第143話 検査結果
ゆづるが告げた響が驚く検査。それは……。
「精子検査だよ」
「……マジッスか?」
「うん、マジ!」
響は1周回ってスンッと無表情になり問いかける。
「その心は……?」
「体中検査するんだから当たり前でしょ? 尿とかも取ったんだし、ここまで来たら一緒! それにやましい事じゃないよ? 異常が見つかったら大変だしね」
「そ、そうですよね……はい、分かりました」
「うん、よろしい!」
純粋な検査の為と割り切る響。そのまま7畳程の個室に通される。机、椅子、ソファ、本棚やPCなどがあり、洗面台やティッシュまで完備してある。
「プライバシーは守るから安心して! じゃ、色々あるから自由に使ってね? 出したの置いといてくれたら私が取るから、終わったら声掛けてね〜」
ゆづるが退室し、響は1人になる。
色々……。
響は端末や本があった。内容はまあエッチな物だ。気恥ずかしくなるが、これも検査の為と自身を納得させる。
色々探している内に、金髪の明るそうな少女と黒髪で清楚な雰囲気の女性との3Pモノが目に止まる。その瞬間、響は見知った2人……陽那と空の姿が重なって見えてしまった。
バッカ! 何考えてんだ俺は! 別人、何の関係もない人だ……! それに2人にそういう気持ちは……! いや、空のキスは親愛的なのが間違えて口に来ただけで……!
必死に頭を振って妄想や記憶を頭から振り払う。次に浮かんできたのは最初の研究室での記憶。不可抗力であったり、痛みの記憶が多いとは言え、物理的に尻に敷かれる事となった出来事だ。
そしてその後ゆづるがノースリーブ姿で優しく接しながら検査していった記憶。
アホか! すぐ顔合わすのになんて顔したらいいんだよ!
己にツッコミを入れ、響はまたも頭を振る。暫く考えた後、結局目に止まった2人の女性達のそれを手に取るのだった。決して深い意味は無い。
数十分後。事を済ませた響は容器を置いて退出する。そして終わった事だけ伝えてソファに腰掛ける。
なんかめっちゃ疲れた……。
自室以外の場所でそういう事をした事で、いつも以上の倦怠感を感じながら検査の結果を待つのだった。
検査開始から3時間。遂に全ての結果が出た。
「それじゃ、結論から先に言うね?響くんは……」
「ゴクリ……」
改めて聞くとなると緊張して生唾を呑む響。やがてゆづるは口を開いた。
「特に問題無し! 全身くまなく健康体でーっす!」
「……はぁ、良かった……」
変に焦らすので身構えていた響は溜息を着き脱力する。
「でも! 研究者としては驚く結果にはなったよ!」
「驚く結果?」
「うん、先ずはこれ!」
1つずつ検査項目を見せられ、説明が入る。響はそれに真剣に話を聞くのだった。
結論として、響は軒並み全ての能力値が高い。ゆづる曰く、今まで検査した中で1番だという。
「特にこれ! この遺伝子配列! めっちゃ綺麗なの! これはもう人類史に残るレベル! これが自然にできたとは思えない程なんだよ!」
「そ、そうなんスか?」
力説するゆづるに響は目を丸くする。それを露知らずテンション上がったゆづるは饒舌に解説する。
「これ! 運動を司るとこなんだけど、やればなんでも伸びるんじゃないかな? 知識も普通の人よりずっとずっと詰め込める! 」
「……ちょっと実感湧かねぇッス。特に知識は。今までテストとかも授業テキトーに聞いてたらまあまあ取れてただけなんで……」
「それはそうだよ! どれだけ優れた遺伝子を持ってても、伸ばそうと努力しないと伸びないんだから!」
響は遺伝子の実態と今の能力との乖離に納得した。勉強に関しては上記の通りテキトーにやってきた。肉体に関しては、陰陽師でない時も多少は鍛えており自信はあった。
伸ばそうとした場所は伸び、伸ばさなかった所は伸びていない。単純なものだった。
「それにしても……はぁ〜♪ この遺伝子配列! もう最っ高! 惚れ惚れしちゃうぅ〜!」
資料を見ながら、まるで恋する乙女のように頬を紅潮させるゆづる。
「ねぇねぇ! もっとサンプル欲しい! どうしてこうなったか知りたいの! だから、君の遺伝子もっとちょうだい!」
「はあっ!?」
顔を近づけるゆづるに響はまたも驚愕する。
言い方ァッ! いや、そう言う意味じゃないけど、どっちにしろやばい事には変わりないけど!
そして言い回しにどことなくやらしさを感じるが、直ぐにマッドなそれだと考える響。どの道ゆづるが常軌を逸した研究欲を持つという事は伝わるのだった。
「じゃあ、検査も終わったし俺はこれで……」
「あ、待って? まだ見てもらいたいものがあるの」
検査を終えた後、響は用事は済んだと、ばかり思っていたがそうではないようだ。
ゆづるに連れられて更に別の研究棟へ向かう。
「……っ!」
ゆづるの後を追う中、響は小さなノイズのような音を聞く。ゆづるには聞こえていないようで、歩く足は止まらない。
これはまさか……。
響は何となく答えを察しつつ研究棟に入る。地下への階段を行く。風景こそ地上と変わらないが、空気は全く違った。
「ゆづるさん……『影』いますよね」
「そっか、分かるんだったね。じゃあ見てもらおうか」
真剣な声色でゆづるは研究室の扉を開いた。すると、ガラス越しに『影』が拘束されている姿が見えた。
十酉家は研究と開発担当である。『影』の研究もまた立派な仕事なのだ。
「この『影』は気配のない『影』だよ」
「捕まえたんですか……!?」
「うん。でも捕まえるより見つけるまでがネックだったね。自分らで探そうと思って探せる『影』じゃないし」
陽那と初めて会った日、響も襲われたのを嫌でも覚えていた。そしてその脅威も……。
「ほんとは響くんに協力して貰いたかったけど交流会とか四神決戦とかあったからね」
「そうですね……四神決戦の時もそちらも大変だったって聞いてます」
「そう、大変だったんだよ〜。暗翳十二将が来るなんて思わなかった!」
天陽十二家と暗翳十二将。2つの陣営の最強の戦闘集団とのぶつかり合い。当然犠牲者も多く、当主達も大怪我をしたらしい。
「まあでも響くんや悠くんが主犯を倒してくれたお陰で撤退したんだ。ありがとね」
「いえ、陰陽師として戦ったまでです」
「フフ♪ そうだね!」
お互いを労う2人。話は『影』に戻る。
「話が逸れたね。捕まえてから解剖したりしたんだ。倒したら消えちゃうから生きたままね。それでこんなものが出てきたんだよ」
「これは……護符?」
ゆづるの指差した場所に黒ずんだ護符があった。
「これは隠形の術が刻まれていてね。天陽十二家の六巳家が隠密行動や暗殺に使う術なんだ」
「それをどうして『影』が?」
「六巳家の中に裏切り者が出てね。護符を持ち出して来朱 緋苑に横流ししたらしいんだ」
「ええ!?」
淡々と述べるゆづると対照的に驚く響。
「それ、犯人はどうなったんスか?」
「六巳家の人に捕まったたよ。尋問も相当だっただろうな……なんせ六巳家は裏切り者の粛清も役割だから、身内なら尚更……」
「そうですか……」
響は話を聞いただけで恐ろしく、その光景を想像する事すら拒んだ。
「今は隠形の術使ってる『影』も分かるように索敵術を改良してるの。もう少しかかりそうだから、出来たら響くん達にも護符渡すね?」
「ありがとうございます。そうなったらかなり助かります」
これで十酉家での用事は全て終わるのだった。
「今日は色々知れて良かったです。お時間いただきありがとうございました」
「いいのいいの! 私の方こそ響くんの事知れて良かった! ありがとう!」
ゆづるや家の者に丁寧に見送られ、響は十酉家を後にするのだった。
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