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第145話 七平村正

 響と陽那は遠路はるばる七平(ななひら)村正(むらまさ)を訪ねて咒装(じゅそう)鍛冶の里へ来ていた。


 里長に彼の家の場所を教えて貰って向かったはいいが、そこで出会った赤毛の少年七平(なつ)には怪しまでしまった。そしてその妹の白髪の少女七平冬華(とうか)には村正が亡くなったと告げられる。


「ど、どういう事だ?」

「ここは作業場なので、お話は落ち着いた所でしましょう……隣が我が家なのでそちらで……」

「あ、ああ……そうしよう」


 2人は冬華に連れられて隣の家に招かれるのだった。囲炉裏を囲み、お茶を出される響と陽那。


「どうも……それで、何があったんですか?」

「実は……」


 冬華がゆっくりと語っていく。


 七平村正……彼は陰陽総監部でも重宝されている咒装鍛冶師だ。一から咒装を造る技術も優れていたが、最近は専ら修復を請け負っていた。


 そんな中、半年前に昔馴染みのお得意さんが来て久しぶりに依頼を頼まれる。右腕には前会った時には無かった刺青のようなものを見たそうな。


 不審に思うが、聞くにそれはファッションらしい。それはそうと昔馴染みで信用はある為それを受諾したようだ。


 内容は咒装作成。月の霊力と太陽の霊力を反転させる勾玉。月の霊力が満ちて妖が集まってくる場所を浄化する事が目的らしい。


 3ヶ月ほどで勾玉を作成し、依頼者に無事納品した。


 その1ヶ月後……太陽を喰らう牙のような刺青を右腕に入れた男が依頼をしに来たそうな。纏う空気が怪しく、村正は警戒したようだ。


 依頼内容は太陽の霊力を集める勾玉。

 所有する土地に月の霊力が満ちる場所があるのでそれを取り除きたいという。


 村正は信用ならないと判断し拒否した。刺青の男は渋々帰って行ったそうな。村正はその後、前の依頼主との共通点に気がついた。


 右腕の刺青、月の霊力の取り除きたいという目的、勾玉。


「うーん?確かに依頼者2人の目的とか似てるけど、割とありふれてる話じゃない?」


 陽那が首を傾げながら呟く。実際陽那の言う通り、妖が集まりやすい土地はある。そこから妖が人里を襲う事もあるのでどうにかしたいという事も理解出来る範疇だ。


 しかし、冬華は首を振る。


「問題はそこじゃない……かもです。勾玉は、性質が近い物同士なら合わせることができる。もしも、2人の依頼者が通じていたら……」

「っ!月の霊力と太陽の霊力を反転させる勾玉と、太陽の霊力を集める勾玉が合わされば……」

「はい。恐らく月の霊力を集める勾玉になり、更に妖を招き寄せるかもしれません」


 響の想像する事を察し、肯定するように冬華は頷く。もしそれが悪用されれば、人的被害も充分考えられる。


 片割れを直々に作成した村正がその可能性に思い至るのに時間はかからなかった。怪しんだ村正は真意を確かめる為に兄妹に家を任せ、刀を手に出かけたそうだ。


 その後1ヶ月消息不明になったが、刀を失くし傷だらけで帰ってくる。しかし傷が深く、何があったか伝える間もなく亡くなってしまったそうだ。


「そんな事があったのか……」

「はい……あっ!すみません一方的に話して……えと、お2人はどうしてコチラに?」


 そういえばまだ来た理由を話していなかった思い出す響達。響は陰陽師として活動している事、己の持つ咒装『加具土命丸(かぐつちまる)』の打ち直しを依頼しに来た事を告げる。


「そうでしたか……遠路はるばる、ご足労頂きありがとうございます。しかし、前述の通り父は亡くなってしまって……依頼を受けるのは難しいですね」

「そうだよな……」

「あ、冬華ちゃん達は咒装鍛冶なの?」


 陽那がふと気になり問いかける。


「えと、どうして……」

「だってお兄さんと一緒に作業場に居たし、お父さんと同じ職業なのかなって思って」

「たしかに……まだ2人の事も聞いてなかったな。良ければ教えてほしいな」

「分かりました」


 話題は兄妹2人の事になる。


「私と兄……夏は双子の兄妹です。母は幼い頃に亡くなったので、父に育てられてきました」


 村正は鍛冶の傍ら家事と育児にも奔走し、2人はすくすく育って行った。そんな中、2人は父のようになりたいと夢を抱く。


「父はすごい人でした。鉄を刃とする通常の鍛冶の技術だけでなく、念を深く、緻密に込めてそれを咒装とする……咒装鍛冶の腕も一級品でした。これは咒装では無いんですけど、私達が3歳の頃に打った包丁です」


 布に包まれた幾つかの包丁を見せる。布を取るとそれはそれは息が漏れる程美しい刃が出てきた。


「ええ〜!2人を育てながら、こんな綺麗なのいっぱい作ったの!?」

「すげぇ……!総監部にある亥土家の蔵は見たけど、ここまでの刃物は初めてだ……!」


 陽那も響も村正の作品のクオリティに目を輝かせる。


「ありがとうございます。そんな父のようになりたくて、私達は鍛冶を教わっていました。どっちも半人前なんですけどね」


 子供としても、弟子としても時に厳しく時に優しく育てられていたのだ。


「ですが……私達が半人前のまま先立たれてしまいました」


 楽しく話していた冬華の顔はまた沈痛な面持ちになる。


「だから貴方の刀を直すのは私だけじゃ難しいです……」

「なるほど……兄貴は出かけたみたいだけど、どこ行ってんだ?」

「……分かりません」


 冬華は俯き首を横に振る。


「一応家には帰ってくるので、夏にも頼んでみます。それまではお2人はご自由にお過ごしください」

「分かった。ありがとう」

「話してくれてありがとね。冬華ちゃん」


 冬華は咒装造りの鍛錬をするそうだ。響達はそれの見学をする事にした。


 冬華は黙々と作業に勤しむ。念を込め、槌で鉄を叩き伸ばしていく。一連の工程を終え、出来たのは短刀。


「おお、すごい」

「ね!ちゃんと陽力も流れてる!」

「いえ、失敗です……」


 響達の反応とは正反対に冬華は気落ちする。響と陽那は首を傾げる。


「今、水を生み出す短刀を作ろうとしたのですが、出来たこれには術式は宿ってませんね」

「たしかに……」


 通常、術式が宿った咒装は手に取れば術式情報が頭の中に流れてくる。しかし、短刀を握ってもそれは流れてこなかった。


「咒装を作る時、普通に刀を作る工程で常に術式に関する念を込め続ける必要があります」

「そうなのか」


 咒装鍛治の一連の工程は言わば儀式。場を整え、1人が1つの咒装に向き合い、術式に関する念を込めて打っていく。


 だがそれを完遂するには長時間の集中が必要だ。尚且つ高度な鍛治技術も必要。咒装鍛治とはそれ程までに希少な存在なのだ。


「私はまだ上手く念を込められなくて……集中し出すのが遅くて、兄は逆に工程の初めはいいんですけど後半に集中が切れたり……全行程をしっかりこなせる父にはまだ追いつけません」


 それこそ夏と冬華が半人前と言われる所以だ。だから2人は咒装を作れないのだ。


 咒装鍛治の事、村正の事、夏と冬華の事……色んな事を知る響と陽那であった。果たして刀は直せるのだろうか?

ここまで読んで頂きありがとうございます!

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