第139話 進化した肉体
影世界寝とある地下大空洞。そこでは2人の超人による殴り合いが繰り広げられていた。
「はああああっ!」
「おおおおおっ!」
無数の拳打、蹴り、手刀が両者の間を行き交う。それをお互い受け、躱し、いなし、反撃する。
響は幾度目かの攻撃を避けた後、小さい体を利用して阿栖羅の脇をすり抜けその背後に回る。そして二度の蹴りを放つ。
「ぐふっ!クハハハッ!」
一瞬怯んだ阿栖羅だが、すかさず地面を殴って全方位に衝撃を生む。それを受けた響は一瞬硬直した。阿栖羅は振り返り、その体躯に見合った大きな左手で響を掴み、勢い良く地面に叩きつけた。
「うぐっ!」
「潰れろ!」
そのまま手と地面で押し潰そうとするが、響は肘打ちで地面を砕き、出来た隙間から脱出した。阿栖羅は右手で捕まえようとするが、響はその手に掴まれる前に頭上へ跳躍、そのまま重力を乗せた回し蹴りを頭部へ直撃させる。
後方へ飛ばされる阿栖羅だったが、地面に手をつき勢いを殺す。そこに響は追撃のドロップキックを放ち、今度こそ吹き飛ばした。
壁に叩きつけられる阿栖羅。大空洞全体もその衝撃で僅かに揺れる。陽那達はそのは激しい戦いぶりに目を奪われていた。
「すごい……!戦いが成立してる……!」
「ああ、陰陽術はまるで効かなかったけど、これなら……!」
阿栖羅の陰陽術が効かない特異体質。そして異常なまでの膂力に歯が立たなかった。しかし改造を受けた事で陽力を捨て去り、肉体を強化した響はそれと渡り合っている。
一同は響に希望を見出すのだった。
「やるな……ここからはギアを上げていくぞ!」
阿栖羅は楽しそうに口角を上げる。そのまま地面が大きく砕ける程踏み込み、響へと急速に接近する。その勢いは砲弾の如し。
数段パワーが上がった拳が響を襲う。それを両手をX字に重ね、地面が盛り上がる程両足を踏み込み受け止める。
「ふんッ!」
そこにすかさず左足の蹴りを入れる阿栖羅。響は柱に激突する。阿栖羅は当然、追撃の為そこに接近した。
「っ!」
阿栖羅は目を開く。響は既に体勢を整えており、宙に舞った柱の破片を拳で細かく砕いた。霧状になったそれを目眩しにして響は蹴りを喰らわせる。
「ぐっ!まだだ!」
阿栖羅は怯みつつ右拳を振るうが、もうそこに響は居ない。風の流れから背後を取ったと知覚し、そちらへ裏拳を放つ。
響はその攻撃も読んでいた。身をかがめて裏拳を躱し、流れるように手を地面につき、足を天井へ向ける。そしてその勢いを乗せて放たれる蹴り技。
「卍蹴り!」
「ごはあっ!」
胸部に蹴りを受けた阿栖羅はそのまま地面を転がっていく。そして体勢を立て直し、地面に足を付けた響を睨む。
「相変わらずデケェな。顔面まで届かなかったし、攻撃範囲が広すぎんだろ」
「フッ……オレより小さい癖に渡り合う膂力……そしてその格闘センスは目を見張るな」
互いに冷静な分析をする。そうであるのだが、2人の視線や語気はどこか褒め称えるようなニュアンスを孕んでいた。2人は再びぶつかり合う。拳の応酬を繰り返した後、響は懐に潜り込む。
(取った!)
「はあっ!」
正拳突きが直撃する……が、左手で防がれた。反撃の右拳が放たれる。
(やべ!)
響は後退しようとするが間に合わない。すると……。
「っ!」
阿栖羅は目を見開く。なぜなら、響が高速で移動したからだ。それには響自身も驚いている。
(今の感覚は……!)
響は何かを感じ取った後、阿栖羅を見据え、強く踏み込む。そして先程の高速移動を見せた。
(速い!だが単純な直線軌道!)
「ぬぅんっ!」
阿栖羅はドンピシャのタイミングで拳を放つ。だがそれは右に素早く移動した躱された。
「うおおおっ!」
阿栖羅のがら空きの脇腹に拳が決まる。阿栖羅は勢い良く吹き飛ばされた。壁に激突した阿栖羅はゆっくりと立ち上がる。
「その速度……陽力か」
阿栖羅の言葉に、離れていた久遠達が驚愕する。
「え?陽力はもう使えないんじゃ?」
「うん、その筈だよ。ね?長久」
「ああ、その筈……実際肉体は強化されてるんだ。そうじゃないと釣り合わない」
陽那が代弁した皆の疑問を久遠と長久は肯定する。しかし、阿栖羅の言う通り響は陽力を扱っていた。
「なんでか知らねぇが、どうやら陽力使えるみてぇだ」
響は阿栖羅の拳を躱す際、つい癖で縮地をしようとしてしまった。不発になると響自身も思った。だが、実際に陽力を生み出され、縮地が発動した。
「ふむ……強化に失敗した訳ではないようだな。ならば考えられるのは1つ。お前の肉体は改造の術の理すら超える、正しく特別だったという事だ」
「マジ?」
腕を組みながら考察する阿栖羅に響は首を傾げる。響は自分の体がまさか特別だと思ってなかったから当然だ。
「オレだって何も生まれてすぐ術が効かなかった訳では無い」
「そうなのか?」
「ああ。初めは術が効きづらく、体を鍛える内にやがて全く通じなくなった。ならば、強化の先にそういう進化もあるのでは無いか?」
長久の方を見てそう述べる阿栖羅。長久は顎に手を当て思考する。
「……確かに有り得ないとは言えない。過去に改造を行った時……予想を超えて強くなったり、別の耐性が生えてきた事もあった」
「そうなのか……」
「フッ……オレの肉体すら超える肉体……それもまたよし」
「なーんかテキトーだなぁ……」
長久は兎も角、阿栖羅のどこかフワフワした結論に響はツッコむ。
「でも……良かった」
「うん!響くんは陰陽師を続けられるんだから!」
空と陽那が安心と喜びの声を漏らす。秋や久遠もまたそれに同意して頷く。何はともあれ、響は陽力の力を失ってはいなかった。陽力を扱えなければ成れない陰陽師も続けられるのだ。
「さて、続きと行きたいが……」
「ああ、そうだな。あんたを倒さねぇと、長久さんを取り戻せないからな」
響は臨戦態勢に入る。しかし、阿栖羅は何故か腕組みを続ける。それに響は首を傾げていると……。
「だがしかし!お前には足りないものがある!」
「た、足りないもの……?」
「それを今から伝授する!」
「伝授!?」
突然叫び、そんな事を述べる阿栖羅に響達は目を丸くするのだった。
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