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第14話 1日目を終えて

 伽羅の逃亡から数時間後。


 場所は戻り東京郊外の天陽院。

 日が傾き夜の帳が迫る午後。時刻は午後5時をとうに過ぎており、天陽院の校門を抜けて響たち4人は石畳の道を行く。


「疲れた……」

「そうだね……」


 響と空は転校初日で慣れない環境と言うこともあり、ズッシリと体を包む疲労感に足を取られている。先を行く秋と陽那はそれを気遣い、僅かに歩幅を狭めて歩いていた。


「初日にしては2人ともよくやってたよ」

「うんうん!2人はめっちゃ頑張ってたと思うよ〜?響くんとか初日で術使えたしね!」


 同級生とは言え陰陽師の世界の先輩である秋と陽那。先輩らしく後輩2人を褒め称える。


 それを受けて響達も口元を緩ませるのだった。


 暫くして、響は歩きながら思い出しつつある記憶について考える。


(神の力……か。それがこの陰陽術だとして、もっと自在に扱えるようになったら……話していたあの子にも会えるのかな?)


 記憶では顔はまだボヤけているが、高貴で可憐な雰囲気を持つ少女を思い出した響。彼女に会って色々聞きたいと思っている。


 響は陰陽術を学ぶ理由に、彼女と会う為というのを付け加えるのだった。


 そんな中、反対側からは悠が歩いてくる姿が見えた。


「あっ、悠さんじゃ〜ん!お疲れ様〜!」


 いの一番に気づいた陽那は元気よく声をかける。それにならって3人も軽く挨拶をした。


「おう、お疲れ。響と空はどうだった?初日は」

「めちゃくちゃ運動して疲れた……」

「大変でしたけど、頑張りました!」


 疲労の色を隠さない響と明るい声で答える空。その対象的な感想に悠は少し笑って満足そうに頷く。


「そうかそうか、なんかできるようになった?あったら見せて欲しいな。これでも先生なんでね」


 教え子の成長が気になるのは教師の性。たとえ自分が教えてなくとも、周りと研鑽した事は立派な学びと悠は考えているのだ。


「えと、私は陽力のコントロールが少しできるようになりました」


 そう言って陽縛符を取り出し、目を瞑って集中する空。すると空の体をほんの僅かに陽力が包み込む。触れれば穴が開いてしまうような、そんな心もとない薄さの陽力。しかしこれこそ空が己の強すぎる力を制御する為の一歩なのだ。


「ぷはぁっ……!ど、どうですか?」


 空は息をするのも忘れて集中していた。


「凄いじゃないか!陽縛符のコントロールを覚えだしてる感じだね。陽力自体の操作も同じように想像して調整するから、そのまま続けていけばいい筈だよ。がんばれ!」

「はい!ありがとうございます!」


 悠の賞賛の言葉と棒付き飴を受け取って空は嬉しそうに応えた。そして次は響の番だ。


「響は?」

「陰陽術、1個できるようになったぜ」

「ホントか〜?陰陽術身につけるのには何週間もざらにかかるぞ?んじゃ、試しにこれに撃ってみてよ」


 悠の横に足元から試験に出てきた人形を模した物が現れる。


「こいつは俺の陰陽術で作ったから前のよりかなり硬いよ。1つでも傷をつけられたら合格かな?」


 挑発するような悠の言葉に威勢よく「望む所だ!」と答え響は構える。


 的の前に来た響は右拳に左の掌を軽く添え、肩幅に開けた右足を大股に一歩後ろへ。目は真っ直ぐ目標を見据える。すると陽力が全身を纏うように湧き出る。


 そしてそれは流れるように響の拳に向かい、揺らめくと共に変質して火が灯る。


 その瞬間、拳は振り抜かれる。


 ガゴォンッ!


 鋼でできた的は拳によってひしゃげ、表面が焦げて黒く変色した。


「い、痛ってぇ……!硬すぎ!」


 響は手をプラプラと降って痛みを紛らわせる。


「おお!まさかほんとに傷をつけられるとは……でもちゃんと術だね!これは幸先がいい……威力は十分あるけど溜めが長いのは課題かな?がんばれ!」

「押忍ッ!」


 響も空同様に褒め言葉と飴を受け取る。2人の拙いながらも確かな成長を感じて悠は満足気に笑う。と、同時に何かを思い出したような表情になる。


「あ、響はもうこの技の名前決めてる?」

「え?いや特につけてないけど……なんか関係あるんスか?」

「うん、名前も陰陽術にとって重要な要素だよ」


 聞き返した響に悠は頷き、教師らしくジェスチャーを交えて解説していく。それを響と空は想像を膨らませながら興味深く聞いていく。


「名前は頭に浮かべたり口に出す事で術の想像を補助する効果があるんだ。んで、それによって威力とかが軒並み上がる。分かりやすく言えば『言霊』が力を貸してくれるんだね。詠唱もこれに当たるよ」

「詠唱……結界貼る時に言ってた奴か。名前に詠唱……パッとは思い浮かばねぇな」

「そこはテンション上がる奴にしろよ〜?陽力の質も上がるからな」

「質……?」

「あ、こっちもまだ言ってなかったか。陽力には質があるんだよ」


 陽力を生み出す際に使い手の気分が乗っている時は質が良く、逆に気分が優れない時は陽力の質は低下する。質が良いと少ない陽力で通常以上の力を持つ術を使う事ができ、質が悪いと通常以上に陽力を消費する。


 一説には感情が関係してるとも言われているが、まだまだ研究中の段階である。天陽院の制服の指定が緩いのも生徒の気分を上げる為だったりするのだ。


「要点まとめると……①陰陽術は術者自身がイメージしやすい名前や詠唱の方が強くなる。②気分が良いほど陽力の質が良くなる。③質が良い程少ない陽力で強力な陰陽術を作れる……って覚えとけばいいよ」

「なるほどなぁ……じっくり考えるか」

「そうしろそうしろ〜。あ、そうだ。寮の方に制服届いてると思うけど、服装もそんな感じの理由で自由に着こなしていいからな?なんなら改造を依頼できるから、詳しくは陽那に教えて貰うといいよ」

「うむ!この陽那ちゃんに(まっか)せなさい!飛びっきりカッコ良い制服にして気分爆アゲしようね!」


 悠に話を振られた陽那はそう言って胸を張る。


 確かに金髪の毛先を桃色に染めたり、カーディガンを腰に巻いたりやルーズソックスを履いた陽那はこの中で一番自由な服装をしており、これでもかと説得力があった。


「どうするどうする?長ランとか?腕に五本ぐらい数珠付ける!?」

「派手すぎんだろ!?しかも邪魔そう……!もっとこう、ワンポイントにするとかさぁ!?」

「ははは!楽しそうでなによりだ。じゃ、用事あるから俺はこれで。みんなはゆっくり休んでな」


 響と陽那の漫才のようなやり取りに笑った後、悠は4人を改めて労いその横をすり抜けて行った。その背を見送った4人もまた寮へ戻るのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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