第142話 ゆづるの研究所
響は連絡があり、十酉家を訪れていた。内容はいつかの約束の事。初めてあった時、響を調べたいと言っていた話だ。天陽十二家の当主であるゆづるが多忙であるのは想像に固い。故にここまで日が空いてしまったのだろうと響は考える。
家の者に通され、研究所まで来た。家自体は昔ながらの日ノ本の木造だったが、研究所は東京のような近代的な造りになっている。
その白い廊下を進むと、ゆづるの研究室が見えた。案内はそこまで。家のものでもアポを取らないと研究室には絶対入れないらしく、時間になるとゆづるから扉を開けるだろうと伝えられる。
響は扉の右端に立ち、時間になるのを待った。
(10分前に来たけど、家広いからもう5分経ってる……早めに来といて良かったな)
響はボンヤリとそう思う。その時、爆発音と共に扉が壊れた。
「な、なんだぁ!?」
予想外の事に驚嘆する。だが直ぐに冷静になり、煙に包まれる研究室の中の様子を確認する。
「大丈夫ですか!?」
声を掛けたと同時にまた爆発が起こり煙の中から何かが飛び出した。クッションのような弾力だがそこそこ重量があり、爆発の勢いで加速したそれを響は顔面に喰らう。陽力無しにそれを支えられる筈もなく、響は床に倒れ付した。
視界は真っ暗、鼻は折れたような痛みが走る。そして鼻と口は塞がれて呼吸が出来ない。
パニックになり響はジタバタする。すると女性の声が聞こえた。
「いった〜っ!陽力流しすぎたぁ!……ってアレ?なにこれ?」
顔を塞いでいた何かが胸までズレ落ち、響の視界が少し開ける。やっと呼吸ができ、肺いっぱいに酸素を送る。
「はあっ!はあっ!し、死ぬかと……え?」
視界に写ったのは白衣……に包まれた臀部。つまりお尻だ。白衣の背には『酉』の文字が入っており、茶髪の先が赤いポニーテールが見えた。
響を窒息死させる寸前だったそれは十酉ゆづるであったと知る。
「……夢か」
「夢じゃないよ!って鼻血出てる!ごっめ〜ん!」
混乱のあまり痛みを感じてるのに夢だと思い目を瞑る響。それにゆづるはズレた赤いアンダーリム眼鏡をかけ直しながら必死に声をかける。こんな事になるとは響もゆづるも予想だにしてなかった。
部屋の中に招かれ、治療を受けた響。今は応接室のようなスペースにあるソファに座っていた。鼻血で白衣が汚れたので、ノースリーブ姿のゆづるがビーカーにコーヒーを入れて持ってきた。
「たはは〜……その、ごめんね?まさか時間差で2回爆発するなんて思わなくてさ〜」
「い、いや……大丈夫です。俺こそなんかすみません」
響は先程までの事を気にしていない風に装い、ビーカーのコーヒーに砂糖を溶かして口に含む。甘さと苦さのハーモニーが口の中に広がる事で平静を取り戻す。
ぶっちゃけラッキーと言うより命の危機を感じていた響であった。
「何作ってたんスか?」
「義足だよ〜。陰陽師用のね」
「へぇ〜。なんか意外ですね。こう、細胞とかそういう研究してるのかと思ってました」
「それも含めてるからあながち間違いじゃないよ」
コーヒーを飲む間に休憩がてら話をする。
「天陽十二家は戦闘集団ではあるけど、平時でのそれぞれ役割があってね?私達十酉家は研究と開発を専門にしてるんだ」
「ふむふむ」
「基本はそれぞれの成果を他の家に、そして陰陽師全体から一般に……って還元してる感じ。けど分野が被る所は他の家とも連携する事があるんだよ。義足は治癒を専門とする家……四卯家と共同開発してるの」
「なるほど……その調整をしてたんスね」
最初の疑問が解けて得心する響。
「そう!それで陽力を内部まで込められるようになれば強度も上がるし、それを媒介に護符で術も使えないかって研究してたの。まあ失敗しちゃったんだけどね〜アハハ……」
自嘲気味に笑うゆづる。
「でも、立派な事だと思いますよ。一朝一夕じゃいかない事を根気よく研究して……誰かの力になれるように頑張ってるんスから」
「そう言ってくれるの、すっごく嬉しいな。君モテない?褒め上手だし絶対モテるでしょ〜?」
「いや、そんなに……?」
「うっそだ〜♪アハハ!」
楽しげに会話し、コーヒーを飲み終わった2人は本題に移る。
「さて、覚えてる?君を呼んだ理由」
「俺の事調べたいんスよね?助けてもらったんで協力出来る事ならなんでも……」
「なんでも!?してくれるの!?」
なんでもと言う言葉に食い気味に反応するゆづる。机を乗り出し響に顔を近づける。響は反射的に体を反る。
「命に関わるとか痛すぎるとか以外でお願いします」
「うん、OK!約束する!いや〜前会った時から今日まで色々あったみたいだから楽しみだったんだよね!じゃあ早速調べよう!」
こうして響の検査が始まるのだった。
響は検査着に着替え、病院と同じような設備で検査を受けていく。
(健康診断も受けれて一石二鳥だな。特に病気なった事無いけど)
響は16年生きてきた中で特に重大な疾病になった事は無かった。喧嘩などで怪我をしたりする事はあったが、その怪我も回復が早いと言われる程健康的だったりする。
それでも空や友達が流行病になったりしたので油断はしないように考えてはいた。
「はいはーい、んじゃ次は採血するよ〜」
「了解ッス」
椅子に座り腕を出した響にゆづるは慣れた手つきで血を抜いていく。様々な検査に使用するので3回分採る。
「怖がらないの偉いね〜」
「そりゃもう16ッスから」
「24の私からすれば全然子供なんだけどね〜。はい、終わり。次の検査まで15分休憩ね。体調悪くなったら言ってね?」
「分かりました」
(なんか……思ったより優しいな。最初は強いけどマッドなサイエンティストかと思った)
初対面の時は響をサンプルだと言ったり弄りたいと申していたので勘違いをしていた響。さっきも爆発させていたりしたので、今の落ち着きようにギャップを感じるのだった。
そして大型の機械で体の内部の画像を取り終わり、いよいよ最後の検査となる。
色んな検査を受け、場所を移動したり慌ただしくしていたのでやっと終わると思うと響は気が楽であった。
「で、最後はなんスか?」
「それはね〜?こういうの!」
「は……?いや!?えっ!?」
まさかの検査を言われて響は今日1番の驚愕するのだった。その検査とは一体……?
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