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第132話 謎の少女

 9月。

 夏の残り香を感じる中、響は哨戒任務で影世界へと訪れていた。響含め陰陽師5人で探知結界の外を巡回だ。事前に決めたルートを警戒しながら行く5人。


 響はこの前の四神決戦にて武勲あげたことで第()位に昇格していた。今いる5人の中で1番位階が高い。だがリーダーは別で、ベテランの第(ろく)位の男性陰陽師だ。


 小隊指揮には単純な実力より、哨戒や護衛時での判断力が特に重視される。故に、位階が下でも上のものを動かす立場になるのだ。


 響は最近の任務では、個人的に指揮能力も学べるように意識していた。


「よし、ここら辺は大丈夫だな。次に行くぞ」


 リーダーの長江(ながえ)遼太(りょうた)はポイントの索敵を済ませて新たな指示を出す。響達はそれに頷き、その後を追う。


 リーダーの遼太は響の索敵能力を評価しているが、それはそれとしてしっかりと目や耳、索敵術で調べる。石橋を叩いて渡るタイプだ。


(この人が指揮する部隊で負傷者が少ないという噂も納得だ)


 事前の聞いた噂の実態を知る響。自身も索敵しつつ、遼太の細かい指示出しや索敵の手際も注意深く観察するのだった。


「っ!」


 そんな時、響の耳に不快な音が届いた。


「遼太隊長!北西側、600mくらいに『影』が!恐らく10体……全部巨影です」


 すぐさまリーダーへだいたいの方向、距離、数を伝える。遼太の指示を真似て見たが、しっかりと伝わったようだ。


「分かった。そちらへ向かうぞ。索敵は怠るなよ」

「「はい!」」


 響達は北西へ向かうのだった。


 暫く走ると、響以外の探知範囲にも『影』の存在が引っかかる。


「確かに『影』だ。流石響だな」

「ありがとうございます」

「もう見えるな?接敵と共に散開!互いに援護可能な適切な距離を保ちつつ各個撃破せよ!」


 遼太の指示に従い響達はバラけ、各々『影』へ向かっていく。


「行くぜ……加具土命丸(かぐつちまる)


 響は新たに名付けられた愛刀を握り、勢いよく抜刀する。響に呼応するように刃は炎を纏う。そのまま響は『影』に向かって駆け出した。


「ギュオオオッ!」


『影』は巨影らしい野太い声を発しながらその腕を振り下ろす。響はそれを軽やかに回避し、腕を駆け上がってその顔面へ迫る。


「はあっ!」


 そのまま縦に顔を斬り裂いた。響は塵になり出した『影』を土台に跳躍し、鎧を纏ったような『影』に迫る。


「『焔弾』!」


 刀印を銃のようにして炎の弾丸を放つ。それは鎧の『影』の顔面に直撃し、装甲を剥がしその素顔にもダメージを与える。おどろおどろしい素顔がうらめしげに響を睨む。


 それに臆する事無く縮地で接近し、瞬く間に『影』を斬り裂いた。


「よし……っ!?」


 その時、新たに『影』の気配を感じ取る響。それも、黒板を引っ掻くような甲高く極めて不快な音。


 十中八九『影人』だ。


「遼太隊長!北、600mから蛇行しつつ高速で『影人』が接近中!」

「なんだと!?」


 驚愕する部隊のメンバー。すると、その隙を付いて『影』は腹からから棘を飛ばし、もう一体は口から火を吹いた。間一髪彼らはそれを回避する事が出来た。


 しかし、このまま能力や術持ちの相手をしていては『影人』と接触する。だが他にも『影』がいるので背を向けるのも危険だ。


(俺以外は第陸位……!彼らは『影人』の相手はそもそも無理だ)


「隊長!俺が『影人』抑えます!こちらの対処を優先して下さい!」

「ああ、ちょうど頼もうとした所だ。だが『影人』の位階は肆以上……無茶するなよ」


 聡明な隊長の遼太と響の考えは一致する。響は指示を受け『影人』を迎え撃つべく北へ走るのだった。


(……?さっきからなんだこの軌道?まるで何かを追ってるみたいな……)


 響は目まぐるしく動く気配の主に疑問を抱く。高い建物に登ると、気配の方向に輝きを纏った軌跡が見えた。それは家屋を次々薙ぎ倒して進んでいく。


(陰陽術!もしかしたら誰か戦ってるのか?)


 響は考えられる可能性を考慮しつつ急ぎでその元へ走る。気配とは別に激しい破壊の音が響く。その音を生む者の姿がギリギリ遠目に見えた。


 黒い蜘蛛。


 だがただの蜘蛛じゃない。蜘蛛の体から黒髪の女の上半身が生えていた。異形の蜘蛛女は手にした漆黒の大鎌を振り回し、赤い炎の斬撃を放っている。


 それは闇雲に振っているように見えるが、そうでは無い。蜘蛛女の進行方向に逃げる少女を襲っているのだ。


「はあっ!はあっ!しつこいなぁっ!」


 赤のブレザーと白黒のチェックのスカートに身を包み、長い黒髪にスカートと同じ柄のカチューシャを付けた少女。


 その身は陽力を纏っているが、陰陽師らしからぬ格好だ。いや、それは響もそうだが、天陽院や陰陽総監部の所属を示すモノは最低限付ける規則だ。だがそれも少女には見当たらない。


 彼女は飛ぶ斬撃を転がるように、もしくは飛んで回避し、お返しに陰陽術の水球を幾つか放つ。しかしそれは容易く鎌に切り裂かれる。


「アラアラアラ!水遊びかな!?」


 蜘蛛女は笑いながら何度も斬撃を飛ばす。少女は建物に隠れるが、それすら斬り裂いて少女を襲う。


 飛び込むようにして間一髪避ける少女。息はどうしようもなく上がっており、動きも鈍くなっている。


「さあさあ!無様に逃げろ!」


 蜘蛛女は一層楽しそうに少女を追い立てる。襲いかかる斬撃を避け、少女は路地を曲がった。しかし……。


「っ!」


 そこは袋小路だ。


「アラアラアラ。私がただ追いかけてると思った?」


 そう、全て蜘蛛女の策略。飛ぶ斬撃で少女が逃げる場所を制限し、この袋小路へと追い込んだのだ。


「ほら!」


 4つの斬撃の重ね打ち。少女は水の膜で防御するも、防ぎ切れなかった。腹部と右足から赤い血が吹き出る。


「くぅ……!」

「もっと泣き叫べぇー!でないと陽力の質が落ちるから!」


 蜘蛛女は蜘蛛の下半身を動かし恐怖を煽る。少女はそれに懸命に睨み返す。だが満身創痍で何ができるのだろうか。


「アラつまらない。ないわー」


 その様子に蜘蛛女は肩を落として落胆する。一気にやる気をなくした態度だが、それに反して大鎌をもたげた。


「もういいホント飽きたー。大人しく死んどけよ。最後は直接この鎌で終わらせたげるからさ」


 ワシャワシャと気持ち悪く蜘蛛の足を動かして接近し、彼女へ大鎌を振り下ろす。


 しかし、顔面に炎の弾を受けてそれは阻止された。


「な、なに!……っ!」


 狼狽える蜘蛛女の周りに護符が舞う。そしてそれは輝き、赤く光る糸が飛び出て蜘蛛女を地面に縫い付けた。


「え?わっ!」


 困惑する少女の体が引っ張られる。路地の傍の建物まで引き寄せられ、やがてその身は響によって抱えられた。


 少女は顔を上げて響の顔を覗く。


「遅くなってごめん。大丈夫か?」

「き、君は?」

「俺は白波(しらなみ)響。陰陽師だ」


 丁寧に名乗り、安心させるように微笑む。そして眼科の蜘蛛女には冷たい目で見下ろした。それに蜘蛛女は憤慨する。


「な、なによあんたー!いきなり出てきて邪魔すんなクソボケェ!人の獲物横取りしてー!しかも糸?私への当てつけか!」

「偶々だ。なんでこの子を狙ってんのか知らねぇが……『影』は倒すだけだ」


 響が言い終わるや否や、蜘蛛女を拘束する糸は輝きを増す。


「なっ!ちょっ!熱い熱い熱い!」

「『火糸(ほのいと)赤熱斬糸(せきねつざんし)』」


 言霊を受けて糸は更にくい込み、蜘蛛女の体を焼き切っていく。


「こ、のぉっ!」

「っ!」


 蜘蛛女は全身から炎を吹き出し、自身が焼かれるのも厭わず逆に糸を焼き切った。


「アラアラアラ!この程度で、この荒苦音(あらくね)様を殺せると!?」


 陰力を使って切り傷や火傷を再生させていく荒苦音と名乗る蜘蛛女。


「そりゃそうか……じゃ、逃げる」


 響は恨めしげな荒苦音を置いてその場を去る。今は少女を抱えているのだから、その安全が確保できるまでは戦いずらい。


 屋根を駆けながら響は少女に問いかける。


「あんた、自分で治癒できるか?」

「あ、できるよ。でもボク、治癒はそこまで得意じゃないから時間かかっちゃうんだ」

「なるほど、じゃあこのまま治癒を……」


 会話の途中で響は気配が近づくのを感じた。振り返ると荒苦音が毛もくじゃらの蜘蛛の足で壁を伝い、響らを追いかける姿が見えた。


 響はその気色の悪い姿に思わず顔を歪ませる。


「逃がさない!」


 大鎌を振るい、飛ぶ斬撃を放つ。響はそれらを軽やかに躱していく。だが攻撃はそれだけでは無い。


「ブバァッ!」


 下半身の蜘蛛の口から糸を吐き出した。響は縮地で回避し、屋根から地面へと降りる。だが追撃は終わらない。


「ブシャアアアッ!ブシュッ!ブッシュッバッ!」


 連続で糸を吐いていく。範囲も広く、進行方向を塞がれてしまった。足を止める響。


「今だ!死ね!」


 荒苦音は体内で合成した毒液を吐き出した。これまた範囲が広く、回避は難しいだろう。それが分かっている響は少女を地面に下ろす。


 そして振り向きざまに抜刀した。すると刃から豪炎が吹き出し、毒液を一瞬にして蒸発させてしまった。


「なっ!なによそれ!」

「『火波(ほなみ)』」


 刃を振るう響。文字通りの火の波が荒苦音を襲う。ギリギリで屋根から飛び降りる事で難を逃れた。


 響は地面に座っている少女に振り返り、4枚の護符で囲うようにする。するとそれは輝き、『四方陣』という結界となった。


「そこで治療続けてくれ。安心しろ……あいつの術は1発も通さねぇから」

「う、うん……」


 響は安心させるように微笑む。そして背中を向け、荒苦音に向き直るのだった。荒苦音はまさに怒髪天と言った様子。


「許さねぇ……!舐めた人間め!お前らは私の餌!経験値なんだよ!黙って死んで陽力寄越せぇ!」


 傲慢な言葉を狂ったように叫ぶ荒苦音。それに対して響は極めて冷静だ。


「知らねぇよ。だが、お前が理不尽に人の大切なもん奪うなら……陰陽師として倒すだけだ」


 己の教示、陰陽師としての責務を胸に、目の前の蜘蛛へと刃を向けるのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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答えられる範囲でゆるく答えていきたいと思っています。

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