第136話 阿栖羅-あすら-
2mはある巨躯とトゲトゲしい白い長髪、半裸の袴の男が響達に立ちはだかる。
「くっ! 『火波』!」
響は抜刀し、刃から炎を放出して先制攻撃を仕掛けた。それは直撃する。しかし……。
「フン……」
「っ!」
まるで無傷だった。防御した様子も無かったにも関わらず。
「折角来た客人だ。もてなしを受けていけ」
大男はその大きな掌を広げ、扇のように振るい、突風を巻き起こした。それにより一同は瞬く間に奥に飛ばされ、大空洞へと入るのだった。
「くっ! めちゃくちゃだな! みんな、大丈夫か?」
響は悪態を着きながら立ち上がる。他の者も大した怪我は無く、ゆっくりと立ち上がった。入口からは大男が悠々と歩いてくる。
「お客人。先ずは自己紹介と行こう。オレの名は阿栖羅。お前らは?」
阿栖羅と名乗る大男は有無を言わさぬ威圧感を放つ。一同は警戒しつつ、順番に名を名乗っていった。すると……。
「ふむふむ……いい名前だ! これでオレ達は知り合いとなったな!」
突然喜び叫び出した。それに一同は驚愕し困惑する。
「いやはや、人と話すのはそれこそ数年ぶりくらいか? この世界に来てからは『影』とばかり会っていたからな。人も姿を見ては逃げる者ばかり……だからお前達が来てくれてオレは嬉しいぞ」
「な、なんなんだ……?」
「……さあ?」
響の呟きに聡明な秋も答えを持ち合わせていない。阿栖羅は話を続ける。
「さて、ここから本題だ。オレは何故そこの男……長久を攫ったか分かるか?」
「強くなりたいんだろ? ボク達を襲った時に君が言ってたじゃないか」
久遠は睨み、陽力を滾らせながら阿栖羅に言う。
「ああ、そうだったそうだった。という訳だ。そちらの長久とやらをよこせ。そしてオレの役に立て。これは絶対だ」
「……嫌だと言ったら?」
「長久を残して他は死んでもらう」
久遠の言葉にそう言って阿栖羅は目を見開く。その眼力だけで響達は足がすくむ程の圧を感じ取る。だが、依頼を受けた以上、長久は渡せない。だから陽力を練り、戦闘態勢へと移行する。
「それが答えか。なら……少し遊んでやろう」
阿栖羅は踏み込んだ。その速度は極めて早い。その速度を乗せた拳を響達の手前の地面に放つ。衝撃波により響達はバラバラに浮かされた。
「1」
「っ!」
数字を言うと共に宙に浮く響の前に姿を見せる阿栖羅。その蹴りが響を襲い、岩の柱に叩きつけられる。
「がっ!」
「響! ……っ!」
「2」
「ぐふっ!」
響へ叫ぶ秋の前に阿栖羅はまた高速で現れる。今度は拳を放ち、響と同様に柱へ殴り飛ばした。
そのまま同じようにカウントと共に動き、瞬く間に一同に攻撃を当てるのだった。倒れ伏す響達。
「おいおい、これじゃ遊びにもならないぞ?」
退屈そうに肩を落とす阿栖羅。その隙に響は背後を取った。縮地による高速移動だ。
「はあっ!」
「ほう?」
炎を纏った刃を振り下ろす響。阿栖羅はそれを腕で受け止めた。響は止められた事で一旦離れる……ように見せかけて縮地で急接近した。
「うおおおおっ!」
炎の軌跡を幾つも生む連続攻撃を繰り出す。それは阿栖羅の全身に浴びせられた。だが……。
(硬すぎるだろ!)
まるで効いていない。
「ならよぉ!」
響は火波を繰り出し、視界を塞ぐ。そしてより強く踏み込んだ。
「天刃流……『天雷』!」
雷の性質を持つ炎の刃が阿栖羅の右肩に直撃する。しかしこれも無傷。
「ふむ? 何かしたか?」
「まだだ!」
響は負けじと炎を込める。
(どんだけ堅くても、喰らい続ければどこか緩む筈だ!)
そして唐竹『天雷』、袈裟斬り『叢雨』、逆袈裟『砂塵嵐』、左袈裟『断雲』、左逆袈裟『地吹雪』、横一文字『紅霞』、逆風『陣風』を振るう。そして最後に刺突『箒星』を連続して放った。結果は……。
「終わりか?」
無傷。8種の斬撃の連続攻撃にも関わらず、どの攻撃でも阿栖羅の体が緩む事は無かった。
だがまだ終わりではない。
「ひーちゃん! しーちゃん! やまちゃん!」
陽那の号令の元、ヒグマ、獅子、山羊の式神が阿栖羅を襲う。
「式神か……烏合だな」
3対の式神それぞれに1発ずつ拳を入れる。すると白い粒子となって消えていく。
「そんな!? 一撃で……!」
恐るべき力に驚愕する陽那。だが気は逸らせた。
阿栖羅の足元にいつの間にか護符が撒かれていた。それは予め空に託し、風で送って貰うように準備していたもの。護符は輝き、炎の糸を出して阿栖羅を拘束した。
「秋!」
響自身も指から糸を飛ばし、阿栖羅の拘束している糸に絡ませ秋へと届けた。
「喰らえ!」
秋は糸に電流を流す。それは拘束した所まで一瞬で届き、阿栖羅を攻撃した。
「ぬっ!? うううっ!?」
僅かに悶える阿栖羅。動きが止まったのを確認し好機と見る一同。
「『水禍豪球』!」
「『風征鶴唳』!」
「『断罪流刃』!」
陽那の水球、空の暴風、久遠の水刃が阿栖羅に一斉に襲いかかる。それは着弾し、大きな衝撃を巻き起こす。攻撃はこれだけでは無い。
「『天網雷華』!」
「『焔大太刀』!」
秋の雷が、響の巨大な炎の刃が追撃した。
轟音が大空洞の中に鳴り響き、破片や土煙が辺りに舞う。
「はあ……! はあ……! どうだ!」
「……」
煙が晴れた時、そこには仰向けに倒れ伏した阿栖羅の姿があった。
「やった!」
陽那の声に呼応するように各々喜びを露わにする。大技の5連撃だ。人の形をしているのは驚きだったが、響達は勝利を確信した。
久遠は傍にいる長久に語りかける。
「長久、怪我は?」
「俺は殆ど攻撃を受けてない。奴の目標だったからな。だから他の者の傷を治してやれ」
「うん、そうするよ」
久遠を送り出す長久。その瞳は倒れた阿栖羅を眺めていた。
「響くんやったね……!」
「ああ。いってて……! 1発が重すぎるだろ……!」
駆け寄る陽那に響は痛みに顔を歪めながら返す。実際に阿栖羅の力は凄まじかった。
(みんなが居てくれて良かった。そうでなきゃこの程度で済まなかったな……)
「でもなんとかなって良かったよ」
「うん。響くんの護符ちゃんと送れて良かった」
他の者も響と同じ気持ちだ。
「みんな! 傷治すよ!」
「あ、あたしも治癒できる!」
久遠と陽那は皆の傷を治していった。最後に長久が回復したのを見て一同はホッと胸を撫で下ろす。
「そんじゃ早いとこ出よう。さっきので崩れてきたら嫌だし」
広いとは言えここは地下深く。戦闘の余波に耐えられるかは未知数だ。だからその判断は正しかった。
だが、誤算があるとすればもっと別の所だ。
「……待って!」
出口に歩き出そうとした時、久遠がいの一番に異変に気がついた。それは倒れている阿栖羅の遺体。その掌が……地面を向いていた。
(仰向けに倒れた……! 手は天井向いてた筈!)
響は再び抜刀する。他の者も戦闘態勢に入った。その時、ゆっくりと阿栖羅の体は動き……立ち上がった。
「ふぅ、よく寝た」
そしてそんな寝起きの一言を呟くのだった。
戦いはまだ終わってはいない。
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