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第138話 肉体変化

 不磨(ふま)長久(ながひさ)の『改造』。その対象は肉体。長久は肉体を弄り作り替える事が出来る。


 それは方向性を決める事ができるが、必ずしも望んだ通りになるかは分からない。適正や意志の強さにも左右されるのは長久の過去の経験から分かっていた。


 今回は勿論、強靭な体の一点。陽力炉心を犠牲に。それはもう受け入れたリスクだ。


 響も止まらない。長久も止まらない。


 阿栖羅(あすら)に勝つ為の体が出来るまで。


「うぐっ!ぐあっ!があああぁぁぁっ!」


 響の絶叫が大空洞に響き渡る。響は肉体がグチャグチャにかき混ぜられるような感覚を味わっているので、そうなるのも仕方がなかった。


「響くん……!」


 あまりの痛々しさに陽那と空は目尻に涙を溜めて目を逸らす。秋も歯噛みし、そうなるしか無かった自分の弱さを恥じるばかりだ。


 そんな中、久遠が立ち上がり腕を組んで改造を見守る阿栖羅と対峙する。


「君、短気でしょ?長久を直ぐに連れ去ったもんね。だから5分も待てないでしょ?」

「ああ、2分経って奴の体がそのままなら、お前らを1人ずつ殴っていこうと思ってな。そうすれば早まるかもしれない」


 久遠の懸念は当たっていた。


「そんな事させない。ボクの全霊をもってしてね」


 久遠が右目に手をかざすと、その瞳が輝いた。そして膨大な陽力を溢れさせる。


「ボクの瞳は陽力を貯蓄する力がある。そして……」


 両手で刀印を作り、左は胸の前、右は宙に五芒星を描いた。すると、阿栖羅を囲うように光る華紋が現れた。


全方位連続掃射ぜんほういれんぞくそうしゃ彩華(さいか)』急急如律令」


 言霊を受け一斉に砲撃が開始される。それは木、火、土、金、水の5色の輝きを放ち、包囲の中心で爆ぜる様子は花火のようにも見えた。


「す、すごい……!」

「でも待ってくれ。奴に術は効かない筈……」


 驚嘆する陽那の横から秋が疑問を呟く。すると久遠が肩越しに振り返り、五芒星の宿った瞳を見せながらそれに答えた。


「うん、効かないよ。でも正確に言えば傷つかないんだよ」

「……?じゃあ今その光の中はどうなって……」

「響くんが糸で奴を拘束したのは覚えてるかい?」


 秋達は思い出す。確かに焼き切れはしなかったが、糸は奴に絡まっていた。


「っ!そういう事か!」


 秋はもう気づいたようだ。まだ分かっていない陽那や空に久遠は答え合わせをする。


「傷つけられないけど、干渉自体はできるんだよ。だから僕は全方位から絶え間なく術をぶつけてその場に固定しているのさ」


 それは陽力に素の物理攻撃が当たった時の挙動に似ている。ダメージは受けないが怯みはする。阿栖羅の肉体は強靭過ぎるので怯んで無いと思われていたが、そういう訳ではなかったのだ。


 現に今、阿栖羅はその場に抑えられている。


「本当は地面に埋めるとかが楽なんだろうけど……生半可なのは掘り進められそうだしね。これが確実だと思う」

「ククク……考えたな久遠とやら」


 阿栖羅は全身を術に撃たれながら声を発する。


「さて、これは何分持つ?陽力とやらにも限界があるだろう?」

「……凡そ5分間」

「改造と同じ時間か……さて、本当に5分通り時間を稼げるか、5分以内に改造が済むか見ものだな」


 阿栖羅はあくまで余裕飄々とした声。久遠は額から汗を伝わせていた。


(目の貯蓄陽力を使ってるとは言え、奴を足止めするには奥義である最大火力の全方位連続掃射が必要……それで果たして持つかどうか……)


 五芒星の宿った瞳で改造を受ける響を一瞥する。肉体は痙攣し、絶え間なく絶叫を発している。


(信じてるよ……白波響)


 信頼を胸に抱きながら前を向き、術に集中する久遠であった。


 そして5分経過した。


「はあっ!はあっ!はあっ!」


 大きく息を吐く久遠。瞳から五芒星は消え、阿栖羅を取り囲んでいた砲撃は止み華紋も消えた。奥義の限界時間だ。


 久遠は奥義の負荷を受け、脳は想像力が低下、陽力炉心は大きく出力を落とす。しかし陽力は瞳の貯蓄が尽きてからは直接陽力炉心から供給された。


 そしてそれもほぼ尽きかけている。もう阿栖羅を足止めできる手段は無かった。


「ふん。改造は……間に合わなかったようだな」


 煙をその手で払った阿栖羅が一瞥する。焦った顔の長久の前には最早声を発する事も無い響が小さく痙攣している様子が映った。


(声を発さなくなったのは最終段階に来ているから……だが、もう奴は動けるようになってしまった……!)


 歯噛みする長久。それからつまらなそうに視線を外した阿栖羅は、膝に手を着いて立つ久遠を見つめる。


「では、1人ずつ蹂躙していこう。そうすれば奴の改造も早まるかもしれないからな」


 その巨体に力を入れる阿栖羅。纏う空気は陽力を蜂起したように力強く、それ以上に恐ろしい。


「させるか……!」


 秋が阿栖羅へと走り出す。しかしそれ以上に早く阿栖羅は久遠の前に現れた。そしてその太く強靭な腕を構え、久遠に拳を放った。


 絶体絶命の瞬間、久遠は目を伏せる。だが、次に目を開けた光景は驚くべきものだった。


「ぐっ!」

「え?」


 苦悶の声に目を開ける久遠。その瞳には、拳が届くよりも早く、阿栖羅の顔面に蹴りを入れた響の姿だった。


「うらぁっ!」


 阿栖羅は蹴り飛ばされ、大空洞の柱にぶつかる。


「響、くん……」

「おっと」


 響はふらつくくの体を支える。久遠はゆっくりと顔を上げ、響を覗きこんだ。その顔は自信に満ちた響の顔だった。


「安心してくれ。もう大丈夫だ」

「そっか……間に合ったんだね。長久……」


 振り返る久遠。長久は反動で大きく息を吐いていた。響は久遠を抱え、2人を引き合わせる。


「久遠。ギリギリだったが……確かに改造したぞ」

「うん、お陰で助かったよ。流石ボクのビジネスパートナーだ」

「フッ……お前を支えるのが私の仕事だからな」


 久遠と長久は柔らかく微笑む。そして長久は響を見上げて言う。


「仕事は果たした。後はお前に託す」

「ああ、ありがとう。2人共……後は任せとけ」


 響は力強く述べると、振り返って歩を進める。その背中を見て陽那と空もまた安心する。それと同時に、陽力を捨ててしまった事を考えると目が潤むのだった。


「秋」

「響……まさか僕を追い越して久遠さんを助けるとはね。でも、それなら大丈夫そうだ。勝つって信じてるよ」

「おう、皆を頼む」


 すれ違いざまに上げた右腕を軽くぶつけ合った。阿栖羅も既に立ち上がって響へ向かって歩いてくる。


「随分変わったな。その力、見せてもらおうか」

「存分に見せてやるよ。直接ぶつけてな」


 こうして2人は再び対峙するのだった。

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