を振るう。響はそれに触れないように身を傾け、1歩踏み出して懐に入る。藻助の腹部に膝蹴りが入った。


「ぐっ!」

「『紅拳(こうけん)』!」


 怯んだ所に、更に燃え盛る拳が放たれた。藻助は腹にそれをモロにくらい吹き飛ばされた。そのまま木々を薙ぎ倒して進む。それに響は追撃をかけようと接近する。


「っ!」


 だが響の足は止まった。膨大な陽力の気配を察したから。藻助は体勢を立て直すと共に刃から水を放出したのだ。


「チッ」


 響は跳躍し、その攻撃を躱す。そのまま空中で後方を確認する。藻助を吹き飛ばした事に加え、陽那は夏を連れて離れた事で水の奔流を受けずに済んだらしい。


 響は安心して眼下の藻助に向き直る。


(五輪剣……岩、水、火、風……後は詳細不明の術式か……攻撃範囲も速度は厄介だ。本体は纏う陽力に反して硬い。本人の術は身体強化だけ使う特定条件で強化してんのか?)


 冷静に推察し、響は仕掛ける。縮地により空中から勢いよく飛び出した。その勢いを乗せた蹴りが放たれる。


 藻助は素早く動き避ける。響は舞い上がった地面の破片を拳で砕き、藻助の視界を潰す。


「見えなくてもなぁ!」


 五輪剣を大きく振るい、扇状に炎が放たれた。響はまた空中に飛び出す。そのまま飛び越えるようにして裏を取り、拳を放つ。


「チィッ!」


 藻助は刀を盾にそれを受ける。響は連続して右横拳、左縦拳、手刀、右蹴りを放っていく。その猛攻を捌ききれず、藻助はダメージを受けていく。


「こいつぅ!」


 たまらず藻助は五輪剣を発動する。するとその場に暴風が巻き起こり、2人は距離を開ける事となる。


(自分が吹き飛ばされるのも承知で……いや、たまたまか?)


 響は体勢を立て直す。再び接近しようとするが、ニタリと笑う藻助が見えた。鋒を突き出し、響に向ける。五輪剣は陽力を妖しく纏う。


 響はその場を離れる。しかし逃れられなかった。


(っ!息が……!ここまで広いのか!)


 響は息が出来ず酸欠に陥る。そこに石の礫が迫る。響は縮地を駆使して大きく後退した。範囲外から出たのか、息が吸えるようになった。


「はあっ!はあっ!はあっ!」

「惜しいな。だがこうでなくちゃなぁ!」


 高らかに笑う藻助を前に、響は五輪剣攻略の為の思考を凝らすのだった。





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