表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/163

第146話 七平夏

 日が沈んだ頃。響達は冬華のご厚意で七平家に泊まる事になった。何もしないのも悪いので、夕飯の手伝いをする。昔ながらの(かまど)で飯を炊き、囲炉裏で鍋を炊く。


 今日は氷室に保存していた猪を使った牡丹(ぼたん)鍋だ。


 そんな中、夏が家に戻ってきた。冬華は洗い物を中断し迎え入れる。


「あ、夏……おかえり」

「……ただいま。てか、なんでそいつらがいるんだよ」

「えと、この人の刀……直して欲しいみたいで……」


 夏は冬華の視線を追い、響の席の横に置かれた刀を一瞥する。


「ふぅん……響っつったか?あんたには悪いが俺ぁ忙しい。だから直せん。冬華に任せるのもやめとけ。半人前だからな」

「忙しいか……何してるんだ?」

「別に……客にゃあ関係ない。陰陽師でもな。刀は別の奴に頼みな」


 言うな否や、夏はご飯も食べずに自室に戻っていった。有無を言わさぬそれに冬華は何も言えずにその背中を見送るしか出来なかった。


「むぅ〜……妹の冬華ちゃんにあんな言い方ないんじゃないかなぁ?」

「そうだな」

「いえ。でも夏は……いつもは優しいんです。あんな風になったのも……父を亡くしてからです」


 また暗い顔で俯く冬華。


「亡くなってから怒りっぽくなって……私が着いて行こうとすると家に居ろって……喧嘩もいっぱいしちゃって……」


 悲劇が双子の兄妹である2人の関係も変えてしまった事を知り響達は心を痛める。


「すみません、ご飯食べましょうか」

「ああ、そうだな」

「うん、どうするかも食べてから考えよう?」


 とりあえず熱々のご飯と鍋を味わい、腹を満たすのだった。


「準備手伝って貰ったので、後片付けはおまかせください」

「分かった。ありがとう」


 冬華にお礼を述べ、響は陽那とこれからどうするか話し合う事にした。


「どうする〜?凄い人だったけど、亡くなっちゃったんじゃね……別の咒装鍛治に頼む?」

「それもありだけど……」


 響は陽那の提案に言い淀む。何か考えがありそうなのを陽那は察する。


「どしたの?」

「いや、冬華が鍛治をする所を見て腕は悪くないと思ったんだ」

「そうだね。目の前の鉄に一生懸命向き合ってるって感じだよね。でも鍛治の腕以外の、咒装を作る為の念をずっと込めないといけないんだよね?」

「そう言ってたな。夏とは正反対の……あっ!」


 響は話している内に何か思い浮かんだようだ。


「確か……冬華はエンジンかかるのが遅くて、夏は後半息切れするんだろ?なら2人でやったらしっかりできるんじゃねぇか」

「たしかに!後で聞いてみよう!」


 響と陽那は冬華の洗い物が終わるのを待った。やがて作業が終わり、3人は囲炉裏の火を囲って話をする。


「なるほど……。えと、基本咒装鍛治は1人でするんです。鍛冶場、鍛治、咒装。この3つを揃え、儀式とするのが咒装鍛治ですから」

「そっか……じゃあダメか」

「いえ、2人でやること事態はできると思います」

「どゆこと〜?」


 首を傾げる響と陽那に冬華は説明する。


「陰陽術は言わば(まじな)い……その中では双子は同一人物として扱われます。ならば、儀式を2人でしても1人に扱われるとは思います」

「じゃあ……!」

「ですが、夏が承諾してくれるかは……」

「ああ〜……たしかに」


 一瞬喜ぶ2人だったが、忘れていた問題にぶち当たる。何かと外出する夏。先程も断られている。


「うーん、俺は2人にこいつを打ち直して貰いたいって思ってる。何とか説得してぇが……何か知らないか?」

「すみません。私にも内緒なんです。山の方に行ってるらしいのですがそれ以上は私も……」

「そっか。ありがとう」

「いえ……お力になれず申し訳ありません。代わりと行ってはなんですが、他の咒装鍛治も里にはいますのでお取次ぎ出来ればと。今日は遅いですし、宜しければ家に泊まって行って下さい」


 響と陽那はお言葉に甘えさせて貰う事にする。その後は沸かしてもらった風呂に入り、浴衣に身を包んで床に入るのだった。


 客間は生憎1つ。2人では少し手狭だが、響と陽那は同じ部屋に泊まる事になった。流石に布団の間は空いている。灯りは消したが、2人は布団の中から顔を合わせて話していた。


「響く〜ん。明日どうする?他の咒装鍛治に頼む?」

「いや、明日は夏の後をつけようと思う」

「え?」


 返ってきた響の言葉に陽那は驚く。


「どうして?」

「冬華の鍛治する様子を見ただろ?鍛治の腕前は確かなんだ。後は咒装として念を込める事だけ。それも兄貴と補い合える弱点なんだ。なら、どうしても2人にやって欲しいって思う」

「ふむふむ」

「ま、ぶっちゃけ……惚れたんだよ。鍛治の腕前に。兄貴の持ってた刀も刃は見えなかったけど、よく手入れされてる咒装だって一目で分かった」


 出会った数分で響は夏とその手の刀をよく見ていた。そして冬華の鍛治の様子で確信に変わる。2人に任せていい、2人に愛刀の打ち直しを頼みたいと。


「そっか……なら説得する為にも、先ず何をしてるのか知らないとね」

「おう、それが言いたかった」


 響の意を汲み陽那は明日同行する事を決め、眠りにつくのだった。


 朝。

 陽光が障子越しに差し込み部屋を明るく照らす。それを受けて陽那は目覚める。


「ふぁわ〜……もう朝ぁ?朝かぁ……響くん朝だよぉ〜」


 陽那はぼんやりする頭のまま、這い這いで響の元まで進みその体を揺さぶる。陽那の居る反対を向いて寝ていた響は寝返り、天井を向く。


「ん、んあ……?眩し……っ!」


 眩しさに目を瞑るが、起きなければならぬと思いゆっくりと目を開いた。するとその目には浴衣を着崩した陽那が映る。


 サイドテールを解いた金髪を肩にかけ、殆どずり落ちてる右側の浴衣。そこから桃色レースのブラが覗く。自分の状況が分かっておらず、寝起きでトロンとした表情はどこか扇情的な雰囲気がある。


 そのギャップのある格好に響の眠気は吹き飛び、心臓がこれでもかと高鳴る。


「なっ……!?ちょっ!なんてかっこしてんだぁ!」

「……?どったのぉ……?」


 響の動揺がよく分からず陽那は小首を傾げる。そしてゆっくりと自分の体を見回した。そして言葉の意味を理解していった。


「あっ……ああ〜……そ、そういう、事ね。うん、うん……ご、ごめん……!」


 頬は紅潮し、目線はアチコチに揺れる。なんて事無いと大人ぶろうとしたが、震えた声しか出なかった。陽那はしどろもどろになりながら背を向け浴衣を着直す。


「お、おう……ちょっと、トイレ行ってくる……」


 響は空気を読んで立ち上がり、部屋を出ていくのだった。そして響が戻ってきた時にはもう陽那は着替えを済ませていた。


「さ、さっきはごめんね〜?あたし、次の日予定があると起きれるっちゃ起きれるけど、それはそれとして朝弱いんだよねぇ〜……あはは」

「いや、大丈夫……こっちもすまん」

「ううん……あっ!次は響くんが準備するよね?あたしもちょっと出てるね〜?」


 陽那は逃げるように部屋を出ていくのだった。普段イタズラっぽく接して来る陽那だが、先程の照れようとの違いに響はまた心臓が高鳴ってしまうのであった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

宜しければ是非とも評価やブクマ、感想よろしくお願いします!励みになります!

また、感想コメントでは質問も受付しています。

答えられる範囲でゆるく答えていきたいと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ