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第147話 夏の行き先

 朝ご飯を済ませた響達。先に食べ終わった夏はそそくさと出かける準備をして玄関を出た。それを片付けをしていた冬華は慌てて見送りに来る。


「行ってくる。冬華(とうか)、何かあったら呼べよ」

「分かった。気をつけてね?夏」

「おう」


 夏はそのまま夏は道沿いに歩き、山へ進んでいくのだった。響と陽那は暫く経った後、同じように準備をして七平家を出る。邪魔になるといけないので、持ってきた刀身を中心とした手荷物は七平家に置いていく。


 今日の予定は夏の尾行だ。夏と冬華に鍛治を頼みたい響は先ずは知ることから始めるのだ。


「さて、夏くんは山に芝刈にって訳じゃないよね〜」

「そうだな。それなら斧持ってくし手ぶらで帰ってくる訳無ぇ」

「鍛治より優先する事っぽいし、きっと何か深い理由がありそうだね」

「ああ。なんにせよ、それを知らずには頼めない。んで解決出来そうなら手を貸して、刀打ち直して貰う」

「うん、そうだね!じゃあ尾行がんばろう!」


 響と陽那は小声で話しながら、距離を開けて後をつけるのだった。


 その時、夏の前に熊のような見た目の妖が現れた。


「寄生型か」


 夏は熊に寄生した妖を見るや否や、刀を抜き放つ。響達の目にはその刀身が日差しを反射して輝いた。いや、刀からも白き陽力を生み出して輝いて見えたのだ。


(やっぱ咒装……!)


 響は何時でも飛び出せる準備をしつつ、夏を見守る。そうしていると、妖がその巨躯からは考えられない速度で飛び出し夏に襲いかかった。


「はあああっ!」


 夏は臆する事なく妖の懐に潜り込み刃を奮った。それは妖の巨躯をものともせず真っ二つに斬り裂いたのだった。


「ふん」


 刀を鞘に収める夏。妖の亡骸はその間に風に吹かれる塵のように消えてしまった。


「すごいね〜。陰陽師で言えば最低でも第(きゅう)位はあるんじゃない?」

「ああ。それにあの刀……生み出す陽力の質もいい。術式は無いだろうけどそれでも良い刀だ」


 響は夏の身のこなしだけでなく咒装の質も読み取るのだった。


「あっ!行っちゃうよ!」

「やべ、追いかけねぇと。でも慎重にな」

「もち!」


 再び動き出した夏を見て2人は尾行を継続するのだった。


 数分後。

 夏は山道から逸れ、緑生い茂る道を進む。そのまま辺りを見回したり、地面をジッと見たりしている事が伺えた。


「何か探してるのか?」

「そうかも〜。茂みで音するからもう少し離れ……」


 そんな時、陽那は振り返った夏と目が合ってしまった。すぐさま隠れるが、夏はそのままこちらへ向かって歩いてくる。


「どうしよう!目合っちゃった!」

「……まあしょうがねぇ。観念するか」

「諦めないで!まだいける!」

「いやガッツリ刀抜いてるぞ?まずくね?」

「そ、それはまずい!」


 小声で話している間も夏はドンドン迫ってくる。刀を構え、陽力も滾らせている。それには響達は観念するしか無かった。茂みから立ち上がり、両手を上げて敵対の意志は無いことを伝える。


「お前ら……何やってんだ」

「いや、すまん。何処に行ってるのか気になってな」

「そうそう!別にやましい事してた訳じゃないよ!」


(尾行は十分やましい事では?)


 響は夏の問いに答えつつ陽那の言葉に内心ツッコむ。だが夏はまだ納得しなかった。


「で、何が目的だよ。気になっただけで尾行する暇人じゃねぇだろ陰陽師は」

「……そうだな。正直に話すよ」


 響は夏と冬華に刀を打ち直して欲しい旨を伝える。


「なるほど……けどなんで俺らなんだ?ぶっちゃけ俺らより咒装鍛治として腕の立つ奴はいる。俺らは半人前だからな。わざわざ儀式のルールを掻い潜ってまで頼む理由はなんだ?」

「俺は、あんたらに惚れたんだ」

「は、はぁっ!?」


 響の直球な言葉に驚く夏。


「どういう事だよ!」

「すまん、気持ちが先行して言葉足らずだった。正確に言うと、あんたら兄妹の鍛治の腕に惚れたんだ」

「なるほど……って、俺は別に鍛治姿見せてねぇぞ……?」


 夏は首を傾げた。それに響はまくし立てるように話していく。


「その刀。さっき直に振るう所を見て更に確信した。鍛治の技術は群を抜いてると思う。大業物と遜色ないぐらい」


 刀にはランクがある。最上大業物、大業物、業物、準業物、なまくらの順で良質とされる。その基準は作り込み……特に切れ味に関して重視される。


 響は空白期間があるものの、長年剣術を扱ってきた。その中で自然と刀に惹かれていた。故に剣術を使わない期間でも刀を見に行ったり、動物などを使った公開試し斬りに足を運んだりもした。


 それ故に刀を見る目には自信があった。


 勿論陽力を纏った刀や咒装では話が違うが、響は日々陰陽師として刀を扱っていく内に陽力を含めた鑑識眼も鍛えられていた。


 だがら今、夏が持つ刀の凄さも伝わっているのだ。


「その刀も陽力は生み出せる咒装ではあるみたいだし、冬華と力を合わせればもっとすげぇ咒装を打てるんじゃないか?」


(……響だったか?掌は豆の後……数年所じゃないな。そういえば、腰に差してた刀も拵はよく手入れされていたな。それに見る目も中々……)


 響の全身を観察し、そこから刀をどう扱って来たかを読み取る夏。


「……考えなくもない。だがすぐには無理だ。俺はやる事が……」

「なら俺も手伝うよ」


 食い気味に響が述べた。それには思わず夏は面食らう。


「あくまで俺らでも出来そうならだけど。それなら時間もできるだろ?」

「そうそう!だから何してるか教えて!」

「そういう事なら……分かった。教える」


 夏は響の熱意に負け、自分が何をしているのか言う気になった。夏は一度呼吸を落ち着かせる。響と陽那は次の日言葉をジッと待つ。


 やがて夏は口を開いた。


「俺は今、父さんを殺した奴を探している」

「七平村正さんの……仇を?」


 響と陽那は夏の答えに驚嘆する。たとえ被害者であったとしても、犯人の捜索は咒装鍛治の領分では無いから。


「待てよ。仇を討ちたいとか、捕まえたい気持ちは分かる。でもそれはあんたがやる事じゃ……」

「じゃあ誰がすんだよ!」


 突然声を張り上げる夏。それに2人はまたも驚愕する。


「誰がって……そりゃ警察や陰陽師だろ」

「そいつらじゃ話にならん。父さんが死んですぐに頼ったさ。だけど3ヶ月経ってもなんの成果も無ぇし、捜索は打ち切られた」


 夏は悔しそうに拳を握り締める。だがそれは仕方がない事だ。警察も陰陽師も何ヶ月も人員を割ける訳ではない。


 その間に別の所で悪人や妖に『影』の被害も出る。その事は理解しているが、感情とのせめぎ合いが夏の憤りとなっていた。


「きっとまだ何処かにいる筈なんだ。早く探し出して……取り返すんだ」

「取り返す?」


 陽那が問いかける。それの答えに響と陽那は目を見開く事になる。


「父さんが肌身離さず持っていた刀は……咒装でも第弐位に相当する咒装。5つの術式を持った『五輪剣』だ」

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