第129話 夏季休暇は海辺で
第1級陰陽戦犯である来朱緋苑の起こした四神決戦から1週間。
陰陽師達には順番に特別休暇が与えられるのだった。響ら天陽院のメンバーも同様である。そして彼らは東京から遙か南の沖縄へ訪れていた。
そこは東京以上に夏らしい日照りが降り注ぐ。だが2泊3日の旅は、そんな熱さに負けない期待感が一同にはあった。
宿のチェックインを悠と真帆の大人の教師に任せ、学生達は水着に着替えてビーチへと赴くのだった。
ビーチは昼前にも関わらず賑わいを見せている。
先に着替えを済ませた男子達はパラソルを建て休憩所を作っていた。そこに女子達が遅れてやってくる。
「海だー!」
ビーチに入り、いの一番に陽那が叫ぶ。陽射しを反射して輝く白い砂浜、どこまでも続く蒼い海に目を輝かせる。それは先に来た男子らも同様のリアクションであった。
「やっほ響くん!やっぱり男子は早いね!設営任せてごめんね?」
「いやこのぐらい……」
陽那に声をかけられた響は振り返る。気にしていないと伝えようとしたその言葉は途中で止まる。
陽那は桃色に白の星柄が入った三角ビキニを纏っていた。空、文香よりは控え目だが確かにある胸の谷間が主張している。そして下半身は少しムッチリとした白い太腿が日差しを受けて眩く見える。
金髪やその毛先が桃色であったり、金の尻尾という陽那自身の特徴も薄着でより一層映えて見える。現に響はそれに見蕩れてしまう。
「どう?水着似合ってる?」
「お、おう……可愛いぞ」
「ありがと♪空ちゃんと一緒に選んだんだ〜♪」
たどたどしくも褒める響の言葉に陽那は明るく微笑む。そして視線を横の空に移す。
バスト、ウエスト、ヒップのどれを取っても高水準で均整の取れたスタイルの空。白の生地をベースに青の花柄模様やフリルがついたセーラー水着を着ている。空の黒髪にメイビーブルーのインナーカラーもより一層輝いて見える。
「あ、えと……どう、かな?」
「空もめっちゃ似合ってるぜ」
控えめに問う空に響は真っ直ぐ目を見て本心を伝える。ちょっぴり不安そうだった表情は柔らかく微笑みに変わる。
「えへへ♪嬉しい……♪」
「……」
ふと、響の視線は空の唇に向く。艷めき、柔らかそうな少女のそれ。響の脳は1週間前の記憶を甦らせる。
空が突然響にキスした時の記憶だ。
(って何思い浮かべてんだ俺は……!空も親愛って言ってたし、そうでなかったならアレは何かの間違い……事故とかそういうもんだって……)
幾度目かの自重をして自身の浮ついた気持ちを押し殺す響。幸いにも空はそれに気がついて居ないようで、響は胸を撫で下ろす。
そうしていると文香も響の元へ歩み寄ってきた。
「あら、響くんも赤と黒の水着似合ってるわね」
「あ、ありがとうございます。文香さんは大人っぽくていいッスね」
「フフッ♪どうもありがと」
文香は銀髪とは対照的に黒レースのパレオで、本人の落ち着いた大人っぽい性格を表しているようだ。巫女服風制服で着痩せしていた胸は道行く人の目を引いてしまうだろう。
「それにしても響くん筋肉すご〜!」
「そうか?陰陽師なら普通だと思うけど……」
「いやいや〜。体質的に筋肉付きやすいのかな?でもバランス良くてすごーい!」
陽那にジックリと観察される。響自身は、陰陽師は肉体面も鍛えるからみんな同じだと考えていた。だが褒められて悪い気はしない。
「触っていい〜?」
「じゃ、じゃあ私も……」
「おう、いいぜ」
気分が良いので快く許可する。陽那と空は手を伸ばし、腹筋をつついたり腕に触れる。
「おお〜!カッチカチだね!おもしろーい!」
「すご……改めて見るけど腕も、指先まで太いね……」
「あんまり触ると困っちゃうわよ?」
夢中で触る2人に文香が優しく注意する。響自身も流石にむず痒くなってくる。
「あの……そろそろ……」
「もうちょっと触ってたかったけどな〜?ま、海入ろっか♪」
「そ、そうだね!響くんありがとう」
「おう……って秋は何してんだ?」
解放された響はパラソルを眺めている秋が目に入る。近くに行くと何やらブツブツ言っている。響の接近に足音で気がついたようだ。
「ああ、響か。さっき指したパラソルに納得がいかなくてね。太陽の方角から計算してパラソルの角度を調整、全部のシートを日陰に入るようにするにはもう1個の方も5cmは調整しないとねって」
「めっちゃ細かいな!?日陰なんてどうせ時間でズレるんだからそこまで気にするか普通……?」
あまりの几帳面さに驚愕する響であった。
「臣也先輩は……早速ナンパしてる!?」
遠くで女性をナンパしている臣也を見つけ驚愕する。そして遠目でも断られて崩れ落ちる様子が分かった。
それには文香も呆れ返る。
「相変わらずね……あいつは放っておいて楽しみましょ?準備運動はしっかりね」
「そうですね。そうしましょう」
遅れて合流した悠と真帆に荷物を任せ、一同は本格的に海へ入るのだった。
賑やかな声と共にビーチボールが宙を舞う。それを弾く度にパシャパシャと水が跳ねて太陽の光を反射する。
「へい、文香さん!」
「OKよ!」
陽那のトスからの文香のアタック。
軌道の先は空が居る。彼女は読んでいたとばかりに両腕を合わせており、レシーブの準備は万端だ。
「えい!」
ビーチボールを捉える空。
しかし、空気抵抗により減速したビーチボールはブレて右腕だけに当たり、ボールはあらぬ方向……響の方に飛ぶ。
「ぐはっ!」
予期していない軌道により、ボールが響の顔面にクリーンヒットする。ボールは沖の方向に飛んで流され、彼はそのまま水飛沫を上げながら倒れた。
「ひ、響くんごめん!」
「アッハハハ!すっごい倒れ方したね今!」
「だ、大丈夫……!って陽那は笑いすぎだろ!?」
響は陽那にツッコむが怒った様子はなく、むしろ直ぐに笑いながら泳いでボールを取りに行く。
「あ、そうだ♪」
陽那はその背を見て何か思いついたようだ。ニヤッと口角を上げる様子はイタズラを思いついた子供のそれだ。
水面に浮かぶボールを取った響。
「よし、投げるぞー?」
そう言って力を込めて投げる。ボールは弧を描き空の手の中に収まった。
「ありがとう!」
響は空の感謝の言葉を聞き、ビーチの方に泳ごうとする。すると足元から気泡。そして明るい金色の何かが水面に近づいてくるのが分かった。
「ばぁっ!」
「うおぉぉっ!?」
海中から近づいてきた陽那が響の目の前に飛び出した。そのまま陽那は彼に倒れ込む。密着した2人はそのまま海中に沈み、暫くするとゆっくりと海面に浮かび上がった。
「ぷはっ!ひ、陽那ぁっ!?」
「えへへ〜!びっくりしたぁ〜?」
「そりゃねぇ!?」
イタズラが成功し無邪気に笑う陽那。
(ていうか近い!当たってる...!)
イタズラと、陽那の柔らかな胸が触れることで響の心臓は二重の意味で鼓動が早くなる。このまま居るとどうにかなってしまいそうだとも感じる。
「ごめんごめん!さ、戻ろう?競走ね!」
響から離れ、今度は勢い良く飛沫を上げながら泳いでいく。それを顔面にくらいながら海に浮かぶ響。
「自由すぎだろ……!」
いつも以上に元気溢れる陽那に振り回されっぱなしの響だった。
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