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第148話 禁足地

響と陽那は夏の目的を聞かされた。そして父……七平村正の仇を討つだけではなかった。


「第弐位の咒装(じゅそう)……『五輪剣』」

「しかも5つの術式〜!?」


村正の持っていた強力な咒装……『五輪剣』。それが何者かの手に落ちたのだ。


(確かに……そんな咒装を悪用されたらどんな被害が出るか……)


「俺は取り返す為に、鍛治をしてる時間も惜しい」

「なるほどな。分かった。協力するよ」

「うん!陰陽師として放って置けない!」


響と陽那は改めて全面的に協力する事を伝えるのだった。こうして3人は情報共有の為一度地図を確認する。里を囲むように山が広がっており、3人は今はその南西の山に居た。


「この青い斜線は夏がもう行った場所か」

「7割ぐらい埋まってるね?」

「ああ、もうあらかた探した。警察や陰陽師の捜索隊も同じだろうな。だけど見つからなかった」

「そうか……じゃあもう周りにも居ないんじゃないか?」


響は夏の話を聞きながら浮かんだ疑問を口にする。


「いや、それは無い。『五輪剣』は持っている限り里の周囲を出れないんだ」

「そうなのか?」

「ああ。父さんは強すぎる力には安全装置をつけた。使用範囲を制限する咒装……五輪剣の(こしらえ)だ」


かつて烏間(からすま)終夜(しゅうや)来朱(くるす)緋苑(ひえん)が使った咒装……護剣霞烈(かれつ)のように、五輪剣もまた拵が咒装となっていた。


「なるほど……それは警察とかにも?」

「ああ、伝えた。だが結局見つけられなかった」

「ええ〜?じゃあ何処にいるのぉ〜?」

「それを何とかして探すんだよ」


頭を抱える陽那に夏は呆れる。そしてどうするか方針を述べる。指を刺したのは赤い丸が着いた場所。


「まだ行ってないとこはここだ」

「ここも山だが……」

「ここは禁足地になっているんだ。里の人間も近づいてはならないとキツく言われている場所だ。勿論外部の警察達もここには踏み入っていない」

「なるほど……でも禁足地って入った時点でやばいんじゃねぇのか?祟りとかそういうもんだろ?」

「いや、案外入っても大丈夫になっているんだ。間違えて子供とか入ったらマズイだろ?だから禁足地になっている理由はどうあれ、それらの影響が及ばない箇所も余裕を持って立ち入り禁止にしてるんだよ」


夏の説明に納得する響と陽那。それらの理由から、禁足地は後暗いものにとって隠れるのに打って付けの場所であるのだ。


一行はそこへ向けて足を進めるのだった。道中、響らは禁足地である由来を聞く。


「大昔、大蛇の妖が出たらしい。それも全国に同時多発的に」

「あ、それ知ってるぅ〜。八大蛇(やおろち)伝承でしょ?」


八大蛇伝承は、ちょうど888年前に起こった事象である。日ノ本の中の8つの土地に、山を八巻(はちまき)する程の大蛇が現れたという伝承だ。奇妙な事に、出現時期が8つ全て一致するとして八大蛇伝承としてまとめられている。


それぞれの土地の人間を殺戮し、酷い所では一夜にして村落が滅んだとも言われている。


「そんな怪物の現れた土地の1つがここだ」

「そうなのか。じゃあ月の霊力でも溜まってるのか?」

「半分は当たってる。八大蛇伝承の顛末は知ってるか?」

「えっと、それぞれの土地で武人、剣豪、将軍、陰陽師とかがそれぞれ討ち取ったんだろ?」

「そうだ。7つはな」

「え?7つってどういう事ぉ〜?」


陽那が首を傾げて問いかける中、響は何となく察する。


(禁足地、月の霊力が溜まってる。そして7つは討ち取った。つまり1つは……)


「まだ倒せていないのさ」


夏の言葉に陽那は驚嘆し、響は確信を得る。夏は詳細を語った。


「888年前、咒装鍛治の里にも大蛇が現れた。それは里を襲い、甚大な被害をもたらした。地形を変えてしまう程にな。それを討伐しようと咒装鍛治達は立ち上がったが、とても適わなかった」

「だから封印した……だろ?」


響の言葉に夏は頷き肯定する。


「ああ。それぞれの咒装鍛治が封印の為の咒装を作成し、それらを繋げて大蛇を封印したんだ。9つの咒装によって」

「そうなんだ……じゃあ、禁足地はそれを封印してるからって事なんだね」


陽那もここが禁足地である理由に納得する。もし封印が解ければ、またも甚大な被害をもたらすであろう。


「触らぬ神に祟りなし……だが、ルールを守らない不届き者には分かんねぇだろうな」

「そうだな。だったら早く犯人を捕まえねぇとな」

「うん。関係ない人まで巻き込むなんて事にはしたくないもん」


3人はより決意を固め、禁足地の中を捜索するのだった。


2時間後。

3人は人の踏み入ったであろう痕跡を見つけた。夏が地面にしゃがみこみ、見えやすいように木の葉を退ける。


「足跡……新しいな。上手く隠してるが」

「この先に続いてるな」

「あたしの式神を先行させよ?来て、ゆーちゃん」


陽那が白い猫の式神を生み出す。術式や内包陽力を削って隠密に特化させた。


「猫か……偵察は頼んだ」

「もち!さ、バレないようにね?いってらっしゃい」

「ニャー」


猫は小さく鳴いて足跡を追っていった。俊敏な猫とは反対に、響達は慎重に歩を進めて後を追う。


すると、猫は1つの洞窟を見つけた。人が2人ならんで通れる程の大きさの入口。微かな足跡はそこに続いていた。響達は入口から右斜めの位置から観察する。


「洞窟か……どう見る?夏」

「隠れるのは打って付けだ。このまま猫に偵察を頼みたい」

「OK」


陽那の指示の元、猫は洞窟の中に入っていった。1分後、陽那は異変を感じ取る。


「ゆーちゃんがやられた!」


陽那の声に響と夏は警戒を強める。響は陽力を纏い、夏はそれに加えて咒装である刀を抜き放つ。すると、洞窟の中から激流が吹き出した。


それは正面の木々を薙ぎ倒しながら進み、数十m進んだ所で水は地面に流れていく。


やがて、水が吹き出した洞窟の中から大柄な男が出てくるのが見えた。


右手には太陽を喰らうような月。そしてその手に淡い虹のような光沢をした刃の刀を握っていた。それを見た瞬間、夏は目を見開く。そして渦巻く激情と共に茂みから飛び出し、男の前に出た。


「な!夏!」

「ちょっと!いきなり!?」


響と陽那は思わず立ち上がる。男は3人を見て眉をひそませた。


「ガキ?おいおいここは禁足地だぜ。許可の無い奴は入っちゃいけないんだぞ?」


男は響達を悪事を働いた子供に忠告するように話す。その言葉に夏は歯を食いしばり、男を強く睨んだ。


「何が許可だ……!盗人風情が!」


声を荒らげる夏。別に男と面識がある訳では無い。


「その刀は父さんの咒装だ!盗人が持っていい代物じゃない!」

「刀……ほう、こいつの持ち主のガキか」


男の持つ淡い虹色の光沢の刃。それこそ七平村正の傑作。第弐位の咒装『五輪剣』。そしてそれを持つ男こそ……夏と冬華の父の仇であった。

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